表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/62

第一話:異世界転移と“呪いの病”

現代の普通のコンビニ店長――篠原慧は、ある日突然、店舗ごと異世界に転移してしまった。

そこは魔法と剣の世界。だが彼には魔力も武勇もない。持っているのは、深夜のコンビニに並ぶ日用品と、現代の科学的知識だけ。


「魔法? 剣? 俺には“レジ”と“知識”がある」


この物語は、そんな男が、常識と理屈で異世界の難題を解決していく記録である。

 冷たい床の感触と、どこかで聞こえる電子音に、篠原慧しのはら・けいはゆっくりと目を開けた。


 「……また、床で寝落ちか……?」


 頭を抱えながら身を起こす。が、すぐに違和感に気づく。

 店内の空気がやけに澄んでいる。湿気が少ない。

 自動ドアの向こう、見慣れたアスファルトではなく、草原の風景が広がっていた。


 「…………は?」


 彼の立っていた場所は、勤務先のコンビニの店内そのものだった。レジも、商品棚も、アイスケースも。だが、ドアの外には見知らぬ空と地平線。街の明かりも、自販機もない。


 これは、夢か、それとも──


 「お客様……?」


 レジの前に、ボロ布のような服をまとった少女が立っていた。肩を震わせ、泥だらけの足で床に立ち尽くしている。


 「あなたが……“聖なる賢者”様ですか……?」


 慧は無言でレジカウンターの下を開け、ポリ袋を取り出すと、静かに言った。


 「土足禁止でお願いします。床、モップかけたばかりなので」




「……なるほど、“呪いの病”ね」


 慧は少女の案内で、村の集会所のような建物にいた。

 少女――名前はリアというらしい――は、説明の途中何度も泣きそうになっていた。


 この一週間、村では突然倒れる者が相次ぎ、既に一人が死亡。原因は不明。

 共通する症状は、手足のしびれ、吐き気、けいれん、最後に心停止。

 司祭は「神の怒りによる呪い」と断じ、人々に祈祷料を要求していた。


 「昨日……兄が死にました。おかしいと思うのは、最後に……“味がしない”って言ってたんです。

 それが……どうしても気になって……」


 慧は、腕を組んでうつむいた。

 「しびれ、吐き気、味覚障害、そして死……呪い、ね。なるほど。

 ……でもそれ、“呪い”じゃなくて──ボツリヌス中毒っぽいな」




 慧はリアに案内されて、死亡した兄の家を訪れた。


 木造の質素な建物。その棚には、干し肉が並べられていた。

 その中の一束にだけ、色味の違うものがある。


 慧はポケットから携帯用UVライトを取り出した。コンビニの万引きチェック用に使っていた代物だ。

 干し肉に光を当てると、緑色の斑点がうっすらと発光する。


 「やっぱりな……これはボツリヌス菌の毒素だ。

 封を開けたら匂いに違和感があったろうけど、味覚障害が先に来てたなら、もう気づけなかった」


 リアは震えた声で尋ねた。


 「……それって、どうすれば助けられたんですか?」


 「初期ならワンチャンある。毒素の吸収を抑えて、排出促進すればな」




 慧は店に戻ると、商品棚からいくつかのアイテムを取り出した。

•スポーツドリンク(ポカリ系)

•活性炭入りサプリメント

•整腸剤


 「電解質と活性炭で腸内毒素の吸収を抑えつつ、排出を促進する。あとは脱水症状を防ぐだけ。

 これ、試してみる価値はある」


 「その……青い水は?」


 「“神の水”ってことにしておけば、信じてもらえるだろ」




 その日、慧は村中を回り、軽症の患者に薬を与え、解毒の仕組みを説明した。

 だがその説明は、村人にはほとんど理解されなかった。


 それでも、数日後。倒れていた数人が立ち上がり、普通に食事を取れるようになった。


 司祭は沈黙し、村から姿を消した。


 そして村人たちは、慧をこう呼び始めた。


 > 「蒼き神の水を持つ賢者様……!」


 慧は、気だるげに自販機の横に座り、煙草をくわえながら呟いた。


 「呪いも毒も、結局は説明できる。

 ……大抵の問題は、“店にあるものでなんとかなる”んだよな、これが」

今回の問題は、“呪い”と恐れられていた食中毒だった。

魔法でも奇跡でもなく、科学的に証明された知識と、それを活かす道具。


異世界の人々にとっては魔法だが、慧にとっては“いつもの仕事の延長”にすぎない。


彼が店でいつも使っているUVライトやポカリスエットが、この世界の救世主になるとは、誰が想像しただろうか。


これからも、慧は異世界でコンビニの力と理屈を武器に、数々の謎を解き明かしていく。


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ