第8話:水の迷宮と塩素の真実
水は命の源――しかし、その水が人を蝕むとしたら?
ソラノ村で広がる謎の体調不良。その原因は、聖なる泉にあった。
呪いを疑う村人たちの中で、慧は冷静に“水質”という視点から真実を探る。
今回は、現代でも使われる“簡易消毒”の知識と、太陽の力による「自然の浄化」をテーマにしたエピソード。
科学と知恵が、再び異世界を救う。
ソラノ村にある「聖なる泉」――
それは村人が毎日飲料水を汲みに行く、命の源だった。
だがある日、泉の水を飲んだ者たちの間で、謎の下痢と発熱が続出する。
「けい様!泉の水に呪いが……!」
巫女リアが蒼い顔で慧に報告する。
慧は眉間にシワを寄せながら、持ち歩いていた“簡易水質検査キット”を泉に沈めた。
数分後、試験紙が黄色く変色する。
「……やっぱり。“大腸菌群”が検出された。つまりこれは、糞便由来の汚染だ」
リアが顔を真っ青にする。
「そんな……誰かが泉に毒を……?」
「毒じゃない。問題は、泉の流れが止まりかけていること」
慧は泉の上流を調べる。するとそこには、最近整備された「魔法用水路」の分岐工事の痕があった。
水の流れを引き込んだせいで、泉の自浄作用が弱まっていたのだ。
さらに――
慧は、泉の近くに村人の「臨時トイレ」が作られていたことにも気づく。
「雨が続いたせいで、地下水が汚染されたんだ。浄化の流れが止まったまま、汚染源が近づけば…こうなるのは当然だ」
慧は、自らの知識を活かして“あるもの”を取り出した。
それは…家庭用の「塩素系漂白剤」と「ペットボトル」。
「今から“安全な飲み水”を作る。準備は簡単。
①透明なペットボトルに水を入れる
②塩素を微量加えて殺菌
③さらに太陽の光に数時間さらして、紫外線でも消毒する」
リアが驚く。
「太陽で…水が清められるの?」
「そう。『SODIS』っていう方法で、紫外線が細菌のDNAを破壊するんだ」
慧はこれを村中に実演し、さらに「塩素の適切な使い方」と「仮設トイレの安全な設置法」を講義形式で伝えた。
数日後、村の水問題は無事解決。
泉の上流に新しい「ろ過装置」も設置された。
だが、慧の元にはまた一通の書簡が届く。
『ようやく“水”を守ったか。だが次は、“空気”だ。
風の通らぬ部屋、燃え残る蝋燭。目に見えぬ毒は、最も恐ろしい。』
慧は静かに微笑んだ。
「次は、二酸化炭素か。いいだろう、受けて立つよ」
今回は、水の安全に関する問題を取り上げました。
日本では当たり前のように手に入る安全な水も、異世界ではひとつの“奇跡”です。
漂白剤の希釈やSODIS(ソーラー消毒)など、現代技術と自然の力を組み合わせれば、文明レベルを一歩引き上げることができる。
そして物語は次のフェーズへ。「空気」という目に見えない脅威が迫ります。
次回「密室と蝋燭と見えざる毒」もどうぞお楽しみに。
ほかの登場人物の視点から書きたい、ロマンス要素を入れたいなどの要望も、いつでもどうぞ!