使ってないと忘れちゃうよね。
ほんとに忘れてた…。
うる…っていった?
「この拠点が落ち着いたらになるが、それまでつかの間の自由を楽しむことだな。おい、これ地下に運んどけ。」
「うっす!」
やばい、奴隷ルートはどの物語でも結構ろくなことない記憶が。幸い今すぐではないようなので、売られる前に逃げるやら対策を考えなければ…!
「にしても災難っすね~、君。」
「んえっ?」
いつの間にか族の頭の様な男が消え、先ほど呼ばれていた男が檻を覗き込み喋りかけてくる。
「せっかく魔神隠しから逃れられたってのに俺らに捕まるなんて、誰かに恨まれてるんすか~?」
「ははは…。」
恨まれるっていうか、そんな感情持たれるぐらい人と関われてないんだよね。森にばっかいてほぼ村にいなかったから近しい年の友達とかいないし。家族以外で村長ぐらいしか顔思い出せないわ。
「まあ、売られるまでの間っすけどよろしく~。」
出来るか。
_________
あれから三日が経った。
村長の家の地下室に檻ごと入れられそこから出されることはなかった。人と会うのはご飯が運ばれてくる二回のみ。
「なんもしないまま三日たっちゃたよ。」
やることがないので、人がいないときに魔法の練習するなりして気を紛らわしている。
いやね?一応ここから出る方法も考えてもいるんだよ?この三日間人が来るタイミングとか観察したりしてどうにかしようとはしてるんだけどよく考えてみ?僕檻の中なのよ。まずこの檻から出ることから始めんといかんのよ。
「鼠とかになれれば隙間から出れるんだけどねぇ…。」
…?あれ?何か忘れてる気がするんだけど…、なんだろ。
「…う~ん。なんだろ。大分重要なことだった気が…。」
「飯っすよ~!って下向いてどしたんすか?体調でも悪いんすか?」
ちげーよ。てかもうちょっとで何か出そうだったのに一瞬で引っ込んじゃったよ。タイミング悪ー。
「え、何か睨まれてるんすけど。飯持ってきてやったのに。」
「ありがとー。」
持ってこられた食べ物は、いつものパンとスープ。
まああの定番の硬いパンに薄めのスープですね。こっちのこういうご飯にも慣れたっちゃ慣れたけどやっぱり前世のご飯食べたくなるわ~。
パンをスープに浸け食べていると、珍しくご飯を運んできた男が喋りかけ来た。
「そーいや、そろそろっすよ。君の出荷。」
「出荷って…、もっと言い方なかった?」
そーだよねー。そろそろだよねー。知ってたー。
…いやっ、どすんの僕?!このままだと昼に放送できないようなことされる未来が確定するんだけど!!
「にしても君に変化が無くて良かったすよ。」
檻、檻!檻をどうにかせねば!外に出るにはまず檻が!
…ん?
「…なんて言った?今。」
「え、いやだから君が変わらなくて良かったって言ったんすよ。」
変わる…?変わる…変わる…変わる…。
「前の奴隷候補とかすごかったんすよぉ。もともと顔が整ってたのに――」
あ。
「思い出した!変化だっ!!」
「うお!びっくりした!どしたんすか急に!」
いやー、完全に忘れてたよね、“変化”と“演技”。この七年間まったく使うことが無くて記憶から消されてたよ。せっかく神様に貰ったのにほんとに全然使わなかったからなぁ。
「まあ、この調子で元気でいるんすよ?じゃ、また後で~。」
「は~い。」
食べ終わった食器を持って出ていったことを確認し、ゴロンと寝っ転がる。
「思い出せて良かった~。」
これあったら檻出るだけじゃなくて普通に村からも出れるね。
「んー、鼠でいっか。では早速れでぃごー。」
ボフンッ。
「チュー」
視点ひっく!床ちっか!これが鼠の視点かぁ。というかボフンって何かダサい…。
とりあえずご飯来るまで待つかぁ。その間この小さい体になれるとしましょう。
数時間後、地下への階段を誰かが降りてくる音がした。
「ヂュヂュッ」
来た来た!フフフ、さぞ驚くがいい!逃げられるはずがないと思っていた獲物に逃げられたことをなぁ!!
「飯っすよー!…あれ?いな…い…?」
檻の中に僕がいないことに気づいた男はどんどんと顔が青ざめいき、手に持っていたご飯をお盆ごと落とした。ガシャーンッと大きな音が地下に鳴り響き、上に控えていた見張り役の男どもが音を聞き降りてくる。
「どうした?!」
見張り役の男たちは茫然と見つめる男の視線の先に目を向ける。
「なっ!いない?!クソッいつの間に!おいっ、しかりしろ!」
「とりあえずボスに言いに行くぞ!それから警備の強化だ!逃がすなよ!!」
チュー