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異世界で目覚めた少年、八星の勇者に選ばれる  作者: TO
第1章 リアムと八星の出会い
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第10話 リアム修行開始

聖堂の裏庭には、朝の光が差し込んでいた。


風が冷たく、湿った草の匂いが漂う。

レオンは木剣を二本取り出すと、リアムに一本を渡した。


「さて、今日の訓練は受け流しだ。

 相手の攻撃を真正面から受け止めず、

 力を逸らしし受け流す技術。

 単純だが、極めれば命を救う。」


リアムは木剣を握り締める。

眠気はある。

それでも、体の内側から熱が湧いてくるようだった。


「うん、やってみる。」


「いい覚悟だ。」


レオンは軽く構え、剣先をリアムの額に向ける。

一瞬で踏み込み、木剣を振り下ろした。


「──ッ!」


リアムは反射的に剣を横に構え、受け止める。

衝撃が腕を走り、足が滑りそうになる。

だが、必死に踏ん張った。


「悪くない。だが受け止めただけだ。今度は流せ。」


レオンが再び動く。速い。

風が唸り、木剣が迫る。

リアムは身体をひねり、力の方向を感じ取ろうとした。


──右から、斜めに。


剣を滑らせるように受け流す。


ガキィッ!


鋭い音が響き、レオンの剣がわずかに逸れた。

その瞬間、リアムの身体は自然と軽くなった気がした。


「……できた?」


レオンは笑い、木剣を肩に担いだ。


「今の感覚を忘れるな。それが流しだ。

 力は受け止めるものじゃない、導くものだ。」


リアムは息を整え、黙って頷いた。

目の奥に、眠気を超えた光が宿る。


──眠らなくても、進める。


自分の手で、もっと強くなれる。


◇ ◇ ◇


それからの日々、リアムは止まらなかった。

夜は図書館でセラから文字を学び。

朝になればレオンと剣を交える。


昼には食事をとって学んだ復習をし、再び訓練へ戻る。


──誰もが止めようとした。

 

セラは心配そうに「少しは休みなさい」と言い、レオンも「体を壊すぞ」と眉をひそめた。


だが、リアムは首を振るだけだった。


「今は、止まったらダメな気がするんだ。

 だから……動いていたいんだ。」


その言葉に、二人は何も言えなかった。

彼の瞳には、確かな意志が宿っていたからだ。


そして三日目の朝。


リアムの木剣は、もはや子供の振るものではなくなっていた。


「──はあっ!」


風を切る音が鋭く響く。

レオンの攻撃を受け、滑らかに流す。

まるで水が岩を避けるような自然な動き。

腕の軌跡に無駄がなく、足の運びも正確だった。


「……見違えたな。」


レオンが呟くと、リアムは額の汗を拭って笑った。


「レオンが教えてくれたからだよ。」


「いや、それだけじゃない。お前自身の努力だ。」


隣で見守っていたセラが近づき、手にしていたノートを開く。


そこには三日間で書き記された文字の練習跡がびっしりと並んでいた。


「ねえ、これ全部リアムが書いたの? 

 本当に三日で……?」


リアムは少し照れたように頷く。


「セラが教えてくれたから、覚えたよ。

 ……読めるようになったんだ、これ。」


リアムは開いたページを読み上げる。


『力は、守るために使うもの。 

 知識は、導くために使うもの。』


セラは思わず微笑み、レオンも腕を組んで頷く。


「文字と剣、両方を3日間でここまで覚えるとは…。

 お前、まるで何かに突き動かされているよう

 だな。」


リアムは少し黙り込み、空を見上げた。


「……たぶん、そうかもしれない。

 夢の中で、誰かが言ってたんだ。

 自分を恐れないで──願って。

 今度は人を助ける為にって。」


セラとレオンは顔を見合わせる。

だが、その意味を問うことはしなかった。

彼が進もうとしているのは、きっと彼自身の道だからだ。


◇ ◇ ◇


夕暮れ。訓練を終えた庭には橙色の光が差していた。


風が穏やかで、空には薄く雲が流れている。

レオンは剣を収め、リアムの肩を軽く叩いた。


「今日のところはここまでだ。

 リアム、本当によくやった。

 三日でここまで上達するとはな。」


リアムは汗まみれの顔で笑う。


「ありがとう、レオン。

 もう少しで、もっと上手く流せそうだ。」


セラが呆れたように微笑みながら近づく。


「まったく、三日も寝ないで動き回るなんて。

 普通なら倒れてるわよ。」


「でも、俺はまだ大丈夫。

 ……少しだけ、眠たいけど。」


そう言って笑うリアムは、空を見上げた。

夕陽の中で、その瞳が静かに輝く。


「レオン、セラ。俺、もっと強くなりたい。

 二人を守れるくらいに。」


レオンは黙って頷いた。

その瞳の奥には、かつての自分を見ているような優しさがあった。


「強くなるってのは、ただ戦うことじゃない。

 怖さを知って、それでも立ち上がることだ。」


「うん……俺、わかってきた気がする。」


セラはその言葉を聞き、静かに息をついた。


「本当に、子供なのかしらね……あなた。」


リアムは首をかしげたが、セラは笑って誤魔化した。


「冗談よ。……でも、あなたがそうやって進もうと

 する姿は、きっと誰かを救うと思う。」


 リアムは照れくさそうに頭をかいた。


「ありがとう、セラ。ありがとう、レオン。」


彼の声は、まるで光を宿したように澄んでいた。

やがて夜が再び訪れる頃、リアムは静かに目を閉じた。


今度の眠りは穏やかだった。

夢の中に黒い霧はなく、代わりに柔らかな光が広がっていた。


◇ ◇ ◇


夜。


聖堂の外では、濃い霧が静かに立ちこめていた。

その中を、黒いローブの男たちが影のように進む。

月明かりを避けるように、息を潜めながら。


「……間違いない。例の器はこの聖堂にいる。」


先頭の男が低く呟く。

その目には、狂気にも似た光が宿っていた。


「王国の目が届く前に連れ出す。

 あの子供さえ手に入れば、封印を解く鍵が揃う。」


「だが、あの騎士と魔導士がいる。どうする?」


「問題ない。奴らが気づく前に終わらせろ。

 失敗は許されん。」


短い指示とともに、男たちは聖堂の影に溶けていった。

風が吹き抜け、草木がざわめく。


まるで、この地そのものが不吉を予感しているかのように──。

その夜、静寂に包まれた聖堂の裏で、誘拐計画が動き出していた。



次回: 八星の実力

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