第21話 レオンvs教団幹部
湖畔に張り詰めた空気が漂っていた。
夜の静寂は、嵐の前の静けさのように重く、痛いほど澄んでいる。
月光が水面を照らし、揺れる波紋が二人の影を映した。
風が止まり、世界が呼吸を忘れたような一瞬。
黒衣の男の瞳が、冷ややかに光る。
「なるほど……位置を入れ替えたか。面白い」
レオンは肩幅を広げ、両拳を握り締めた。
拳の先に微かな白光が宿り、じわじわと熱を帯びていく。
「リアムの代わりに俺が相手をする。覚悟はいいな」
黒衣の男は口の端を歪め、低く指を鳴らした。
「器の回収は遅れるが……予定通りだ。
ここからが本番だ。」
湖畔の風が強まる。
木々がざわめき、空気が雷のように震え、二人の間に見えぬ圧が走った。
レオンが一歩踏み出す。
その足音が大地を震わせ、砂が微かに舞い上がる。
黒衣の男も呼吸を整え、同調するように構えた。
静寂を切り裂くように、レオンが低く呟く。
「――行くぞ」
拳が閃光のように宙を走った。
白く光る一撃が、男の胸元を狙う。
しかし男はわずかに体を逸らす。
拳は空を裂き、月光の中に残像だけを残した。
「見事だ……だが、それだけでは足りん」
男の指先が動いた瞬間、地面に符号が浮かび上がる。
雷光が地を這い、轟音が湖面を揺らした。
レオンは瞬時に跳躍し、稲妻をかわす。
雷撃が大地を焼き、夜空に閃光が散る。
「……こいつ、相当場数を踏んでるな」
黒衣の男は薄く笑った。
その動きには一切の無駄がなく、まるで戦場を支配しているようだった。
レオンは息を整え、拳を繰り出す。
拳が月光を弾き、次々と軌跡を描いた。
だが、黒衣の男は風のように舞う。
その身は捉えられず、掠ることすら許さない。
「避けるだけか……!」
問をなげかけながら、レオンは軌道を変えた。
狙いはただ一つ、男を魔力符号に誘い込むこと。
男はそれを察し、即座に身を沈める。
互いの読み合いは、もはや心理戦を超えていた。
水飛沫が舞い、雷光が夜を切り裂く。
光と闇が交錯し、戦場は幻想的な輝きを放つ。
魔法鏡越しにセラがその光景を見つめていた。
「……あれだけの符号を完全に操ってる。
リアムとの戦いでは符号の手札を最後まで
隠していた。厄介ね。」
地面が一斉に光を帯びた。
男の動きが一瞬止まり、レオンは拳に魔力を込める。
「これで……!」
雷光を受け流しながら拳を突き出す。
魔力符号を突き破り、男が初めて後退した。
「……面白い」
低く笑う声が響く。
互いの力と技術が衝突し、空気が震えた。
レオンは次の瞬間、地を蹴り跳躍。
魔力符号の中心を狙い、一撃を放つ。
地面が爆ぜ、雷光が吹き上がる。
男は紙一重で避けたが、その表情には焦りが見えた。
轟音。
閃光。
水柱。
夜の湖畔は、まるで雷神が舞う演舞のようだった。
レオンは拳を構えたまま、目を細める。
月光が彼の背を照らし、白銀の光が体を包む。
黒衣の男は再び魔力符号を展開。
レオンは歩を進め、間合いを詰めた。
「……来い」
二人の声が重なり、雷鳴が夜空を裂く。
「これで決める!」
レオンは全力の拳を放つ。
湖面を蹴り、空中で体をひねる。
稲妻の軌跡が走った。
黒衣の男は即座に指を鳴らす。
地面の符号が活性化し、黒雷が噴き出す。
雷と拳が交錯。
閃光が炸裂し、湖面に反射した光が夜空を焼く。
「避けるだけじゃない!」
レオンは軌道を瞬時に変えた。
残像が二重に走り、敵の視界を惑わせる。
衝突。
爆光。
轟音。
湖水が弾け、木々が波打つ。
レオンが踏み込みを変えた瞬間、男は指を滑らせ、符号を変形させた。
雷光が複雑に反射し、空間そのものが歪む。
「視覚撹乱か」
レオンは目を細め、空中で拳を構え直す。
「なら――俺も、惑わせてやる」
拳に魔力を集中させ、魔力を螺旋状に回転。
光の残像を四方に散らしながら突撃した。
世界が静止する。
風が止み、音が消える。
レオンの拳が閃き、雷光と融合した。
轟音と共に湖面が裂ける。
黒衣の男は飛び退くが、地面が割れ、膝をついた。
「……ここまでか」
男の額に汗が滲む。
想定を超える一撃だった。
「――終わりだ!」
雷光を纏った拳が突き出され、爆発的な衝撃波が空を裂いた。
黒衣の男は吹き飛ばされ、水面に叩きつけられる。
初めて、その瞳に焦燥が走った。
静寂――。
風が戻り、水面が穏やかに揺れる。
レオンの拳はなお白熱し、瞳が鋭く光った。
「……レオン。貴様、強いな」
「それに全力ではなかったようだな」
レオンは拳を下ろし、冷たく言い放つ。
「捕縛する。教団の情報を聞かせてもらう。」
黒衣の男は薄く笑い、懐から小瓶を取り出した。
「ならば――深淵の森へ行け。
そこに鬼人の村がある。」
レオンの表情が鋭くなる。
「なぜそれを……!」
「どの世界でも、情報戦がすべてだ」
瓶が砕け、青白い魔法陣が展開される。
風が逆流し、雷が走る。
「名を名乗ろう。
私は教団最高幹部、バスティル。
次は――本気の貴様と戦おう」
光が爆ぜ、彼の姿は霧散した。
残されたのは、夜空を裂く雷光だけだった。
次回: 報告 ― 闇に集う声 ―
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