第36話「魔導機関、暴走」
店長室での作戦会議を終えた直後、コンビニの外に響いたのは、鉄をねじ切るような悲鳴にも似た機械音だった。
「……なんだ、今の音は」
俊哉が眉をひそめ、店の扉を開けると、空には黒い煙が渦巻き、遠方に異様な光が立ち昇っているのが見えた。
「あれ……魔導機関の塔の方だよ!」
メルが指差すその先には、魔導庁直属の研究塔――各国の魔導技術を統制し、維持する要となる中枢施設。
「行こう。最悪の事態になる前に」
塔に到着すると、周囲の結界は破壊され、警備兵たちが外に投げ出されていた。
「侵入者がいるわけではない……これは内部からの暴走?」
「いや、もっと異質だ」
塔の内側に踏み込んだ俊哉は、壁面を走る魔導回路が赤黒く点滅しているのを見て、背筋が冷える。
コンビニで売っていた「魔力漏洩検知テープ」を手に取り、壁に貼ると、瞬時に変色。規格外の魔力量だ。
「これじゃ、魔導機関自体が暴走を起こしてるようなものじゃないか……!」
さらに塔の奥、中央制御核へとたどり着いたとき、そこにいたのは――
「また会ったな、俊哉くん」
仮面を被った男。背中には、見慣れた“コンビニのエプロン”が歪んだ意匠で装着されていた。
「お前は……“あのとき”の元副店長……?」
「正確には、“副店長”を騙った者さ。僕の名は〈トロイア・ザ・イグジット〉。この世界の魔導ロジックの“穴”を突く者だよ」
「何が目的だ!」
「目的? それは――“すべての世界をレジに通すこと”さ」
トロイアが掲げたのは、改造されたレジスター。そのスキャン光が塔の制御核に向けて放たれる。
「やめろッ!!」
俊哉が駆け出す。
だが――その瞬間、空間が反転し、塔の内部が“店舗”に書き換えられていく。
床はレジカウンターに、制御核は商品棚へ、魔導炉は冷凍ショーケースへと変貌していった。
「この世界を、君の“コンビニ”にするんだよ、俊哉くん。ロジックごとね」
「ふざけるな! 店舗拡張は、正しい営業許可の上で行うものだッ!」
そして今、俊哉とトロイアの“二つのレジの信念”が、真っ向から激突しようとしていた――。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第36話では、ついに因縁深き人物との再会、そしてその裏に潜む“世界の真実”が少しずつ姿を現してきました。今回の展開では、物語の核心にぐっと近づく一歩を踏み出したつもりです。少しずつ謎が繋がっていく感覚を楽しんでいただけていたら嬉しいです。
今後もシリアスとドラマを織り交ぜながら、感動と驚きの展開を描いていきます!
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それでは、次回もお楽しみに。