「幼馴染が夏祭りに告白する相手を確認したい」って言うけど、その相手はおまえだろ?
友情は大事だ。
特に女関係で揉めたくないから、友達が好きな相手には近寄らないし、協力してほしいと求められればできるだけ応じると決めている。
決めては、いるのだが。
「頼むよ。朝陽の告白相手が誰なのか確かめたいんだ」
親友である悠真の願いには、頷きがたいものがあった。
――そんなの、おまえ以外にいないだろ?
という嫉妬が先に立ったからだ。
鹿内朝陽といえば、この高校ではちょっとした有名人だ。
学内で群を抜いて可愛いので、すれ違う男はだいたい振り向く。
人見知りと噂の彼女が親しげに笑いかける男なんて、幼馴染みである悠真くらいしかいない。少なくともこの高校には。
彼もよく女子の話題に上るイケメンだし、美男美女でお似合いだ。
「取られたくないなら、おまえから告れば?」
「僕は変な奴が相手じゃないか心配なだけだよ。朝陽は家族みたいなものだから」
悠真は真面目な顔で俺を見ている。あくまで真剣に幼馴染を案じているらしかった。
「頼むよ。男一人で夏祭り会場をうろついていたら変だろ? 一緒に来てほしい」
憧れの女の子が他人に告白するシーンを見に行くなんて、どんな拷問だよ。
そうは思ったが、友達に頼られると断れない俺は、悠真のお願いを了承してしまった。
◇
夏祭り当日、待ち合わせの公園に悠真は遅刻した。
「おまえが遅刻すんなよ……!」
スマホを握りしめた俺は、眉間を押さえてため息をついた。こっちは重い足を引きずるようにして約束の時間に間に合わせたというのに。
「あの、草加くん……?」
鈴の音みたいな可愛らしい声がした。
ばっと顔を上げると、浴衣姿の鹿内さんが俺の前に立っている。
可愛い。
他の言葉がしばらく出てこなかった。
制服姿とは雰囲気が違って、ゆるく結われた髪も浴衣も髪飾りも、全てが可愛い。
「えっ、鹿内さん、なんで」
「あ……悠真が成功させたきゃ浴衣で来いって」
会話のすれ違いも可愛いから許す。
ん? なぜ悠真の名前が出る?
「草加くんが好きです! 夏祭りでデートしてください」
「えっ!?」
告白相手は――俺か!?
慌ててあたりを見回すと、木の陰からひょっこり顔を出した悠真が、力強いピースサインを俺に向けた。
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※その後の初デートのお話はこちらです。
「夏祭りに着ていく浴衣には、勇気の出る魔法がかかっていると聞いたから」
https://ncode.syosetu.com/n1140hz/
※悠真が主役のお話はこちらです。
「大好きなお姉さんを夏祭りに誘うためなら、小狡い手だって使うよね」
https://ncode.syosetu.com/n0826hz/