第7話:冷凍弁当の罠――“温め方”が命を分ける
村人たちを襲う突然の体調不良――
原因は「冷凍弁当」に隠されていた。
異世界の暮らしに持ち込まれた現代の便利さも、正しく使わなければ命を脅かす凶器になりうる。
今回のキーワードは「解凍」と「食の安全」。
コンビニ店長・慧の知識が、またひとつ村を救う。
ソラノ村にある「施療院」に、奇妙な患者が次々と運び込まれていた。
「頭がぼーっとする…」
「吐き気が止まらない…」
「口の中がビリビリする…」
症状の共通点は「昼食の直後に起きている」ということだった。
巫女リアが、慧のもとに走る。
「けい様!これは、まさかまた呪…」
慧は冷静に首を横に振った。
「呪いじゃない。これは――食中毒だ」
調査の結果、患者たちは皆、村に最近配給された“保存食”を食べていた。
その正体は、かつて慧が持ち込んだ「冷凍弁当」だった。
「いや、でも賞味期限は大丈夫なはずだよな…?」
慧はひとりつぶやきながら、弁当を解凍していた場所に足を運ぶ。
そこには、問題の「魔法火鉢」があった。
火鉢の上には鉄板が乗せられ、凍った弁当が丸ごと乗せられていた。
「…これはマズい」
慧の表情が一気に険しくなる。
「加熱ムラだ。表面だけ温めて、中心部が凍ったままになっていたんだ。
菌は残ったまま、ぬるい温度で繁殖しやすくなった…」
慧は集まった村人たちに向かって話し始めた。
「弁当は、ただ温めればいいわけじゃない。冷凍食品には“解凍のルール”がある。
中心温度が70℃以上で、一定時間保たなければ、菌は死なない。
それを知らずに表面だけ焦がして、中身は冷たいままだと…こうなる」
村人たちは驚きと同時に、深く頷いた。
だが、慧の直感が告げていた。
――これは単なる事故ではない。
彼は供給の記録を洗い直し、ある人物の名に行き着く。
「この弁当、村の流通管理係・ゾランが勝手に“解凍時間の短縮”を推奨していた」
調査により、ゾランは自らの昇進を急ぐために「効率的な加熱法」として火鉢の鉄板焼きを提案。
時間と燃料を節約することで、村の評判を上げようとしていたのだ。
慧は、ゾランの責任を厳しく問うことはなかった。
ただ、静かにこう言った。
「便利を求めて、命を軽んじるのは愚かだ。次は、誰もが守れる“仕組み”を作ろう」
その日以降、慧は村に「コンビニ式の調理所」を作り始める。
火力・時間・温度を管理する“マニュアル”も書き起こした。
だが夜、慧の部屋の戸の隙間に、1枚の紙切れが滑り込んできた。
『次は、“水”だ。備えよ、店長くん』
慧は、紙を静かに折りたたみ、窓の外を見た。
星が、ひとつ流れていった。
今回は冷凍食品という身近なテーマから、「温め方ひとつで食中毒が起こり得る」という教訓を描きました。
現代人には当たり前のように思える知識も、異世界では“誰も知らない危険”になる。
そして物語の終わりには、何者かからの新たな挑戦状が――
次回「水の迷宮と塩素の真実」では、さらに深い衛生と生命のテーマに迫ります。
どうぞお楽しみに!