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5. 礼夏という娘 (2)

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「心配してるのね、順」


礼夏はソファの背もたれにアゴを乗せ、風見の瞳を覗きこんだ。風見は答えずに礼夏をみつめた。


「あの男が女を逃がすんじゃないかって」


「・・・・・」


「でもそれならそれでまだ見込みがあるわ。そうでしょ?」


礼夏は苦笑いをこぼす。


「礼夏」


「だからと言って赦したりはしないけどね」


━━━━お姉さまは亡くなってから一度もわたしのもとに現れない。


『もしも私が死んだら真っ先に礼夏のもとに会いにいくわ。約束する』


お姉さまが約束を違えるなんてない。

となると理由はひとつ。

死んだあとも『囚われている』からだ


贄として使われているからだ━━━━


「あーーーーー!!順のせいで団長の場面見逃したじゃない!!」


テレビに向きなおした礼夏が指を差している。


「・・・。巻き戻せばいいだろう?」


「そーゆー問題じゃないのよ!!」


礼夏はプリプリしながら


「こういうのは流れが大事なのよ!また最初から観なくっちゃ!!」


礼夏はリモコンで一度止め、一番最初まで巻き戻した。


テーマ曲が流れる。西武都市警察の大門軍団が警察署の正面から階段を降りてくる。


「キャーー!何回観てもカッコいいわ!この階段を降りてくるだけなのにカッコいいなんて罪よ罪!わたしパート2からのテーマが一番好きだけどパート1もステキよね!ねぇ、順も一緒に観ましょうよ!」


「・・・、そうだね」

風見はクスリと笑って、礼夏の隣に腰をおろした。








翌朝、午前六時。礼夏は秋葉香に起こされ、眠そうな目をこすってベッドから這い出た。

ラジオの深夜放送を聞いていて、寝たのは午前3時だった。

「だって面白いんですもの。オールナイトスッポンポン。秋葉も聞けばやめられなくなると思うわ」

「礼夏様・・・。朝、きちんと、一回で、目覚めるなら、聞くなとは申しません。ですが・・・!五回も六回も起こさなければならないなら礼夏様に深夜放送を聞く権利なぞありません!!ラジオは没収です!!」

「ひどいわ秋葉、唯一のわたしの楽しみを奪う気なの!?」

「礼夏様には『西武都市警察』があるでしょう」

「西武都市警察は視覚と聴覚と乙女心を楽しませてくれるものよ!ラジオとは違うわ!オールナイトスッポンポンはね、聴覚のみを刺激してくれる唯一の楽しみなんだから!」

「よくもまあ次から次と口からデマカセを」

「あら、秋葉の教育の賜物よ」

礼夏はニッコリ笑った。

「・・とにかくラジオは没収です!」

「ふあ~い」

礼夏は観念した。

ラジオを没収されてしまった。

こんなに爽やかないい天気なのに。



洗面所で顔を洗うと、礼夏は真っ先に専用ゴーグルで両目を覆った。

平凡に、おとなしく、一般社会で暮らすためには必要不可欠だった。


礼夏は『邪眼』と呼ばれる力を弱めるために自ら視力を落とす。0.01以下に落とされた視力では日常生活に不便をきたすため、落下しづらい度入りのゴーグルを着用していた。

長い髪を三つ編みにしあげ、礼夏は鏡を見て、

「よし!今日もやるぞ!」と気合いを入れた。

何をやるかは定かではないが、毎朝の儀式のひとつなので、これをしないと1日のノリが悪くなる。


紺色のセーラー服に着替え、紅いスカーフを結び、中学校に行く準備はできた。


「やだ!もうこんな時間?!」


寝すぎたせいで時計の針は午前七時半をさしていた。


「朝ごはんちょーだーい!」


礼夏がバタバタ走りながらダイニングルームに飛び込んできた。

給仕係りが素早く朝食を並べた。

バターたっぷりのトーストに野菜サラダと果物。

スモークサーモンを添えたオムレツ。

「いっただっきまーす」

礼夏はパクパクとサラダやオムレツを食べ始めた。

「そうだ。坂田を呼んで。話があるから」

礼夏はダイニングルーム内の召し使いに命じた。




知世(ちせ)様の墓参りでございますか?」

礼夏は坂田は朝食の席に呼び、直接用件を話した。


朝日の入る窓を後ろにしているせいで、坂田の頭が輝いている。

坂田は礼夏の前では決して顔をあげないため、髪の毛のない丸い頭が余計に目だつ。


礼夏は笑いをこらえつつ、紅茶をこくりと飲んだ。


━━━おめでたい頭だわ。いろんな意味で


思っても口にはしない。


━━━せっかくの良い天気だからこのままいい気分で登校したいもの


「そうよ。まさか自害されたからといって野ざらしにしたわけじゃないでしょ?」

礼夏はバターのたっぷりぬられたトーストに、オレンジマーマレードのジャムをのせてから食べた。

「当然でございます。ただ、当主の座を途中で放棄したとして、歴代の当主の墓に納めることは許されず、別の墓所に埋葬されましたが」

「ならそこに行くわ。学校が終わったらそのままお墓参りに行くから」

「礼夏様、本日は金井市議が目通りしたいと申しております」

「どうせ選挙でしょ?毎日親父の墓参りでもしとけって言って。この15年、一度も墓参りしてないなんてバカなんじゃない?墓、荒れ放題じゃない。食べ放題や飲み放題は許されるけど荒れ放題は許されないわよ。(ホトケ)、なめんじゃねーよって言っといてよ。それより車お願いね。順を迎えにこさせてね?あ、こぼした、やだもったいなーい」

「礼夏様、登校のお時間でございます」

「えー?!もうそんな時間??しょうがないわパンくわえていこうっと。あ、替えのゴーグル忘れたわ。とってくるから待ってて!」

礼夏はパンをくわえてバタバタと自室に駆けて行った。



坂田は駆けて行った礼夏の姿が消えるまで頭を下げていた。


騒がしい娘だ。

わがままで勝手な真似ばかりする━━━━

「礼夏様は金井市議と会ったことはあったか?」

坂田は一歩後ろに控えていた秘書の工藤に問いかけた。

「いえ、一度も。金井は地方議員ですので接点はどこにもないですから」

「・・・・・」

坂田は押し黙った。

坂田は礼夏が当主の座に着くのを反対した一派だ。

例えどれだけ霊能力が強くても扱いにくい当主では何かと困るからだ。

「能力は本物のようですが・・」

「・・・金井市議が来たら知らせてくれ」

「わかりました」


『能力は本物のようですが』

工藤のセリフにフンッと鼻を鳴らし、

だから困るんだ、と、坂田は思った。







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