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異世界で目覚めた少年、八星の勇者に選ばれる  作者: TO
第4章 君へと灯る、鬼の焔
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第102話 見守り三人組、恋路を尾ける

 一方その頃、木陰の三人組。


「……なんだ、いい雰囲気じゃねぇか。」

 

 レオンが腕を組み、感心したように呟く。


「ふふっ、鬼燐の頬、真っ赤ね。」

 

 セラが口に手を当てて笑う。


「……おいおい、これってもう、完全に告白前夜の空気じゃねぇか?」


 アルトが小声で焦ると、セラがすかさず茶化す。


「アルト、あなた顔が引きつってるわよ。」


「だ、だって! あいつ、本気なんだよ!

 俺、昨日の夜に相談されたんだ!」


「ふふっ、面白くなってきたじゃない。」


 セラの瞳が悪戯に光る。

 レオンはぼそりと呟いた。


「俺たち……仲間なのに完全に部外者だな。」


「今さら気づいたの?」


 セラとアルトが同時に突っ込む。


 ◇ ◇ ◇


 旅路は静かだった。

 途中で魔物が現れたが、リアムがすぐに剣を抜き、光の斬撃で撃退する。


「リアムはん、今日はウチが護衛です。

 休んでください。」


「そんな綺麗な服を汚したくありませんよ。」


 その一言に、鬼燐の顔は一瞬で真っ赤に染まった。


「……照れますわ、リアムはん。」


 胸の奥が熱くなり、鼓動が早まる。

 リアムに守られながら進むその時間は、鬼燐にとってまるで夢のようだった。


 彼女は心の中で呟く。


『ウチは今、満たされてる……』


 ◇ ◇ ◇


 太陽が高く昇り、二人が歩き続けて半分ほど進んだころ。

 鬼燐がふと立ち止まり、リアムに声をかけた。


「そろそろお昼やね。」


「そうですね。」

 

 リアムが笑ってお腹をさする。


「リアムはん、ウチお昼作ってきたで。

 一緒に食べへん?」


「いいんですか?」


「もちろんや。」


 鬼燐は嬉しそうに微笑み、近くの大きな木の影に腰を下ろした。

 包みを開けると、大きなお弁当箱が現れる。


「たくさん作ってくれたんですね。」


「リアムはんはウチと同じで育ち盛りやからな。」

 

 鬼燐が照れくさそうに笑いながら弁当を開く。

 そこには、卵焼き、焼き魚、コロッケ、果物など、リアムの好物がぎっしり詰まっていた。


「すごい……俺の好物ばかりだ。」


「リアムはんの口に合うか分からんけど……」


「大好物です!」


 即答するリアムに、鬼燐は胸を押さえた。

 心臓が跳ねる。


『アルトのおかげや……。

 リアムはんの好み、全部教えてもろたから。』


 ◇ ◇ ◇


 昼食の準備をしていたその時、鬼燐が小さく悲鳴を上げた。


「ど、どうしましょう……!」


「どうしたんですか?」

 

 リアムが慌てて尋ねる。


「お箸……一膳しか入れてへん。

 リアムはんの分、忘れてしもうた……」


「大丈夫です。鬼燐さんが食べてください。」


「そ、そんなわけにはいきません!」

 

 鬼燐は顔を真っ赤にして叫んだ。


「リアムはんのために作った料理です。だから……」


 そう言って、鬼燐は箸で卵焼きを掴み、リアムの前に差し出す。


「ウチが食べさせてあげます。

 口を開けてくれはりますか、リアムはん?」


「え、えぇっ!?」


 リアムは戸惑うが、鬼燐の目に宿る真剣な光を見て、なぜか断ってはいけない気がした。

 そして、恐る恐る口を開ける。

 鬼燐が微笑む。


「あーん。」


 卵焼きがリアムの口に入る。ふんわりとした甘味が広がった。


「美味しい……です。」


「ほんまですか!? よかったぁ……!」


 鬼燐は嬉しそうに笑い、その後もリアムに一口ずつ食べさせた。

 その光景は、まるで恋人同士のようだった。


 ◇ ◇ ◇


 木陰からその様子を見ていた三人は、言葉を失っていた。


『鬼燐、グイグイ行くな……』


 アルトが額に手を当てる。


「前まではリアムを見るたびに逃げてたのに……なんで急に。」


「覚悟を決めたのよ。」

 

 セラがさらりと答えた。


「覚悟?」

 

 レオンとアルトが同時に首を傾げる。


「リアムが近々、旅立つって聞いてね。

 心を決めたのよ。

 ――英雄色を好むって言葉もあるじゃない。」


「そんなことわざ聞いたことねぇぞ。」

 

 レオンが眉をひそめると、セラが得意げに言う。


「リアムの世界のことわざよ。」


「……お前、なんでそんなこと知ってるんだ?」


「捕まえたローブの男たちに、無理やり聞いたのよ。」


 セラが涼しい顔で言うと、二人の男は顔を見合わせた。


『これ以上は聞かないでおこう……』


 ◇ ◇ ◇


 昼食を終え、リアムと鬼燐は再び歩き出した。

 アークハウスまでの道はまだ長いが、空気は穏やかで、二人の足取りも軽い。

 その後ろを、距離を取りながらついていく三人。

 セラが微笑みながら呟いた。


「さて、この旅の終わりに、どんな未来が待っているのかしらね。」


 レオンは小さく笑う。


「まぁ、俺たちにできるのは、せいぜい見守ることだけだ。」


「それでいいだろう。」


 アルトがぼそっと言った。


「だって――今の鬼燐、凄い幸せそうだ。」


 三人の視線の先で、赤い着物が風に揺れた。

 昼下がりの陽光の中、リアムと鬼燐の笑顔がきらめいていた。



次回:静寂のアークハウスで、想いは満ちて

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