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王妃に求めるただひとつの  作者: 多部 好香


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王妃に求めるただひとつの 02

「おい、お前……そろそろ城に顔を出して書類仕事しろよ……」

 ランチ後のノーゲストタイム、ダレルがシモンズ食堂を訪れていた。

 ダレルからの帰宅命令を僕は拒否している。

 僕がアルマさんにソルトボトルを投げつけてから一週間……。

 シモンズ食堂に来る前は嫌々だったが……正直に言おう。シモンズ食堂での生活が楽しくて仕方がない。


「私にソルトボトルを投げた罪で、賄い作りの刑に処します!」

 あの日そう判決された僕はその日アルマさんと店主に料理の腕前を披露した。すると、大絶賛の嵐!

「フレドリックさん! ブラボー! ブラボーです! 美味しー!」

 フレドリックは僕の正体を隠すための偽名。

 アルマさんが以前読んだ小説の登場人物の名前らしい。

「あなたと同じ金髪でスタイル抜群な男前さんです」

 キャラクターの容姿などどうでもいいが、結構気に入っている。

「う〜ん! これは新たなメニューに出会えそうな予感! ね? 店主!」

 城でも料理して食べさせてきたが、むさ苦しい男どもが美味いな! とガツガツ食べるだけだった。それはそれで作りがいがあったが、女の子ってこんなに表情が変わって表現力が豊かなのか……? 口を動かす度にモニュモニュ動く頬っぺたとニコニコ幸せそうな顔がとてつもなく可愛い。僕が作った物でこんなに喜んでくれて、こんなに満たされた気持ちになるなんて……。

「デザートもありますよ?」

「フレドリックさん、大好き!」

 大好きって……大好きって言われた……。ギュッと心臓を鷲掴みにされる感覚……鷲掴みにされているのに幸せなこの感覚……。

 城にいる時にはこんな感覚知らなかった……。その日は食堂の業務を色々教えてもらい、お店が終わった後アルマさんと店主と手合わせしてもらった。

 店主はアルマさんの師匠。剣の達人で、銃も扱える。

 二人とも僕と対等に手合わせができる……いや、僕以上か……? アルマさんなんて双剣がメインらしいが銃も扱えるらしく二丁拳銃や右手に剣、左に銃と様々な武器を多様に扱い攻撃を繰り出してきて舌を巻いた。

「随分と鍛錬したんですね」

 僕が驚いていると、意外とそうでもないんですよ? とアルマさんが笑う。店主は日常の遊びに鍛錬を取り入れていたらしく、鍛錬していたことに気づかないくらい楽しかったらしい。

「女の子だからね……この港都は他よりも物騒だ。大体僕が一緒だけど、いつでも守ってあげられるわけじゃないから」

 それで少し教えたらメキメキ上達してしまって……今じゃ僕以上かもと店主が苦笑いをする。

「私の兄の方が銃は上手いんですよ」

 射的ごっこで勝ったことがないのと悔しそうだ。双剣を使うことも、剣舞を習っていた延長線上で身につけたらしい。

「ウィルフレッドさんも王様なのになかなかやりますね、帰るまでに沢山手合わせしてもらわなくちゃ!」

 それ以上強くなってどうするんだ……? 探り屋見習いもしていると言っていたが、やっぱり心配だな……。そう思うのは強さとは反対のほわほわ優しい見た目のせいかもしれない。

「私と兄は家を出て兄弟で店主に着いて来たんです」

 アルマさんが店主との出会いを話そうとした時……

「僕達は出会うべくして出会ったんだ」

 店主がアルマさんの頭を撫でると、そうですね……大感謝ですと店主を見て笑う。

「僕は元々コーヒー豆の買い付けをしていてね。色んな土地でコーヒースタンドをを開きながら旅をしていたんだ」

 それだけではないんですよ! アルマさんが胸を張りドヤ顔で自慢げに話す。

「店主は探り屋なんです! しかもとっても優秀な!」

 なるほど……それで剣も扱えるのか……。

「とある田舎町にコーヒーの栽培をしてる夫婦がいてね。そこにアルマちゃん達がいたんだよ。凄くいい豆を栽培していてね。度々立ち寄る場所だった。この店の看板であるシモンズコーヒーはそこから仕入れている」

 いやー、懐かしいなぁ……と目を細める店主。

「アルマちゃん達は早くに両親を亡くして、そこの夫婦に引き取られたんだ。子供が居なかったから自分達の子供のように可愛がっていた。でも、こんな田舎町では二人の将来……特にアルマちゃんの兄、トレヴァーの将来が不安だと相談されてね。うちのコーヒー栽培は趣味みたいなもので儲けも少ない、トレヴァーが大人になって家族を持ったら生活が苦しいだろう……君ならよく知っているし、信頼もできる。もしよければ二人の面倒をみてくれないかって。そこでトレヴァーくん、アルマちゃんも入れてみんなで話し合った。子供達は最初拒んだけど……アルマちゃんはコーヒースタンドのお手伝いしてくれていたし、トレヴァーくんは自分の知らない世界を知っている僕が来るとよく話をしていた。暫く一緒に生活すると納得して僕に着いてきたよ。僕は旅をするのをやめて、前々から港都に店を出す予定だったからこの港都に店を開いた。ここなら色んな土地の人から情報収集もできるし……物流も盛んだからね。欲しい物も直ぐに手に入る。トレヴァーくんは学校に通って今は貿易会社に勤めているよ。アルマちゃんは看板娘兼探り屋見習い」

 田舎の義両親とは今も交流があり、手紙の交換をして……年に一回は行き来しているそうだ。

「田舎の両親にも店主にも、とても感謝しています」

 ふふっと笑うアルマさん。

「君のお父上とも一緒に仕事をさせてもらったことがあるよ。人徳に恵まれたいい王だったね。その才を君が受け継いだのかな? 代替わりしてもこの国は国民が明るくて平和だ。しかもこの港都は人の出入りが激しい割には大きな犯罪も無い。民を守る警備局が優秀だ。君の政策がいいからだね」

 僕が守らなければいけない大切な国。当たり前のことをしているだけで人に褒められることではないが……自分の仕事を誰かに認めてもらえるのは嬉しい。

「ありがとうございます。部下達の支えがあってこそです」

 頭を下げると、お父上も同じことを言っていたな……親子だね。と笑う。

「女の子に凄い力でソルトボトル投げつけたけど」

 僕をジト目で見るアルマさんに、慌てて

「すみませんでした!」

 と再び身体を直角に曲げて謝った。


 ……とそんなこんなで、凄く楽しい日常を送っているから城には帰りたくない。

 朝から夕方までシモンズ食堂で仕事。

 接客したり、料理したり……町民の悩みや困り事を解決したりとやりがいはある。

 探り屋や船乗りから例の海賊組織の情報も入るから、本来の仕事も捗っている。

 夜はアルマさんと鍛錬。技のスキルが上がった気がするし、トリッキーな技を色々教えてもらえるから面白い。

「だから帰りたくない」

 帰宅拒否をする僕にダレルが溜息を吐く。

「アルマ、帰れってこいつ説得してくれ……」

「呼び捨てするな、アルマさんと呼べ」

 うるせーよ! カウンターの中と外で睨み合いが始まったとき。

「フレドリックさんが帰っちゃったら美味しいご飯食べられなくなるから嫌だな……」

 ほら、嫌だって。僕が勝ち誇ったようにダレルを見下す。

「それにアルマさんは僕のことが大好きだって言ってくれる」

 毎日、ウィルフレッドさん大好き! フレドリックさん大好き! って言ってくれるのが癒し。大好きって言ってる時の笑顔がまたたまらない。

「お前、毎日のように他国のお姫様達から求婚されてるだろ⁉︎」

「アルマさんの大好きとそんなの一緒にするな」

 アルマさんの大好きは心がこもっていて、ふんわり温かいんだ。

「アルマー、プリン好き?」

「大好き!」

 ほら? と今度はダレルが僕を見下してくる。

「お前はプリンと同列なんだよ⁉︎」

 カウンターの中と外……睨み合いの後、今度こそ殴り合いの喧嘩が始まる……その寸前に、

 カラン、カラン……とドアベルの音。

「「いらっしゃいませー!」」

 寸前までダレルと睨み合っていたとは思えないスマイルをみせ、見事アルマとハーモニーを奏でたウィルフレッドにダレルは再び溜息を吐いた。


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― 新着の感想 ―
活気のある店の楽しい雰囲気が伝わってきて、読んでるだけでワクワクと楽しい気分になってきました。 それに、王様のおそらく初めての恋心……にやにやしてしまいます。続きも楽しくよませていだだきます。
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