第102話 見守り三人組、恋路を尾ける
一方その頃、木陰の三人組。
「……なんだ、いい雰囲気じゃねぇか。」
レオンが腕を組み、感心したように呟く。
「ふふっ、鬼燐の頬、真っ赤ね。」
セラが口に手を当てて笑う。
「……おいおい、これってもう、完全に告白前夜の空気じゃねぇか?」
アルトが小声で焦ると、セラがすかさず茶化す。
「アルト、あなた顔が引きつってるわよ。」
「だ、だって! あいつ、本気なんだよ!
俺、昨日の夜に相談されたんだ!」
「ふふっ、面白くなってきたじゃない。」
セラの瞳が悪戯に光る。
レオンはぼそりと呟いた。
「俺たち……仲間なのに完全に部外者だな。」
「今さら気づいたの?」
セラとアルトが同時に突っ込む。
◇ ◇ ◇
旅路は静かだった。
途中で魔物が現れたが、リアムがすぐに剣を抜き、光の斬撃で撃退する。
「リアムはん、今日はウチが護衛です。
休んでください。」
「そんな綺麗な服を汚したくありませんよ。」
その一言に、鬼燐の顔は一瞬で真っ赤に染まった。
「……照れますわ、リアムはん。」
胸の奥が熱くなり、鼓動が早まる。
リアムに守られながら進むその時間は、鬼燐にとってまるで夢のようだった。
彼女は心の中で呟く。
『ウチは今、満たされてる……』
◇ ◇ ◇
太陽が高く昇り、二人が歩き続けて半分ほど進んだころ。
鬼燐がふと立ち止まり、リアムに声をかけた。
「そろそろお昼やね。」
「そうですね。」
リアムが笑ってお腹をさする。
「リアムはん、ウチお昼作ってきたで。
一緒に食べへん?」
「いいんですか?」
「もちろんや。」
鬼燐は嬉しそうに微笑み、近くの大きな木の影に腰を下ろした。
包みを開けると、大きなお弁当箱が現れる。
「たくさん作ってくれたんですね。」
「リアムはんはウチと同じで育ち盛りやからな。」
鬼燐が照れくさそうに笑いながら弁当を開く。
そこには、卵焼き、焼き魚、コロッケ、果物など、リアムの好物がぎっしり詰まっていた。
「すごい……俺の好物ばかりだ。」
「リアムはんの口に合うか分からんけど……」
「大好物です!」
即答するリアムに、鬼燐は胸を押さえた。
心臓が跳ねる。
『アルトのおかげや……。
リアムはんの好み、全部教えてもろたから。』
◇ ◇ ◇
昼食の準備をしていたその時、鬼燐が小さく悲鳴を上げた。
「ど、どうしましょう……!」
「どうしたんですか?」
リアムが慌てて尋ねる。
「お箸……一膳しか入れてへん。
リアムはんの分、忘れてしもうた……」
「大丈夫です。鬼燐さんが食べてください。」
「そ、そんなわけにはいきません!」
鬼燐は顔を真っ赤にして叫んだ。
「リアムはんのために作った料理です。だから……」
そう言って、鬼燐は箸で卵焼きを掴み、リアムの前に差し出す。
「ウチが食べさせてあげます。
口を開けてくれはりますか、リアムはん?」
「え、えぇっ!?」
リアムは戸惑うが、鬼燐の目に宿る真剣な光を見て、なぜか断ってはいけない気がした。
そして、恐る恐る口を開ける。
鬼燐が微笑む。
「あーん。」
卵焼きがリアムの口に入る。ふんわりとした甘味が広がった。
「美味しい……です。」
「ほんまですか!? よかったぁ……!」
鬼燐は嬉しそうに笑い、その後もリアムに一口ずつ食べさせた。
その光景は、まるで恋人同士のようだった。
◇ ◇ ◇
木陰からその様子を見ていた三人は、言葉を失っていた。
『鬼燐、グイグイ行くな……』
アルトが額に手を当てる。
「前まではリアムを見るたびに逃げてたのに……なんで急に。」
「覚悟を決めたのよ。」
セラがさらりと答えた。
「覚悟?」
レオンとアルトが同時に首を傾げる。
「リアムが近々、旅立つって聞いてね。
心を決めたのよ。
――英雄色を好むって言葉もあるじゃない。」
「そんなことわざ聞いたことねぇぞ。」
レオンが眉をひそめると、セラが得意げに言う。
「リアムの世界のことわざよ。」
「……お前、なんでそんなこと知ってるんだ?」
「捕まえたローブの男たちに、無理やり聞いたのよ。」
セラが涼しい顔で言うと、二人の男は顔を見合わせた。
『これ以上は聞かないでおこう……』
◇ ◇ ◇
昼食を終え、リアムと鬼燐は再び歩き出した。
アークハウスまでの道はまだ長いが、空気は穏やかで、二人の足取りも軽い。
その後ろを、距離を取りながらついていく三人。
セラが微笑みながら呟いた。
「さて、この旅の終わりに、どんな未来が待っているのかしらね。」
レオンは小さく笑う。
「まぁ、俺たちにできるのは、せいぜい見守ることだけだ。」
「それでいいだろう。」
アルトがぼそっと言った。
「だって――今の鬼燐、凄い幸せそうだ。」
三人の視線の先で、赤い着物が風に揺れた。
昼下がりの陽光の中、リアムと鬼燐の笑顔がきらめいていた。
次回:静寂のアークハウスで、想いは満ちて
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