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2. 対決

.



御簾が上げられ、礼夏は一人の男を前にしていた。

男は青いおとなしめのスーツを着用している。


「護衛を務めます。伊佐山と申します」


伊佐山は深々と礼をしたあと、下げていた頭をあげ、礼夏と顔をあわせようとした。


「頭はあげないで。わたしの眼を見ないでちょうだい」


礼夏はきつい言い回しで伊佐山を制した。


「は、しかし」


「わたしに操られないほどの意志があなたにあるなら別に構わないけれど」


伊佐山の口元がピクリとした。

棘のある口調だった。


「伊佐山、あなた先代当主の知世(ちせ)様を守りきれなかったくせにわたしの護衛を務めようと言うの?」


「お待ち下さい礼夏様。それは誤解でございます。伊佐山が駆けつけた時、知世(ちせ)様はすでにこときれておりました」


伊佐山の後ろにいた水無瀬上層部の坂田が慌てて礼夏に申し立てた。平伏したままの進言だ。


「すでにこときれていたですって?そうなるまで誰も気づかなかったなんてあり得ないわ!護衛対象をほったらかしにしてお前はどこにいたと言うの?答えられるなら答えてごらんなさい!」


「礼夏様、落ち着かれてください。伊佐山は我が一族に長く仕えており、護衛としての腕は一族で最も秀でた者でございます。知世様の場合は特殊な例でございました。間に合わなかったのは仕方がないことでございます」


別の男が意見した。


「ふうん、確かにそうね。特殊だったわね。知世様は自害されたんだものね」


伊佐山をはじめ、全員が息をのんだ。


「伊佐山、頭をあげなさい」


平伏したままの伊佐山は、


「良いのですか?」


と礼夏に意の確認を行った。


「さっきも言ったでしょう?わたしに操られない自信があるなら頭をあげても構わないと」


礼夏の口調は穏やかだが、伊佐山を小バカにしているのがあきらかだった。

伊佐山は表情を取り繕い、「分かりました」と顔をあげた。


薄布越しに目があった。

伊佐山は瞬間的にクラリと目眩がした。


平衡感覚の消失━━━━━


しっかりしろ、とかぶりを振った伊佐山は自身を殴りたい気分になった。


十二単を纏った14歳の少女がいるだけだ。


だが平安時代にでも迷いこんだ気分になる。


現実味が無い。


映画の世界にいるようだと伊佐山は思った。


声がした。


誰かが何かを言っている。

言っているが、伊佐山には何を意味しているかわからなかった。


バシンッ!!


突然、扇が伊佐山の頬を叩いた。

礼夏の側近・風見順が片膝をついて伊佐山の前にいた。


「何を呆けている」


年の若い風見に叱責され、伊佐山は我に返った。鉄の味がした。口内が切れたようだ。


「それでよくわたしの護衛につくなどと大きな口を叩くわね」


礼夏が言い放つ。


伊佐山は礼夏の眼に囚われていたのだ。


「伊佐山!頭を下げよ・・!!」


坂田の苦々しい声が後ろからした。そして、


━━━━無礼者め


━━━━この者に本当に護衛が務まるのか


誰かの声が伊佐山の耳に入った。男の声だった。

後ろにい並ぶ、礼夏を心酔する誰かの声だったのだろう。

伊佐山には屈辱的な出来事だった。


礼夏はざわつく室内の異様さを払拭するように風見順に命じた。


「風見!」


「はい」


「伊佐山に写真を渡しなさい」


「はい」


風見順は一枚の写真を伊佐山の前に差し出した。


「その女を手に入れなさい」


伊佐山はぎょっとした。写真の女はかつて利用して捨てた女だった。


「この女を手に入れてどうなさるおつもりですか」


伊佐山は心中の僅かな動揺を隠しつつ、礼夏に真意を問うた。


人柱(ひとばしら)が必要なのよ」


礼夏が口角をあげ、ニヤリと笑った。








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