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ショートショート5月~3回目

未完成の誤

作者: たかさば

 物語が、浮かんだ。

 物語が、生まれた。

 物語が、溢れ出した。


 完成を目指して、文字を紡ぎ始めた。


 物語の始まりを書いて。

 物語の背景を書いて。

 物語の人物を書いて。

 物語のあらましを書いて。


 言葉がつながり、物語が成長してゆく。


 あふれる物語が…落ち着かない。

 あふれる物語が…まとまらない。

 あふれる物語が…おさまらない。


 ……不穏な、気配がする。


 物語に自分を重ねて。

 物語に他人を並べて。

 物語に怒濤を連ねて。

 物語に思いをのせて。

 物語に願いをこめて。


 物語で事件を起こして。

 物語で討論をして。

 物語で気持ちを確かめて。

 物語で納得できなくて。

 物語で不満を覚えて。


 ……未完成の、予感がする。


 物語が、すすまない。

 物語が、とまる。

 物語が、動かない。

 物語が、燻る。

 物語が、輝かない。

 物語が、ふてくさる。


 ……物語が、完成しない。


 終われない物語を棚の上にのせ、新しい物語に取り掛かる。

 終われない物語から逃げ出して、新しい物語に手を伸ばす。


 ……物語が、増えてゆく。


 終われなくなった物語に囲まれて、逃げ出せない。


 ……完成しない物語に、埋もれて行く。


 終われなくなった物語たちに申し訳なくて、顔を顰める。

 終われなくなった物語たちに申し訳なくて、顔を背ける。

 終われなくなった物語たちに申し訳なくて、顔を伏せる。


 恋の物語が、投げ出されたまま放置されている。

 夢の物語が、放り出されたまま空を見上げている。

 希望の物語が、輝くことがないまま雨ざらしになっている。

 不満の物語が、言い訳すらつぶやかずに蔑ろにされている。

 怒りの物語が、感情を揺らすことなく穏やかに佇んでいる。

 飢渇の物語が、手を伸ばすこともせず立ち尽くしている。

 堕落の物語が、悔いも諦めもないままに揺蕩っている。


 恋の物語が、切なさを抱えたまま途方にくれている。

 夢の物語が、期待を抱えたまま途方にくれている。

 希望の物語が、迷いを抱えたまま途方にくれている。

 不満の物語が、憎しみを抱えたまま途方にくれている。

 怒りの物語が、戸惑いを抱えたまま途方にくれている。

 飢渇の物語が、切望を抱えたまま途方にくれている。

 堕落の物語が、自嘲を抱えたまま途方にくれている。


 完成しない物語と、完成させたい私。


 こういう物語にしよう。

 こういう物語にしたい。

 こういう物語がいいな。

 こういう物語もあるな。

 こういう物語を書きたい。


 完成させられない私と、完成させてもらえない物語。


 こういう物語にしたいのに。

 こういう物語にしたかったのに。

 こういう物語がいいと思ったのに。

 こういう物語があればいいと思っていたのに。

 こういう物語を書きたいと思っていたはずなのに。


 物語が、終わらない。


 何一つ、物語を完成させられないまま、未完成の物語だけが増えてゆく。


 終われない物語が、あふれている。

 終われない物語が、文句も言わずに呆然としている。

 終われない物語が、追求することも無く散らばっている。


 中途半端な物語に押しつぶされて、何も考えられない。

 中途半端な物語に押しつぶされて、何も考えられない。


 私は、動けない。

 私は、何もできない。

 私は、どうすることもできない。


 ……このまま、埋もれていても、何も、変わらない。

 ……このまま、完成しない物語に囲まれていても、何も生み出せない。

 ……このまま、言い訳ばかりしていても、物語を完成させることなどできない。


 未完成の気配を、消してしまえば、いい。


 すべてを消して、また、やり直そう。

 すべてを消したら、また、物語が浮かぶはず。

 すべてを消してしまえば、また、書きたい言葉があふれるはず。


 何度も見つめた物語を、消した。

 続いていかない物語を、消した。

 ぼんやりとした物語を、消した。

 纏まってくれない物語を、消した。

 結末を与えてもらえない物語を、消した。


 私を悩ませ続けていた、言葉のダンスパーティーが幕を閉じた。

 私を振り回し続けていた、言葉のわがままコンサートが終演した。

 私を翻弄しっぱなしだった、言葉のミラクル大サーカスが撤収した。


 私のまわりには、言葉のないステージが広がっている。


 これなら、新たな気持ちで……物語を創造することができるに違いない。


 だだっ広い空間の中で、私は両手を広げて……物語の降臨を、待った。


 ……すっきりとした、この何もない心で。

 ……気持ちも新たに、すばらしい物語を。


 ……私にしか書けない、飛び切りの、物語を。


 ……あれ、おかしいぞ。


 …………。


 ねえ、なんで、何にも……降りてこないの?



 消してしまった、後悔を、胸に。


 情けない物語を書いた人が、ここにいますよ……という、お話。


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― 新着の感想 ―
[一言] テレ又はタラ〜(省略)蜜〜柑〜生〜。 緑色なのに青いとか成熟期を迎えてないのに早積みされてしまう蜜柑さん。(⚠某えっちい方では無い) 食べ頃見逃すと消えたり持ち味が変わってしまう天然な生モ…
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