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幼なじみの会


 あのあと本当に傘から追い出されるかと思ったけれど、藤宮くんはわざわざうちまで送ってくれた。きっと藤宮くんのお家まで遠回りだっただろうに、彼のおかげで私は風邪を引かずに今日も元気に登校できた。

 ついに私達が住む地域でも梅雨入りが発表され、昨日に引き続き今日も雨が降り続いていた。まだ朝だというのに薄暗い教室は、息をするだけでも気分が落ちそうだったけれど、今日の私はそんなじめっとした空気など全く気にならないほど、なんだか晴れやかな気持ちだった。


 教室に入り、自分の席へと向かう。前の席では椿が机に伏せて寝ていた。

 雨だけど部活の朝練があったのかな。そろそろ朝のホームルームも始まるし、ぐっすり寝ているところ申し訳ないかなと思いつつも肩をとんとんと叩いた。


「おはよー!」


 彼は寝ぼけ眼でこちらを見ると、これまた眠そうに返事をした。


「はよー…」


 私が机に鞄を下ろすと、彼は眠たそうに目をこすった。


「美音、なんでそんなに元気なの?」

「いつも通りだよ。椿こそ大丈夫なの?最近調子悪い?」


 昨日の放課後の彼の様子を思い出し、そう聞き返すと、


「ああ、それは、昨日のことが気になってちょっと寝不足で…」

と言いながら、彼は眠たそうだった瞳をぱっちりと開け、「そうだ!」と叫んだ。


「昨日!」


 椿が話しかけたところで、隣から椅子を引く音がした。藤宮くんが席に着いたところだった。


「お、おはよう!」


 いつもより気持ち明るめに声を掛けると、「ああ」と返事があった。


「えっと、昨日はありがとね!」


 そうお礼を言うと、「別に」とこれまた相変わらず素っ気ない言葉だけが返ってきた。


 昨日は藤宮くんのおかげで濡れずに帰れたのだ。素直じゃないだけで、優しい人なんだよね。人は話してみないと分からないものだ、なんてことを改めて思っていると、黙って私達の様子を見ていた椿が訝しげに聞いてくる。


「昨日って何かあったの?美音、先輩と帰ったんじゃなかったっけ?」

「そのことなんだけど、」


 私が椿に昨日の帰りのことを話そうとすると、それを遮るように藤宮くんが口を挟む。


「幼なじみかなにか知らないけど、お前干渉しすぎ。そんなにこいつが気になんの?」

「「!!」」


 私達二人は驚いて藤宮くんを見た。

 椿が慌てたように少し早口で返答する。


「べ、別に全然気になんねぇし!ただ美音のお母さんから、美音のこと任されてるだけ。危ない目にあったら困るだろ」


 え、そうだったんだ。お母さん仕事で遅いことが多いから、心配で椿に頼んでたのかな。聞いたことなかった。

 椿の話にほーと驚いていると、藤宮くんは相変わらず馬鹿にしたように「ふーん、そ」と言って笑った。


 あれ、昨日の優しかった藤宮くんはどこへ?

 ちょっと彼のことを知れたと思って嬉しくなっていたのだけれど。

 やはりこの人は、何を考えているのかさっぱり分からない。


              

 放課後。

 降り続いている雨は、今日も当分止みそうにない。

 グラウンドメインの部活は、室内で練習できることはほとんどないので休みになることが多かった。


「美音、もう帰る?」


 そう椿に声を掛けられ、うーんと答えにつまった。


「部活がせっかくお休みだから、少し図書室で勉強して帰ろうと思ってるんだけど、図書室最近人多いし、ぴりぴりしてて行くか悩んでるところ」


 放課後の図書室はみな勉強に使っていたりする。受験勉強でぴりっとした三年生が多く利用する図書室は、物音を少し立てただけでも睨まれるような威圧感があり、正直言うと少し苦手だった。集中するにはもってこいなのかもしれないけれど、変に緊張して余計に疲れてしまう。


 尚もうーんと悩んでいると、


「ならうち来いよ、一緒に勉強しようぜ」

 と椿が提案してくれた。


「ほんと?それは嬉しいかも!お邪魔しようかな」


 有難い提案なのですぐにOKの返事をする。けれど、よくよく考えてみると椿が自ら一緒に勉強しようだなんて、どういう風の吹き回しだろうか?この前の試験勉強の時も、私から誘わなかったら勉強しませんって感じだったのに。少しは心を入れ替えたのかな?


「じゃ、帰ろ!」

「え、あ、ちょっと、」


 椿に背中を押され、私達はそろって教室を出た。


 藤宮くんに挨拶できなかったな…。


            

 途中コンビニに立ち寄り、勉強のお供としてお菓子をいくつか買った。


「このお菓子懐かしい!中学生の頃、よく食べてたよね!あと椿ママが作ってくれるクッキーも大好きだったなぁ」


 当時に思いを馳せながら、そんな話をしていると、


「私、食べてばかりだったな」

と気付いてしまい苦笑する。椿も一緒になって笑う。


「確かに!頭働かすには糖分必要~とか言って、めっちゃお菓子食べてたよな」


 そう二人で笑い合いながらうちのお隣である、椿宅に到着した。


「お邪魔しまーす」


 声を掛けながら玄関に入るが、どこからも返事はなく物音ひとつしなかった。静かで少し冷たい空気を感じた。


「?」


 私が不思議に思っていると、椿が靴を脱ぎながら言う。


「ああ、今日みんないないんだ、帰ってくるの遅くなると思う」

「あ、そうなんだ」


 椿ママは夕方にはお家にいるイメージがあったので、静かな三浦家はとても新鮮だった。


「先俺の部屋行ってて。適当に飲むもん持ってくから」

「うん、ありがとう」


 椿がリビングに入っていくのを見送って、私は二階にある椿の部屋へと向かった。

 最近は部活も忙しかったし、椿のお家に来られていなかったけれど、敷かれているマットの色や飾られている置物、ちょっぴり高そうな絵画の位置も全然変わっていなかった。階段を上がって、一番手前の部屋が椿の部屋だ。

「お邪魔しまーす」、と小声でつぶやきながら部屋へと踏み入る。

 入ってすぐ目にとまるのは、部屋の中央に置かれている小さな折り畳み机。中学の頃から勉強するときはいつもこの机だった。


 普段ここに来るときはそうしているように、ベッドを背にして腰を下ろす。

 部屋をじろじろ見るのも失礼かな、と思いながらも今更そんなところに気を使う仲でもないか、と床に散らばっている漫画を綺麗に積み上げたり、朝慌てて着替えたのか丸まっているパジャマを畳んで枕元に置いたりと、少し整頓をしたりして過ごした。


 するとまもなくして、


「おまたせー」

と椿が二リットルペットボトルのお茶と、グラスを持って入ってきた。


「お、なんかちょっと片付けてくれた?」

「うん、ちょっとね」

「今日美音来ると思ってなかったから、散らかしたままだったわ、サンキュー」


 椿がお茶やお菓子を広げる横で、私は教科書とノートを取り出した。今日は特に課題は出ていなかったけれど、数学の復習をしておきたいな。


「椿が一緒に勉強しようなんて誘ってくれるの、珍しいじゃん。さては、中間テストがあまり良くなかったな?」


 そう冗談交じりに話しながら勉強の支度をしていると、


「美音、勉強の前にさ、ちょっと話してもいい?」

と声を掛けられた。


「うん?いいよ」


 椿は私の隣に腰掛け、ベッドに背を預ける。


「昨日のことなんだけどさ、」

「うん」


 椿がやけに真剣に聞いてくるので、私は少し緊張して姿勢を正した。


「昨日サッカー部の部長と帰るって言ってたのに、今朝藤宮にお礼言ってただろ。あれなんだったのかな、って」

「なんだ、そのこと?」


 真剣に聞いてくるのでなにかと思ってしまった。


 私は昨日の下校時のことを話して聞かせた。先輩と帰るはずだったけれど、パスケースを探しに学校へ戻ったこと。折り畳み傘を家に忘れて、藤宮くんに傘に入れてもらって帰ったこと。


「へぇー藤宮が?」

「うん!案外優しいところあるんだよ」


 椿は一瞬驚いたというような顔をしたが、すぐに眉間に皺を寄せた。


「藤宮、あいつなに考えてんだろ…。変なことされなかった?」

「変なことって?」

「あ、いや。えっと、今朝その話聞こうとしたら藤宮に邪魔されたからさー。無事帰れたならいいんだ」

「うん。あ、そうだ」


 今朝のことと言えば、私も椿に聞きたいことがあったのだ。


「ねぇ椿、私のことよく心配してくれてるのって、お母さんから頼まれてたの?初めて聞いたんだけど」

「えっ」


 そう私が尋ねると椿は困ったように目を泳がせた。私、なにかまずいこと聞いた?


「えっと、それは、…」

「?」


 彼はどう言おうか思案しているようだったが、覚悟を決めたように息を大きく吸い込んだ。


「美音、それは藤宮に咄嗟に言っただけの嘘なんだ。本当は美音のお母さんに頼まれてなんかなくて、えと、」


 そこまで言って、椿は私をまっすぐに見つめた。


「俺が美音のこと気になって、ただ心配してるだけ。危ない目にあってほしくないし、嫌な思いもしてほしくない。だから、」


 椿が私の手をぎゅっと握る。突然のことに少しびっくりしてしまう。


「なんでも俺に話してほしい。いつでも俺は美音の味方だし、困ったことがあったらすぐ助けに行く!」


 真剣にこんなことを言ってくれるのは初めてだった。握られた手から温かな熱を感じる。


 あれ、椿ってこんなに手大きかったっけ?


 小さい頃から一緒にいるのに、全然気が付かなかった。私よりも一回りも二回りも大きくて、いつからこんなに男の子の手になっていたんだろう。


「うん!ありがとう!私だっていつでも椿の味方だよ!なんでも相談してほしい。幼なじみなんだから」


 そう微笑むと何故か、彼は握っていた手に力を込めた。


「いたっ、椿?」

「幼なじみとか、そういうんじゃなくて、俺は、…俺は、美音のこと、」


 椿が何かを言いかけた時、ぎしっと廊下で床の軋む音がした。


 気が付くと部屋のドアが少し開いており、そこには、


「兄さん、いちゃつくならドアくらい閉めたら?」


(あずさ)!」


「梓くん!」


 そこには椿の弟である、中学三年生の梓くんが立っていた。眼鏡をくいっとあげて、呆れたように浅くため息をついた。中学生とは思えないほど落ち着いた雰囲気をまとっている。


 椿は慌てたように私の手を離した。


「か、帰ってきてるなら言えよ!」

「声を掛けられるような雰囲気じゃなさそうだったから、温かく見守ってたんだよ。

美音さん久しぶり、ご飯食べてくでしょ?」

「あ、うん!ありがとう!」


 梓くんがにこりと微笑む。


「美音さん、兄さんなんかでいいの?俺の方が、」

「あーあー!!もういいから出てけ!」


 梓くんが言いかけていた言葉を遮り、椿は彼を部屋から追い出すと思い切りドアを閉めた。


「はあ、ほんと油断できねぇ…」

「梓くん大きくなったね!相変わらず元気そうでよかった!それより、椿。さっき言いかけてたことって?」


 梓くんの登場で話が途中になってしまった。何かを真剣に伝えようとしてくれていたと思うのだけど。

 話の続きが気になり先を促してみたのだが、椿は「いや、えっと、その話はまた今度…」と言って、ベッドに倒れこんでしまった。


「椿、大丈夫?」

「ごめん、今日はもう無理…」

「???」


 やはり最近の椿は様子がおかしい…?




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