第13話 静寂の聖堂、夜風の誓い
──静寂の聖堂。
月の光だけが天井の割れ目から落ち、白い影を作っていた。
レオンは瓦礫を踏みしめ、奥へ歩を進めるたび、靴裏に細かな石が砕ける音が響く。
その音が、つい先ほどまでの戦闘の残滓を思い出させた。
少年の影。
拳を握りしめた、小さな背中。
そして――あの踏み込み。
「……あいつ。」
呟きが漏れる。
目を閉じれば、あの瞬間が蘇る。
◇ ◇ ◇
雷を帯びた剣。その軌道は速く、殺意は鋭かった。
あの距離、あの体勢――普通なら避けられない。
だが。
雷光を裂くように、少年の影が前へ跳んだ。
恐怖もためらいもなかった。
ただ「生きたい」という意志だけが、彼の背中を押していた。
男の目が驚愕に見開かれる。
リアムの額が弾丸のように突き上がり――
ドスッ。
鈍い衝撃音が胸板に食い込む。
男の体が宙を舞い、砕けた壁へ叩きつけられた。
三枚、四枚。壁が砕け、埃が舞い上がる。
その中心で、リアムは――ただ、立っていた。
揺れる膝を、歯を食いしばって押しとどめながら。
◇ ◇ ◇
「無茶を……」
レオンは小さく笑う。
だがその表情には、驚きと、わずかな誇らしさが混ざっていた。
あれは衝動でも、勢い任せでもない。
恐怖で動けなくなる子供がほとんどの中、リアムは違った。
選んだのだ。
生きるために、一瞬の未来を。
レオンは瓦礫に手を触れる。
冷たい破片が指先に当たり、戦いの痕跡を静かに物語る。
◇ ◇ ◇
「……まだ、危なっかしいが」
レオンの視線が、聖堂の片隅、眠る少年へ向けられる。
破れた服。
焦げた袖。
細い腕に残る痣。
それでもリアムの寝顔は穏やかで、胸が規則正しく上下していた。
まるで――あの戦いの痛みを忘れたかのように。
レオンは少年のそばにしゃがみ込み、少し乱れた髪をそっと避けた。
「……及第点、だな」
声は小さく、どこか呆れたようで。
それでも、その奥には確かな温もりがあった。
命を繋ぐための判断。
恐怖の中で絞り出した覚悟。
そして、生きることを選んだ意思。
――三歳の少年が、それをやってのけた。
簡単に褒めてはいけない。
戦いは甘くない。
だが、否定する理由も、もうどこにもなかった。
◇ ◇ ◇
月光がリアムの頬に落ちる。
レオンはその光を見上げたまま、静かに息を吐く。
「……器、か。」
リアムが狙われた理由。
背後に潜む七人の魔女の影。
この子の力を奪おうとする闇は、まだ息を潜めている。
レオンは拳を握った。
責任が、静かに胸へと沈んでいく。
「守るだけじゃ足りない……
自分の力を、自分の意思で使えるように――導かないといけないな」
師として。
戦士として。
そして、ひとりの大人として。
◇ ◇ ◇
夜風が聖堂を抜け、瓦礫を揺らす。
レオンは立ち上がり、崩れた壁の向こうに広がる夜空を仰いだ。
星々が静かに瞬き、世界のどこかで動く“運命”を照らしているようだった。
「覚悟なら……もう、とっくにできている」
低く呟く。
それは、自分に言い聞かせる声でもあり、未来への誓いでもあった。
眠る少年はまだ知らない。
自分がどれほどの力を持つのか。
どれほどの者に狙われているのか。
そして、レオンがどれほど本気で守ろうとしているのか。
だが、いつか気づくだろう。
その日まで――レオンは剣を振り続ける。
◇ ◇ ◇
「……行くぞ、リアム」
レオンが背を向けた瞬間、リアムの指が小さく動いた。
まるで、呼ばれた名に応えるように。
夜の聖堂に、ひたひたと足音が消えていく。
──少年と師の物語は、まだ始まったばかりだ。
次回:黒き夢の魔女
読んでくださって、本当にありがとうございます!
投稿を始めてから、累計3000PVを達成することができました。
ここまで読んでくださった皆さんのおかげです。
「面白い」「続きが気になる」と感じて下さった方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】から評価、または【ブックマーク】をお願いします!
あなたの応援が、次の更新の一歩になります!




