第13話 レオンの眼差し
──静寂の聖堂。
夜の帳が厚く降りる中、レオンは静かに聖堂の奥へ歩を進めた。
月光が差し込み、瓦礫の山や砕けた壁の影を淡く照らす。
彼の目には、先ほどまでの戦闘の光景が鮮明に甦っていた。
「……あいつ。」
拳を握る小さな少年の姿。
あれほど無防備な状況から、あの踏み込みと頭突きで相手を制した。
体格も経験も圧倒的に劣るはずの少年が――確かに勝利を掴んだ瞬間だった。
レオンは目を細める。
あの場に居合わせなかった者が聞けば、笑い話にしかならないだろう。
頭突き――三歳の子供が敵の胸に突き刺した行為。
だが、レオンには理解できた。
それは単なる衝動や無謀な行動ではない
「判断……速度……覚悟……」
レオンの口元に、わずかな感嘆が漏れた。
リアムの行動は戦術として未熟かもしれない。
だが、状況判断と瞬間的な決断力は、彼の年齢や経験を遥かに超えていた。
◇ ◇ ◇
戦闘の回想
レオンはその場に立ち止まり、崩れた壁を見つめた。
あの雷魔法を帯びた剣――もしあの剣の一撃をまともに受けていれば、リアムは倒れていた。
しかし、少年は倒れながらも立ち上がり、魔力を身体に纏った。
「身体強化……あの五秒……」
瞬間的な魔力強化。
それを正しく理解し、使いこなすためには冷静な精神が必要だ。
リアムは恐怖に動揺しながらも、無意識のうちに体内の魔力を最大限活かす判断をしていた。
レオンは心の中で呟く。
「不意打ち……警戒不足……だが、あの踏み込み――
悪くない。」
敵の剣が振り下ろされる刹那、リアムは頭突きで反撃する。
敵は宙を舞い、壁を三枚貫いて飛ばされた。
その間、リアムはただ立ち続けていた。
その体力、精神力……そして、生への執着。
「リアムは……覚悟を決めていたのかもしれない。」
レオンはゆっくりと息を吐く。
戦闘というよりも、精神の試練。
リアムが示したのは、ただの攻撃ではなく――生き抜く力そのものだった。
◇ ◇ ◇
レオンはリアムに近づき、眠る彼の小さな体を見下ろした。
崩れた壁の影に包まれながらも、穏やかな寝顔。
戦いの痕跡は服に残るが、少年の魂は静かに息を整えていた。
「……及第点、か。」
小さく呟く。
表面上は冷淡に見える言葉だが、内心の評価は揺るぎないものだった。
戦闘経験も武器もない状況で、瞬間的に判断し、勝利を導いた。
これは簡単に褒められることではない。
だが、同時にレオンの思考は容赦なく現実を見据える。
「警戒不足。
武器なし。
考えなしの突進……危険はまだ消えていない。」
少年の強さと同時に、未熟さも認めざるを得ない。
師としての眼差しは、単なる称賛だけではなく、冷徹な評価も含まれていた。
◇ ◇ ◇
レオンは崩れた壁の破片を指で撫でる。
「……次は、武器を持たせるべきだな。」
心の中で自問自答する。
あの戦闘は結果的に成功した。
だが、同じ状況で次も成功する保証はない。
リアムが生き延びるためには、戦術と準備が必要だ。
そのための手段、教育――師としての責務が重くのしかかる。
「だが、あの踏み込み……恐れを恐れず、間合いを
詰める勇気。 悪くなかった。」
小さな勝利の積み重ねは、やがて大きな成長となる。
レオンはリアムの頭に手を置いた感覚を思い返す。
あの瞬間、リアムは自分の判断で危機に飛び込んだ。
危険も伴ったが、自らの意思で戦った――それが大切だと、レオンは理解していた。
◇ ◇ ◇
月光が崩れた壁から差し込み、静かに二人の影を照らす。
夜風が聖堂の奥を吹き抜けるたび、レオンは遠い過去を思い出す。
「……器か。」
リアムが受けた襲撃は、偶然ではない。
七人の魔女の信仰集団――まだ世界の闇は沈んでいない。
リアムという存在、そして彼の力を狙う者たち。
この子の運命は、すでに動き出している。
レオンは静かに息を吐き、心の中で決意を固める。
「守るべきは……ただ一人じゃない。
この子の未来……いや、リアム自身に自分の力を
信じさせることだ。」
師として、戦士として。
すべては、この少年の成長のためにある。
◇ ◇ ◇
レオンはその場に立ち尽くし、夜空を見上げた。
月光が崩れた壁を照らすたび、過去の戦いの痕跡が鮮やかに映る。
静かに、だが確実に、世界は動き出している。
「――覚悟、か。」
小さな声でつぶやく。
自分の意思で戦った少年、そしてこれから待ち受ける試練。
それらを見守る責任が、自分にはある。
怖れではなく、覚悟として。
「……準備はできている。」
レオンは再び腕を組み、月光の中で静かに立ち尽くした。
戦いは終わったわけではない。
だが、今、目の前に眠る少年の成長を、確かに感じたのだ。
夜の聖堂に、静かな風が吹き抜ける。
その風は、過去の戦いと未来の試練――その両方の香りを運んでいた。
──レオンの物語は、今、またひとつ動き出す。
次回: 魔女シエナ登場、リアムの誓い
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