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13. 蠢き

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帰りの車の中、礼夏は順の肩に頭をのせ、寄りかかっていた。

運転は秋葉香がしている。


「あのひとの着物、お姉様が好きそうな色合いだったわ」

「そうだったかな」

「そうよ。・・・わかったわ!きっと玄州様の指図でお姉様に似せてるんだわ!なんてこと!腹立つわ!人形でも送りこんでやろうかしら」

「おやめください礼夏様」

「秋葉はあのひとの肩を持つの?!」

「送りこんだとて玄州様にばれるのがオチ。遊びで無駄な争い事を起こすのはおやめください」

「ちぇーっ!おもしろくなーい。そうだ!たこ焼き買って!暴れん坊将軍を観ながら食べるから!」

「晩ご飯を召しあがってください」

「食べたくないわ。たこ焼きが食べたいのよ」

「いけません。晩ご飯を召しあがった上で食べるのならかまいませんが」

「・・あーあ、当主なんてサ!好きな時に自由にたこ焼き食べる権利も無いなんて!」

「礼夏、君、この前夕飯食べないで焼き鳥食べただろ。そのあとお腹が空いたって夜中に僕をたたき起こしてお茶漬け食べたじゃないか。食事をきちんととった上でたこ焼きは食べるべきだと僕も思うね」

「礼夏様!そんなことをしてたんですか!!」

「ひどいわ順、ばらすなんて」

「たこ焼きは買ってあげるから、先ずは食事をきちんと食べる。わかったかい?」

「・・・ふぁーい・・」

礼夏はあきらめの返事をした。納得してないが、これ以上順を怒らせてはいけない。順は怒るとほんとに恐いのだ。





水無瀬玄州の寝室の前には、使用人の女が一人と護衛の男が二人控えていた。

寝室からは玄州と志乃の睦言が切れ切れに聞こえ、やがて途絶えた。


「誰か来なさい」


寝室の障子の向こうにから玄州の声がした。

控えていた女が障子を開け入っていった。


「湯浴みをします」

玄州が寝間着を軽く羽織り立ち上がった。

使用人の女は「はい」と言って玄州の寝間着を整えると玄州の手をとり、背中に手を回して支えるようにして寝室を出た。


玄州は護衛の二人の男に、

「志乃はまだ“口”の使い方が不慣れなようです。しっかりとお勉強をさせなさい。ほほ・・・」

そう言って笑って通り過ぎた。

男達は玄州に一礼し、寝室に入っていった。

乱れた布団の上にまどろんでいる裸の志乃。

二人の男はスーツを脱ぎ捨て、まどろみの志乃をゆっくりと起こし、四つん這いになるように促した。


廊下を歩く玄州がピタリと足を止めた。

「玄州様?どうされましたか?」

玄州を支える女が心配げに声をかけた。

前を歩く護衛も振り向き、「車椅子をお持ちしましょうか?」と玄州を案じた。

玄州は「ふふ・・」と笑い、

「なんでもありませんよ。行きましょう」

と、笑顔をつくった。


━━━━礼夏、おまえが本当のことを知ったらさぞかし驚くでしょうね。驚いて、嘆いて、絶望するやもしれません。おまえのもっとも愛する知世は生まれかわり、すでにわたくしの手に堕ちているのですから


縁側を歩く玄州の足をつかもうと、骨張った八本の手が追いかけている。つかもうとすればすり抜け、つかもうとすればすり抜ける。


━━━━鬱陶しいですが、いましばらくは放っておきましょう。礼夏がおまえ達をどのようにおさめるか・・。見物ですからね・・。


玄州は八本の手を足元に感じ、うっすらと笑みを浮かべると、湯殿に消えていった。









「伊佐山、例の件はどうなっている」

坂田が伊佐山を事務所に呼び出し、礼夏に命じられた人柱にする為の女の件を確かめた。

「順調です。疑いもなく私に尽くしてくれています」

「そうか。くれぐれも悟られないようにしろよ。これが失敗すれば立場をなくすのはお前だけではないのだからな」

「心得ております」

伊佐山は目の前を通り過ぎる坂田に頭を下げた。

事務所のドアが閉まる音がして、伊佐山は頭を上げた。


『不思議ね。あなたとこうしてよりを戻すことになるなんて』

『あの時はすまなかった。俺にはどうしても━━』

『いいの。何か事情があったのね。わかってるわ。あなたは本当は優しい人だもの』

『だから・・、今度こそ君を俺の一族に紹介したいんだ』

『・・それって・・プロポーズ・・なの?』

『嫌かい?』

『ううん・・!嬉しい・・!』



━━━━彼女はすぐにでも連れてこれるが・・


伊佐山は、女とホテルで交わした会話と、一ヶ月以内に連れてこいという礼夏の言葉を同時に思い出し、礼夏の『人柱』がどのように行われるかを考えていた。


“人柱”

通常であれば生きたまま贄にするが、果たして14歳の若き当主・礼夏はどんな手法で、それを行うのか。

伊佐山には見当がつかなかった。



礼夏が伊佐山を呼び出したのは、この日から三日後のことだった。









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