王妃に求めるただひとつの 13
「あのぅ……そもそも王妃って何をすればいいんですか?」
アルマの質問に頭を悩ませる護衛隊長らとグレンダ。僕もはて? と首を横に倒した。父と母は国の慈善事業や外交、式典などに顔を出していたが、僕は自分の存在を隠しているため表舞台に立つことがない。
結婚を機に国民の前に姿を現すべきだろうか。
でも……僕は拳を握る。
影ながら国民を守る存在でいたい……その思いも捨てきれない。身分を明かすと、どうしても自由が利かなくなる。そうなると国に入り込もうとする危険因子を排除することができなくなる。
もし危険な任務で僕の部下達が命を落とせば、自分が動かなかったことを後悔するだろう。でも、いつまでもこのままでいい訳ではないこともわかっている。
「おい、おい。めでたい日にシケた顔すんなって」
僕の考えが読まれてしまったのか、ダレルが呆れたような顔をしている。
「お前の我儘は今に始まったことじゃないんだから、そう悩むなよ。何のために俺達がいると思ってるんだ」
レナルドが大笑いしながら僕の頭をグシャグシャと混ぜる。
「面倒臭い荷物はこれからも引き受けるからさ」
メレディスが笑いながらこちらを見て、
「これからもウィルの好きなように生きろよ」
サイラスが僕の肩に手を置いた。ポンポンと僕を安心させるように。
「そうですよ、坊っちゃん。このグレンダにもお任せくださいませ」
いつまでも頼りになるグレンダにありがとうと言うと、王妃のこともお任せください。そう胸を叩いてアルマを見て頷く。
「みんな、ありがとう。もう少し自由にさせてもらうよ」
僕には頼りになる仲間がいる。そして、大好きな女の子がお嫁さんになってくれるんだ。
最高に幸せだ。
「そうなると……そうだな、これといって王妃の仕事って無いな」
メレディスが考えるようにそう言った。
「外交はレナルドと婚約者のキャシーがしているし……」
「何か仕事を振られるまでは今まで通りシモンズ食堂の看板娘でいいんじゃないかな? 国民には名前や顔は公表しないんだし」
アルマさんがシモンズ食堂に居てくれれば町の様子もわかるし、情報通の店主との連絡もとりやすい。
「僕もアルマさんにはシモンズ食堂に居てほしい。僕と結婚することで、好きなことを諦めてほしくないから」
やったー! と喜ぶアルマさんと店主。
あぁ、でも……とサイラスが口を挟む。
「夕方までには城に戻って来て、みんなの家の子供達の世話をしてもらえると助かるかな」
サイラスの言葉にアルマの表情が明るくなる。
「子供達のお世話! ぜひ! お料理も手伝っていいですか?」
もちろんですとグレンダが承諾すると、ニコリとアルマが笑う。
「そして、いつ王妃としてデビューしてもいいようにマナーの練習もしておきましょう」
はい! と緊張の面持ちで答えるアルマさん。きちんとできるかしら……と心配しているので、大丈夫だよと励ます。
「あっ! 王妃として一番重要な仕事があるじゃねえか!」
「えっ⁉︎ 重要な仕事⁉︎」
ダレルの発言に、アルマの顔に緊張が走る。
「猛獣の飼育係」
ダレルのドヤ顔に、「あぁ!」と護衛隊長らが手を叩き大きく頷いた。
「それが一番大変だな……」
「適任者が居なくて本当に困っていたんだよ」
「凶暴だから気をつけろよ」
「坊っちゃんはやんちゃですからねぇ」
幼馴染の気安さもあって好き放題言う護衛隊長四人やグレンダに向かい、あぁ! と納得顔のアルマさん。
「それはお任せあれです! ね?」
ドン! と胸を叩くと僕を見て笑った。
それから数ヶ月後。
僕とアルマさんは夫婦になり、城の離れで暮らしている。
モーニングの時間は僕もシモンズ食堂について行き、シモンズ食堂で調理や給仕の仕事。その後は城に戻り国の業務。夕方にはアルマさんも城に戻ってきて、みんなの家のお世話や、グレンダによるマナーレッスンを受けている。住まいである離れにはもちろん尾曲がり猫のロックも一緒だ。
そして……朝、アルマさんの髪を結うのも、夕方、手に軟膏を塗るのも前と変わらない僕の仕事。これだけは誰にも譲れない。
シモンズ食堂ではアルマさんはフレドリックと結婚したということになっていて、盛大なパーティーも開いてもらった。サプライズゲストとして、アルマさんとトレヴァーさんの育てのご両親も駆けつけてくれて、とても楽しい時間を過ごした。
もちろん、トレヴァーさんとご両親には本当のことは話してある。ご両親はまさか! と目を丸くしていたが、アルマさんの「私はとても幸せ」という言葉に涙していた。
僕とアルマさんは様々な人達の協力を得て、今日も幸せに暮らしている。
「アルマお姉ちゃん!」
朝、シモンズ食堂の前を掃き掃除するアルマに近所の女の子が声をかけた。そして、見て見て! と得意そうに頭を指差している。
「あら? 素敵なティアラね、どうしたの?」
折り紙で作られているティアラには様々な宝石がクレヨンで描かれている。
「前に、この国の王様と王妃様のお披露目があったでしょ? その時に王妃様がつけていたティアラを真似したの」
遠くてお顔は見えなかったけど、ティアラがキラキラしてとても綺麗だった……とうっとりしている女の子。
「王妃様も王様もとても幸せそうだった!」
アルマもその時の景色を思い出す。遠くからのお披露目だったが、国民が手を振って二人の挨拶に答えてくれた。凄く緊張したけど、ウィルフレッドさんが手を握ってくれていたから安心したっけ。
「私もね! 大きくなったら素敵な王妃になりたいの!」
アルマの前でくるりとスカートを翻しながらポーズを決める女の子。
「素敵な夢ね。でも、王妃になるにはね……」
女の子の背の高さに合うように身を屈ませて、耳に口を近づけ内緒話をするアルマ。
すると、カラン、カラン……とドアベルを鳴らしてアルマの旦那様であるフレドリックが出てきた。
「アルマさん、すみません! 仕事が入ったので一緒に来てくれませんか?」
焦ったようなフレドリックの言い方にハイ! と元気よく応えると、女の子に向かってわかった? とウインクした。
「うん! わかった!」
笑顔でアルマを見送る女の子に、手を振ってシモンズ食堂に入る。
「今回の任務も危険らしいけど、僕の背中を任せてもいいかな? 僕の王妃」
「ええ、もちろんです。王様!」
二人は微笑み合い軽くキスをすると、迎えの車に乗り込んだ。
『王妃になるにはね……王様を守れるくらい強くないとダメなのよ』
《終》
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