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出会い


 ジリリリリリ……カチッ。

 朝七時ちょうど。

 私は目覚まし時計を止め、ゆっくりと身体を起こした。

 睡眠の質バッチリ、スッキリな目覚め。よく寝た~、と大きく伸びを一つ。

 ベッドから降り部屋の南側にある小窓を開けると、優しく穏やかな日差しと共に薄ピンク色の桜の花びらが、一気に部屋に舞い込んできた。


「きれい…」


 外は桜吹雪。春の暖かな陽気と爽やかな風が頬をなでた。


「今日もいい日になりそう!」


 どこからともなくそんな確信が生まれて、私の心を温かく満たす。

 皺ひとつない制服に身を包み、軽やかな足取りで学校へ向かう私…。



 などとうまくいくはずもなく…。



 ジリリリリリリリリリリー!!

 時刻は七時五十八分をまわる頃。けたたましい音を鳴らしながら目覚まし時計とスマホのアラームが部屋中に鳴り響いていた。


「うるさいなぁ、もう~」


 心地よい布団の温もりに抱かれながら、私は渋々身を起こす。

 スマホの時刻を確認すると、八時ちょうど。八時、八時…。私のぼやっとしていた脳は、一気に覚醒した。


「え!?寝坊したー!」


 叫びながらベッドから飛び出し、慌てて身支度を整える、夢とは正反対の現実。

 寝ぐせ直らない~!

 ぴょこんと跳ねる毛を力強く押し付けながら髪を梳かし、急いでワイシャツに袖を通す。赤のネクタイをきちっと締め、ブレザーを羽織った。姿見に映る自分の姿をさっと確認する。


「よし!」



 春。

 四月。

 新学期。

 高校二年生に進級した私、佐藤 美音(さとう みお)は、盛大な寝坊で初日の幕を開けていた。


「もー!朝はゆっくり過ごしたいのに!」


 完全に自業自得ではあるけれど、文句を言わずにはいられない。

階段を駆け下り、勢いそのままに台所へと飛び込む。テーブルの上に支度されていた朝食のパンを一気に口へと頬張った。


「ちょっと!行儀悪いわよ」という母の声を背中に受けながら、今日も元気に家を飛び出した。

「いってきまーす!」



 学校への道のりを足早に進んでいく。

 春。それは出会いの季節。

 新しい友達もたくさん作りたい!もしかしたら好きな人もできたりするかもしれない!

 桜の舞う街並みを眺めているだけで、期待とときめきに胸が躍ってしまう。それが春である。


「好きな人、かぁ」


 私はまだ恋をしたことがない。初恋がまだな私にとって、恋がどんなものなのかはもちろん分からない。けれど、きっといつか素敵な恋が私にも訪れると信じて、日々を楽しく全力で過ごしている。


 私はどんな人と恋に落ちるんだろう?


「少女漫画みたいな素敵な恋がしたいなぁ、なぁんて」


 漫画の世界みたいに、私を一途に想ってくれる男の子に出会って、素敵な恋をする。そんな日がいつか来るといいなぁ。

 そう思わずにはいられない。寝坊した原因も昨夜遅くまで少女漫画を読んでいたせいだった。

 最初はいがみ合う二人だけれど、いつしか惹かれ合って、恋に落ちる…。THE王道!ベタだけど、そんなベタな展開が大好きなんだよね~。


 と、昨日読んだ漫画に想いを馳せている場合ではなくて!


「遅刻しちゃう!」


 寝坊して遅刻ギリギリだというのに、春の暖かな陽気に誘われて、ちょっと浮かれてしまっていたようだ。今がどんな状況かすっかり忘れていた。

 小走りで桜並木を通りすぎる。暖かな優しい風と桜の花びらの舞う景色は、夢とまるで同じだった。

 やっぱり今日はいいことがありそう!なんて、寝坊したことは置いておいて、やっぱり浮かれてしまう。

 視界を通り過ぎるピンクの風景に気を取られながら、いつもの十字路に差し掛かった。


 と、その時だった。


 ドンっ!


「きゃっ!?」


 あっ、と思っている間に、私の身体はバランスを崩していた。

 曲がり角から出てきた人に気付かず、ぶつかってしまったのだ。

 お尻への衝撃に覚悟を決め、目をつむった…けれど、その衝撃はいつまで経ってもやってくることはなかった。


 あれ?


 恐る恐る目を開けると、眼前の男性と目が合った。切れ長な目が少しきつく感じるけれど、目鼻立ちが整っていて、かっこいい人だなぁという印象を受けた。

 少しの間見惚れていた私は、はっとして自分のおかれている状況を確認した。


「!?」


 私はその男性に腰を抱き寄せられ、抱きしめられる形になっていた。

 私が慌てふためいていると、男性は私の顔を見て驚いたように目を見開いていた。のだが、それも見間違いだったのかと思うくらいに一瞬で、すぐさま無表情へと戻る。


「ご、ごめんなさい!私、」


 謝りたいのと、体勢が恥ずかしすぎるのとで、私は彼の腕から逃れようともがく。男性に抱きしめられることが初めての私は、もうパニック状態だった。

 すると彼はその意思を汲んでくれたのか、ぱっと私を支えていた手を離した。いや、待って、今急に手を離されてしまったら…!


「わっ!」


 そのまま体勢を崩すことになった私は、どしんとその場で尻餅をついた。


「いったー…」

 痛みの残るお尻をさすりながら顔を上げ、助けてくれたかに思われた男性の方を見やる。


 あれ、うちの学校の制服だ…?


 よく見ると男性は、いや男子生徒は、うちの高校のブレザーを着ていた。


 面倒そうにこちらを見下ろし、睨むように目を細め、ただ一言こう言い放った。


「…気を付けろ」


 そう吐き捨てるように言って、彼はさっさと行ってしまった。


「……………」


 私は呆気にとられしばらく尻餅をついたまま、ただただ茫然と彼が歩き去って行った方を眺めていた。


 え?睨まれた?確かにぶつかった私が悪いけれど、バランスの悪い状態で手を離すなんて、女の子に対する扱いひどくないですか?少女漫画ならここで優しく助けてくれて、恋がはじまる展開もあるんじゃないですか?


 憤懣な気持ちがじわりと沸いてくる。


「もう!なんなのよ!」




 期待とときめきに胸をおどらせていた時間は、あっという間に消え去ってしまった。

 前言撤回、今日は全然いいことがない日だ。



 春。

 四月。

 新学期。


 クールなイケメンに曲がり角でぶつかっても、現実は少女漫画みたいにうまくいかない。




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