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プロローグ② 小説家な私は幼馴染だけに隠し事をしている。

 子供の頃、お母さんの部屋から漂うインクの匂いが私は大好きだった。

 インクで汚れたお母さんの手も大好きで、私はお母さんの声も無視していつも触った。

 私の小さな手にインクの汚れが写ると、「もう~だから言ったでしょ」と優しくお母さんが怒る。きっとその頃から私は――


「お母さん‼ ミチルも将来、お母さんと同じで漫画家さんになる‼」


 お母さんが夢中になってるお仕事――漫画家に強い憧れを抱いてた。


   ***


 あの頃、漫画家になりたいと言っていた私、日向ミチル。

 だけど私にはどうやら、絵を描く才能はなかったみたいで。

 今は――


「本当ですか‼ ありがとうございます‼」


 携帯を片手に頭を深々と下げていた。

 それぐらい嬉しい出来事があったから。

 その出来事は。


「私が小説家になれるなんて夢みたいです‼」


 絵を描くのは苦手だったけど、私にはお話作りの才能があったみたいで。

 今日見事、私の小説がとある新人賞を取ったことを編集部の人から教えてもらった。

 これで私は晴れて小説家としてデビューすることができる。

 お母さんと違って漫画家じゃないけど、喜んでくれるよね。

 今度ちゃんとお墓まで行って報告しないと。

 持って行くお花は、お母さんの好きだった紫陽花でいいかな。


「へへへ……静流君に言ったら絶対にビックリするよね」


 編集さんとの電話を終わらせて、お父さんが経営する喫茶店。

 そのカウンターでグラスを拭いていると、不意に幼馴染の男の子の顔が浮かんだ。

 ツンツン頭の黒髪で。いつも漫画ばかり読んでいる私の大切な幼馴染の男の子。

 きっとお母さんにとっても静流君は特別で、ただ一人のお母さんのお弟子さん。

 とは言ってももう静流君は漫画を描いてないみたいで、私からすれば少し勿体ない気もするんだよね。お話作りも上手だったし、なんて言っても漫画の絵がすごく上手だったから。きっとお母さんも残念がってるんだろうな。でも静流君が決めたことだもん。私が言うのは何か違うよね。


「それにしてもあの小説がお店に並ぶんだね。すごくドキドキ……どうしよう」


 改めて考えてみて、私は自分の中に不安が募るのを感じた。

 その原因は考えなくてもわかる。ズバリ小説の内容だよ。

 私が新人賞に応募した小説。それは私と静流君を題材にした恋愛小説。

 小説家の女の子とその幼馴染の男の子。

 二人の恋愛模様を描いた作品なんだから。


「う~。……今さらになってすごく恥ずかしいよ~」


 両手で両頬を抑えてみると、ほんのりとほっぺが熱を帯びていた。

 自分でも自分がやってることが少し、世間から外れてるのはわかってる。

 だけどずっと好きなんだからしょうがないよ。

 子供の頃から好きで。今も大好き。それなのにずっと告白できなくて。

 そんな気持ちを小説に綴っていたら、知り合いの編集さんに知られちゃって。

 言われるがまま、試しに応募して見たら作家デビュー。

 しかも電話の内容を聞いたところ。


『コミカライズ化も視野に入れて動きましょうか』


 なんてことになってたし。

 あれ? もしかして私、結構割とピンチなんじゃないのかな?

 もしもあれを静流君に見られたら……鈍感だからたぶん気づかないか。

 本当に静流君は昔からすごく鈍いんだから。

 私、好きでもない人のためにご飯なんて作ってあげないよ。

 毎日、家までお迎えにも行ってあげないし。お休みの日にお家のお掃除だってしてあげないもん。それなのに静流君はずっと、私の気持ちに気づかないままで。たぶん静流君には鈍感主人公の才能があるよ。


「でもこれでとりあえず夢は一個叶ったよね」


 私にはいくつかの夢がある。

 一つはお母さんと同じ漫画家――は無理だったけど、お話を作る小説家になること。

 二つ目は小説家としてお母さんみたいにずっとお仕事を続けること。

 そして私にとって小説家よりも一番大事な。私にとって始まりの夢は――


「早く。静流君と結婚したいな~」


 好きな人のお嫁さん。すごく女の子らしい夢だと思わない?


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