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異世界で目覚めた少年、八星の勇者に選ばれる  作者: TO
第5章 巨国グランディアと王の試練
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第111話 巨人の国へ至る道――八星の原点が語られるとき

 ──風が、冷たく頬を撫でた。


 森を抜けた先には、終わりの見えぬ大地が広がっていた。

 地平線の向こうまで続く荒原。乾いた風が砂塵を巻き上げ、空の雲をも削ぐような勢いで吹き抜けていく。

 鬼人の村を発ってから、すでに三日が経過している。

 朝は氷のように冷え、夜は霧が濃い。

 だが、アークハウスの内部は魔導加熱炉によって一定の温度が保たれ、外の寒気を遮っていた。

 リアムは展望デッキの窓越しに、遠ざかる山並みを見つめていた。

 流れる雲の向こう、薄く霞む星々が淡い光を落としている。

 彼の背後では、金属の階段を上がる足音が響いた。


「外を見てたのか?」


 声をかけたのはアルトだった。

 手には水筒を持ち、口元に笑みを浮かべている。


「うん。

 ずっと見てると、ここがどこまで続いてるのか分からなくなるな」


 リアムが肩を竦めると、アルトは小さく笑った。


「荒原は広い。

 巨人の国までは、まだ数日はかかるだろうな。……退屈だ」


 リアムは小さく息を吐き、視線を再び外へ戻した。


「アルト、そういえば聞きたいことがあるんだけど」


「ん? なんだ?」


「巨人の国で戦う魔獣のことと、先の大戦のこと。

 ちゃんと知っておきたいんだ」


 アルトの表情が一瞬だけ真剣なものに変わる。


「……そうだな。レオンに聞くのが一番早い」


 ふたりは階段を降り、作戦室へ向かった。

 アークハウスの心臓部――多層構造の中央区画には、魔導通信装置や地図投影器が並び、薄暗い光の中でレオンとセラが何やら打ち合わせをしていた。


「レオン、少し話をしてもいい?」


 リアムが声をかけると、レオンは振り返り、顎をさすりながら頷いた。


「構わない。何か気になることでも?」


 振り返ったレオンが、少し首を傾げた。


「どうした?」


「巨人の国で戦うって言ってたけど……そこで出る魔獣と、先の大戦について、もっと詳しく教えてほしいんだ。」


 その言葉に、セラとレオンは目を向ける。

 落ち着いて話すにはまだ早いかもしれないがリアムの表情は真剣だった。

 レオンは腕を組み、顎に手をやりながら考えるように目を細めた。

 そして小さく息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。


「それも、そうだな。

 ……この世界に生きる者なら、誰もが耳にした神話のような話だが、お前にとっては初めてだもんな。」


 リアムは頷いた。

 レオンは少し歩みを進め、空を見上げながら語り始める。


 ◇ ◇ ◇


「先の大戦――それは、約五千年前に起こった。

 魔獣の神バル・ヴァルザが、自らの眷属である魔獣の王たちを率いて、人間族と異種族、すべての生ある者へと戦争を仕掛けたんだ。」


 レオンの声が、風に乗って響く。

 レオンの語り口は重く、遠い記憶を呼び起こすようだった。


「当時の世界は今よりずっと荒れていた。

 人間族と異種族の仲は最悪で、領土争いが絶えなかった。

 つまり、共通の敵が現れるまでは、誰も協力なんてしなかったんだ。」


 セラが小さく頷きながら補足する。


「その頃の人間族は、異種族を野蛮な者と呼び、逆に異種族は人間を狡猾で薄汚い存在と見ていたの。

 お互いが信じられなかった時代――それが、五千年前。」


 リアムは黙って聞いていた。

 目の前に広がる荒野が、まるで古の戦場の残骸のように思えた。


「けどな。」


 レオンは続ける。


「魔獣軍が現れ、すべてが変わった。

 三つ巴――人間、異種族、魔獣。

 戦いは始まってすぐに決着がついた。

 ……魔獣軍の圧勝だった。」


「圧勝……?」


 リアムが思わず聞き返す。

 レオンは深く頷いた。


「理由は簡単だ。

 魔獣が、強すぎた。」


「強すぎた?」


「ああ。魔獣には二つ、絶対的な力がある。

 一つ目は――周囲の魔力を吸収し続けること。

 そして二つ目が、命脈を無効化することだ。」


 リアムの眉が跳ね上がる。


「命脈を無効化……つまり、オリジナル魔法そのものを封じるってこと?」


「その通りだ。」


 レオンは低く答えた。


「魔力を吸われれば、魔法使いは何もできなくなる。

 そして命脈を無効化されたら、ほとんどの種族は何もできない。

 戦いにならなかった。

 どれほどの兵がいても、壊滅する。」


 アルトが腕を組んで唸る。


「そりゃあ、勝てるわけねぇな。」


「そうだ。」


 レオンは続ける。


「魔獣は生まれながらにして理不尽の象徴だった。

 どこから来たのか、どのように生まれたのかも分からない。」


 風が止み、場が一瞬静まり返った。

 砂塵の中で、四人の影だけが伸びている。

 レオンは小さく息を吐き、話を続けた。


 ◇ ◇ ◇


「だが――その絶望の中で、奇跡が起きた。

 魔獣の侵攻が始まって数年後、人間族と異種族が、ついに同盟を結んだんだ。」


 セラが懐かしむように微笑む。


「そして、予言の力を持つ者が現れた。

 彼が未来を見通し、八つの星が世界を照らすと告げた。

 それが――八星騎士団(アストレギオン)の始まり。」


 リアムは、気づけば拳を握っていた。

 レオンたちの原点に繋がる話。

 その瞬間、彼の胸の奥で何かが熱く燃える。


「八星騎士団は、八つの種族から選ばれた八人の戦士で構成された。

 人間族、エルフ族、獣人族、鬼人族、竜人族、巨人族、妖精族、吸血鬼。

 それぞれが異なる能力と神器を持ち、共に戦うことで魔獣の軍勢を押し返した。」


 アルトが口笛を吹く。


「八つの種族……。

 それぞれが敵だったのに、よく協力したもんだな。」


 レオンは静かに頷く。


「彼らは、勝つために過去を捨てたんだ。

 誇りも、憎しみも、境界も。

 ただ一つ、世界を守るためにな。」


 セラが言葉を続ける。


「そして、八星の力によって魔獣の王と魔獣の神は封印された。

 世界は平和を取り戻した――少なくとも、表面上は。」


 レオンは短く息を吐き、


「これが、先の大戦の簡単な説明だ。」と締めくくった。



次回:巨人の国へ――目醒める魔獣王と、四人の宿命

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