第6話:裏切りの供物――コンビニレジ袋が暴いた真実
ソラノ村では、年に一度の供物祭が近づいていた。
神への供物を捧げ、自然の恵みに感謝する神聖な祭典――
しかし、その供物がすべて腐敗していた。
呪いか、それとも誰かの悪意か?
慧はひとつの道具、ありふれた「レジ袋」に目を向ける。
密閉された空間の中で育まれた、腐敗という名の罠。
今、知識の刃が真実を切り裂く。
――ソラノ村・供物祭前夜。
毎年、山神へ捧げる供物を準備する祭り。
その夜、慧のもとに少年シリルが駆け込んできた。
「けい様!供物庫の香草が全部腐ってるんだ!」
慧が現場に向かうと、供物として保存されていた食材すべてが異様な腐敗臭を放っていた。
香草、果物、塩漬け肉――まるで数週間放置したような状態。
「これは…自然な腐敗じゃない。誰かが“意図的に”腐らせたんだ」
慧は食材の様子から「過剰な湿度と発酵作用」が関わっていると判断する。
「誰かが供物に水分を吸う力を持つものをすべて取り除いた。乾燥材や、通気の工夫がなされていない。むしろ…密閉されていた」
慧はレジ袋を取り出した。
「この袋、湿気を逃がさずに封じ込める。つまり“密閉環境”を作る最強の道具にもなるんだ。だが逆に、使い方を間違えれば…」
慧は村人を集め、再現実験を行った。
供物の一部を村の“神官代理”に渡し、その保存法を尋ねると──彼はレジ袋でぴっちり包んでいたのだ。
「供物は乾燥している方が良い。常識です」
神官代理は冷ややかに言った。
だが慧は告げる。
「それは嘘だ。君がしたのは“過失”ではない。“計画的な破壊”だ。祭りを潰すために、わざと封じたんだろう?」
神官代理の顔色が変わった。
慧はさらに告げる。
「君は去年、祭りで村人に笑われた。それを根に持っていた。
でも、僕が来たからって供物を腐らせて祭りを潰そうとするのは、完全に“逆恨み”だよね」
神官代理はその場で取り押さえられた。
「なぜこんなことで…!」
「“なぜ”じゃない、“どうやって”だ。技術と知識を悪用すれば、祝福も災厄に変わる」
慧は、供物の残りを脱酸素剤・乾燥剤を使って正しく保存し、残された食材を無事に捧げることができた。
その夜、祭りは無事開催された。
だが慧は、夜空を見上げながらつぶやく。
「これは、誰かの“実験”だったのかもしれないな……。次は、もっと大きな仕掛けが来る」
闇の中、誰かの口元がほころぶ。
「なるほど、なかなかやるじゃないか。店長くん」
今回は、どこにでもある「レジ袋」が鍵となる事件でした。
便利な道具も、使い方を誤れば毒にもなる――
その事実は、現代でも異世界でも変わりません。
そして慧の推理が暴いたのは、ただの事故ではなく、人の心に潜む「逆恨み」でした。
けれど、これはまだ始まりにすぎない。
見えない敵が、確実に次の手を打ち始めています。
次回、第7話「冷凍弁当の罠」――慧の知恵が再び異世界を救う。