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9. 順と礼夏 (4) 過去

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寝顔だけ見ているとあどけなさが残る、二年前の礼夏を思い出す。


車の後部席で眠っている礼夏(れいか)は、能力を使って疲れたというより、深夜ラジオを聞いての寝不足だ。



もともと礼夏の家は、水無瀬玄州の血筋として扱われていなかった。

巫女の家系ではあったが、六代ほど遡った先祖が水無瀬の力を借りて霊的な苦難を乗り越えた過去があり、そこから水無瀬一族に加わった経緯がある。水無瀬の人間と婚姻関係を結んだ者もいたというが定かではなかった。


巫女としても、特に優れていたわけではなく、霊能力も子孫に引き継がれることは稀で、水無瀬一族での礼夏の家の役割は現代においてもほとんど無いに等しかった。せいぜい季節の行事に参加し手伝う程度だ。血縁関係の有無がはっきりしていなかったせいで、たいがいは“水無瀬の血筋ではないくせに”と揶揄され、どちらかといえば疎ましがられていた。

それが突然、礼夏が人を操る特殊な力の持ち主であることが発覚したのだ。


最初に気づいたのは母親だった。

うすうす霊能力はあるだろうと思っていたが、礼夏が7歳の時、『お姉さま』と慕った水無瀬知世(みなせちせ)が、水無瀬の当主となりいなくなったのを境に、奇妙な出来事が起き始めたのだ。


周囲にいるすべての人間が、礼夏の、あるいは両親の都合の良いように動く。

ご近所トラブルでも、あれだけ揉めていたのに礼夏が出てきたとたんに相手はコロッと態度をかえた。

そして、礼夏が嫌う人間は年齢に関係なく突然死する。必ず礼夏と会ったあとに。


礼夏には霊能力以上の何かがあるのではないかと悩んだ母親は、知世に相談するために謁見を申し込んだ。知世への相談内容はそのまま水無瀬玄州の知るところとなり、玄州は思いもかけぬ宝の出現に大きな喜びを見せた。


玄州は『水無瀬の血が証明された』として、礼夏と両親を、改めて水無瀬一族であると宣言した。


礼夏は当主候補となり、一家は水無瀬一族内で、より高い地位に押し上げられた。


宣言から五年後、玄州は当主候補となっていた礼夏を、水無瀬・本家筋の風見家に預かり入れることとした。両親はこれに猛反発したが、水無瀬玄州は億単位の金を払いまずは父親を籠絡(ろうらく)し、手続きをしてしまった。

すなわち、水無瀬玄州は礼夏を金で『買った』のだ。

激怒した母親をなだめたのは礼夏自身で、両親は礼夏を手放してすぐブラジルに移住した。

礼夏が12歳のときだった。


『順、わたしはお父さんもお母さんも恨んでないわ。・・幸せでいてほしかったの。それだけ』


両親と飛行場で別れたあと、なにげに言った言葉に、礼夏が両親に邪眼の術をかけたのだと順は気づいた。

それならば理解できる。

水無瀬に渡すことをあんなに反対していた母親が、すんなりと礼夏を手放してブラジルに移住を決めた謎が解ける。もしかしたら移住自体、礼夏が両親を操ってさせたのではないかと順は思った。


これまで礼夏は両親を操ることはしなかったが、礼夏は礼夏なりに、両親の立場と行く末を心配したのだ。母親が強い反発を続ければ、彼女はいずれ事故死という名の不幸に見舞われたはずだ。

礼夏は母親の不幸を察知したのだろう。


いずれにせよ、水無瀬一族と関わらないためにも日本にいないほうがいいと、礼夏は判断した。


礼夏はたった12歳で、ひとりで生きることを選んだのだ。








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