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魔法少女と《亀》の俺の呪文詠唱  作者: 南川 佐久
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第6話 病院の死神

      ◇


 夜を待ち集合場所に着くと、すでに白雪が待っていた。


「悪い……待ったか?」


「まだ時間前。私が早く来ただけよ」


 白雪はそっけなくそう言うと、別館の裏口に向かって歩き出す。


「待てって……鍵も無いのにどうやって入るんだよ?」


(てっきり地下駐車場から行くのかと……)


 不思議に思いながらついていくと、白雪は俺の問いに答えることなく扉の前で立ち止まり右手から水の塊を発生させた。


(変身しなくてもちょっとした魔法は使えるんだったな。現に俺はいつもこうやって水を恵んでもらってるわけだし……)


「水なんてどうすんだよ?」


「黙って見てて」


 白雪は水の塊を鍵穴に滑り込ませると小言で何かを呟く。すると、水が瞬く間に凍り付いた。氷の鍵の完成だ。


「――行きましょ?」


 何事もなかったかのように扉を開く白雪。


「……お前それ、絶対に悪いことに使うなよ?」


「あんたと一緒にしないでよ」


「俺は覗きなんてしねぇ!」


「……その発想は無かったわ。泥棒なんて姑息な真似、私はしないわよ。犯罪じゃない」


(あっ……)


「サイテー」


 侮蔑の眼差し。さすが『孤高ツンドラの雪兎』だ。全てを凍らせるその眼差しは他者を寄せ付けないオーラがある。いや、今のは俺が悪かった。

 反省しながらすたすたと行ってしまう白雪の後を追うと、不意に白雪が立ち止まりジトっとした視線を向けてきた。ああ、これは『道案内しなさいよ』の視線だ。ここ数か月で、俺も白雪のことをそれなりに理解できるようになっていた。


「霊安室は地下二階だ。ただ、地下に入ると窓が無くて逃げ場がないからな。人がいなければ一階で変身してから行った方がいい」


「……わかった」


 裏口から廊下を抜け、吹き抜けの広場に到達する。受付があるメインロビーだ。都立病院は主な機能が本館に集約されているうえに夜遅いせいか明かりはついておらず、人もいない。念のために耳を澄ましてみても、俺達以外の足音は聞こえてこなかった。


「よし、ここならいいだろ」


 俺はポケットから青く光るサイリウムを取り出し、念のため小声で詠唱した。大きな声を出して警備員さんに見つかるわけにはいかないからだ。


「まじかる・みらくる・めるくるりん……」


「……る……る…………りん……」


 白雪も俯いてぼそぼそと呪文を唱える。


「俺しかいないんだし、たかが呪文でそんな恥ずかしがらなくたっていいんじゃね?」


「こういうのは気持ちの問題なの! あんたがいるとか、いないとかじゃないの!」


「はいはい、そーですか」


 俺には毎朝発声練習させておいてこの言い草。なんて理不尽なんだ。変身した『亀』の姿でため息を吐くと、口からぷかっと泡が出た。白雪はそんな俺の憂鬱も知らず、相変わらず恥ずかしそうに胸元で杖を握りしめている。


「白雪? 言っておくけどそれ、全然隠れてないぞ?」


「へっ……?」


「前隠すつもりなら、もっと身体ぎゅーってしないと隠れなくね?」


 俺はヒレを身体の前でクロスさせて、自分で自分を包み込む仕草をする。


「う……」


 白雪はよほど恥ずかしいのか、大人しく俺の真似をして自分の身体を両腕で包み込んだ。身体をぎゅっとしたことで、胸の谷間が強調される。


(あ、やべ。逆効果だった)


 あいかわらず触りたくなるような滑らかさの双丘ですこと。


(『亀』の姿でぎゅってされたら、気持ちよさそう。きっと全身を包まれるような夢見心地が俺を天国に――)


 ぷか、ぷか……


 ――ハッ……!


(いかん、いかん! 吸い寄せられるところだった!!)


 そんな自殺行為をしようものなら、『何してんのよ!』と言われて蹴られるビジョンしか浮かばない。『亀』の姿のときに蹴られれば最後。起き上がれなくて死ぬ目を見るのは俺だ。罪深き気の迷いを悟られる前に、早く動き出した方がいい。

 俺は何事も無かったかのように霊安室のほうへぷかぷかと泳ぎだす。


「ほっ、ほら行くぞ?倒すんだろ? 『死神』。あいつ倒してノルマ達成できれば、もうその恰好しなくて済むんだからよ」


「……それもそうね」


 白雪は小声で呟くと、俺の後ろからしぶしぶついて来た。


 ――カツーン……カツーン……


 暗闇に包まれた病院に白雪のヒールの音がこだまする。

 病院の別館は本館が新設されて以降は一部の機能を残してあまり使われていないようで、入院患者や夜勤の看護師さん達はこの時間、本館にしかいない。この別館に人がいるとすれば見回りの警備員さんくらいだった。


「ねぇ、霊安室まであとどれくらい……?」


 普段よりも少し覇気のない白雪の声。やはり『死神』相手に緊張しているんだろう。


「霊安室なら地下二階だから、非常階段から降りていくぞ。ミタマの気配も、この先だ」


 俺達は非常口の誘導灯を頼りにゆっくりと足を進める。


 ――カツーン……カツーン……


 霊安室のある地下二階に繋がる階段に差し掛かろうとしたとき、不意に、叫び声にも笑い声にも聞こえる甲高い声が、別館中に響き渡った。


 ――きゃはははははははははは!


「な、なんだっ……!?」


「まさかっ――」


 その声に、俺達はふたりして身構える。


 キィ、カラカラ……キィ、カラカラ…………


 息を殺して周囲を伺う俺達の耳に入ってくる、不快な音。まるで金属製の何かが引き摺られているような、イヤな音だ。

 ふとヒレ(今は俺の手だ)に何かが当たり、視線を向けると、白雪が俺のヒレを遠慮がちに摘まんでいた。もう片方の手で杖を握りしめ、下を向いて心なしかぷるぷるとうさぎのように震えている。


「白雪、お前ひょっとして……」


「…………」


「ホラー苦手なのか?」


「――っ!」


 白雪のウサ耳がびくり!と揺れた。


「まさか、下見を俺にやらせたのも――」


「――っ……」


「はぁ……」


 俺は大きくため息を吐く。


「素直にそう言やぁいいのに」


 ぷかぷかと口から出る泡のため息を、くすぐったそうに振り払う白雪。


「だって……おばけが怖いなんて。そんな、か弱い子みたいなこと……」


「あのなぁ……?」


(ほんと、素直じゃねーやつ)


 さっきの頬をくすりと緩ませた様子を見る限り、今の俺のような小さな『亀』、もとい可愛いマスコット的存在とかも本当は好きなんだろうが、そんな素振り一度だって見せたことはない。


(そういうとこまで強がってんのかよ? どんだけプライド高いんだか)


 俺は再び泡をぷくぷく吹きかけた。今度はくすぐったくて思わず笑ってしまいそうになるほどに。ちなみにコレは人間に例えると決して唾を吐きかけるようなものではなく、ふぅふぅと息を吹きかけるようなイタズラ的行為。


「きゃっ……! ちょっと何するの! やめて、ふわふわくすぐった――ふふふっ……!」


(お。ようやく笑ったな)


「誰にでも得手不得手くらいあるっての。待ってろ、ちょっと様子見てくるから」


「うん……」


 さっきの泡攻撃が効いたのか、白雪はウサ耳をしょんぼりと垂らし、しおらしくしている。コンビを組んで数か月にはなるが、こんな姿を見たのは初めてだ。


(いつもこれくらい素直なら可愛げがあるんだけどな。勿体ないやつ)


 俺は励ますように白雪の頭をぺしぺしとヒレで叩くと、白雪を階段の陰に残して霊安室に面する廊下に出た。


「――っ!?」


 そこに広がっていたのは、ホラーなんかじゃなくサイコでスプラッターな光景だった。狭い廊下に点々と転がる、ミタマの頭、腕、足。いくらミタマの姿がもやっとした黒い人型だとしても、それがどこの部位なのかくらいはわかる。わかるが――今回ばかりはわかりたくなかった。そのいずれもが、まだ新鮮な活け造りの魚のようにビチビチと蠢いている。


「うっ……!」


 俺は思わずヒレで口元を覆う。鋭利な刃物で切断されたような鮮やかな切り口からは紫色の血が穴をあけたスプレー缶みたいに噴き出していた。


(なんだよこれ……なんなんだよ……!)


 いままで見たことのない凄惨な光景。見たくないはずなのに、まるで何かに囚われたかのように、目を逸らすことができない。


(白雪がスノードロップとしてミタマを倒すときは、こんなにならないぞ……!?)


 白雪は『水の魔法少女』だ。杖を振れば、『水』を自在に操り、凍らせることができる。だからミタマを退治するときもトドメには凍らせてしまうのが定石だ。ミタマと戦闘中に接近されたとしても杖で殴って応戦するのが常だったため、ミタマの血を見るのは俺も初めてだった。


「うっ……おえ……」


 思わず口から水を吐き出す。幸か不幸か『亀』に変身しているため、吐しゃ物は出てこなかったが、胸につかえる嘔吐感は拭いきれない。すると――


「だれ……?」


 不意に廊下の奥から闇に消え入るような女の子の声が聞こえた。


(まさか、一般人が巻き込まれ――!?)


 俺の予想に反して、その声はイヤな音と共に近づいて来る。


 キィ、カラカラ……キィ、カラカラ…………


「だれ……? だれかいるの……?」


「…………」


 ――息を殺す。

 『亀』だから口呼吸か鼻呼吸かエラ呼吸かは不明だが、とにかく必死に殺した。


 キィ、カラカラ……キィ、カラカラ…………


 次第に音が近くなる。すると、血に塗れた廊下の向こうにぼんやりと人影が浮かびあがってきた。真っ黒なフードのついた外套。その下から覗く、黒いミニ丈のワンピース。


「だれ……?だれが……」


 キィ、カラカラ…………


 リボンのついたヒールのパンプスをカツカツと響かせ、こちらに近づいて来る。暗闇の中発光しているかのように白く浮かび上がる細腕には、およそ似つかわしくない大鎌が握られ、引き摺られてカラカラとイヤな音を立てていた。


「だれ……? だれが、まだ……」


「…………」


「――生きてるの?」


「――っ!!」


 カラカラカラカラカラッ!!


 金属音が迫ってくる! 凄まじいスピードで!!

 俺は金縛りにあったみたいに動けなかった身体に鞭を撃ち、死に物狂いで声を発した。


「白雪っ! 逃げろっ! こいつとやりあったらダメだっ!!」


「――万生橋ッ!? いったい何が――」


 白雪が堪らず階段の陰から飛びだす。

 その顔色が、一瞬で変わった。白雪の血の気が引いていくのが俺にもわかる。


「バカッ……! 来んな!」


「だあれ?」


 『死神』の視線が白雪を捕らえる。

 ターゲットが一瞬にして俺から白雪に切り替わった。


 ――きゃはははははははははは!


「楽しそう……あーそーぼぉー?」


「――っ!」


 『死神』が白雪の首を刎ねる直前、その大鎌を青い杖が受け止めた。ぎりぎりと金属で氷を引っ掻くような音が廊下にこだまする。


「……? ミタマじゃ、ないねぇ? 生きてるひとの、匂いがするもん。ん~? あなた、ひょっとして……」


「あんたこそ……ミタマの存在を知ってるなんて、何者なのよ。『死神』……」


 『死神』はふっと口元に笑みを浮かべると杖を薙ぎ払い、跳躍して白雪と距離を取った。廊下が狭いことを利用して、壁を足場にまるで踊るような身のこなしで空間を移動する。不意に廊下の奥からキィキィと音がしたかと思うと、『死神』はしなやかに身を翻し、俺達を無視して人とは思えない速さで音の方に駆け出した。


「まぁーだ、生きてるのがいたのぉ?」


 目を爛々と輝かせ、まるでネズミを追いかける猫のようだ。仕留め損ねたミタマを追って、大鎌を引き摺りながら楽しそうに駆けまわる『死神』。

 向かう先には――


「おい! よせ! そっちは……本館への連絡通路だ!!」


(五階には、お姉さんが……!)


「――――っ!!」


 その言葉に、白雪の血相が変わった。『死神』に薙ぎ払われた反動で倒れていた身体を起こし、すぐさま『死神』を追いかける。俺も必死に後を追った。俺が『亀』だからなのか白雪が魔法少女だからなのかはわからないが、まったく追いつける気がしない。目を凝らしてなんとか白雪の姿をとらえる。


「行かせないっ……!」


 白雪が杖を大きく振りかぶると、複数現れた水の塊がロープのように『死神』の身体に纏わりつく。そのまま『死神』を廊下に押し倒し網目状に縛り付けたかと思うと、水は瞬く間に凍りついて『死神』の身体を拘束した。――形勢逆転だ。


「あんた……何者なのよ!? 答えなさい!」


 仰向けに拘束されている『死神』の喉元に杖をかざす白雪。その眼差しは氷のように冷たい。しかし、その視線にまったく動じていないのか。『死神』は黙ったままだ。


「答える気は、無いようね」


 白雪は短くため息を吐くと、杖の先でゆっくりと『死神』が被っている黒いフードをめくる――


「……?」


 そこにあったのは――女の子の顔だった。

 ゆるく巻かれた薄紫色の髪を肩まで伸ばし、そのふさふさとした長い睫毛の奥からは、夜の闇を思わせる濃紺の瞳が覗く。まるで人形みたいな人外の美しさを讃えたその容姿には見覚えがあった。


(おいおい、あれは……あの人間離れした容姿はまるで、白雪と同じ……)


「あなた……やっぱり……魔法少女、なの?」


 白雪の問いに、口元をにやりと歪ませる『死神』。


「ふふ。うふふふ……お揃い、だねぇ?」


 思い返せば、目の前にいる『死神』はミタマを狩っていた。もし『死神』が大型のミタマなら、同族をこんなひどい目にあわせる道理もない。縄張り争いをしてるっていうなら追い払うだけで十分なはず。俺達は、もっと早くそのことに気付くべきだった。

 だが、目の前にいるこいつはどうだ? 白雪はフードなんて被っていないバニー姿。こいつが魔法少女だっていうなら、人外な装いをした白雪を一目見て、同胞だと気が付いてもいいだろう。なのに、何故こいつは白雪に刃を向けたんだ?


「白雪気をつけろ。そいつ多分、まともじゃない……」


「わかってる……」


 白雪は杖にぐっと力を込め、さらに尋問しようとする。


 ギィィ……バタンッ――


 不意に、すぐ近くの扉が開いた。駐車場に繋がる扉だ。俺と白雪はそちらに視線を奪われる。『死神』は、その一瞬を逃さなかった。


 パキンッ――!


 自身を拘束している氷を鷲掴みにすると、力を込めて一気に粉砕した。パラパラと氷の粒が散ってゆく。


「しまっ――!」


 白雪が再び拘束をかけようとするが、遅かった。『死神』はその身をするりと起こすと、一瞬にして扉の前へ移動していた。


「『闇の魔法少女』の私を捕まえようなんて、大胆だねぇ……?」


「『闇』の……魔法少女?」


「ふふ。そうだよぉ? 私は『闇の魔法少女』アイリスガーデン。よろしくねぇ?」


 呆然と立ち尽くす俺達をよそに、アイリスガーデンと名乗る少女は扉に手を掛ける。


「今日は楽しかった。また遊ぼうねぇ? ゆとちゃん――」


 そして一言そう呟くと、闇に溶けるようにして、その姿を消した。

 俺達は急いで後を追ったがそこにはライトの消えた車が並ぶばかりで、どの方向へ逃げたのか見当もつかなかった。その消えた足取りを追うことは全く不可能と思われたが、俺はそこであるものを見つける。


「……? なんだこれ?」


 落とし物、だろうか。駐車場に落ちていたのは一枚の紙きれだった。


「パンケーキ屋の、クーポン券……?」


 それは、俺達の学校の隣駅に新しくできると(主に女子の間で)噂のパンケーキ屋のものだった。新装開店という見出しの下に様々な種類のパンケーキの写真が載っている。そして、そのうちのいくつかのパンケーキに丸印がついていた。


「……! 万生橋、ちょっとそれ見せて!」


「あ、ああ……」


 白雪はそれを強引にひったくると、穴が開きそうな勢いでそれを見つめている。


(そ、そんなにパンケーキ好きだったのか……? いや、そりゃ白雪はスイーツ好きだけど、こんなときまでがっつくほどに?)


 意外に思いながら見ていると、白雪は思わぬことを口にした。


「アイリスガーデン……まさか、『あの子』がそうだっていうの……?」


「なんだよ? 思い当たる節でもあるのか?」


 白雪はいまだ信じられないといったように躊躇しつつも、まるで何かを確かめるようにゆっくりと震える唇を開く。


「このチラシ……それに、一瞬だけどさっき私のことを『ゆとちゃん』って呼んだ。間違いない。あの子、『死神』――いえ、アイリスガーデンは、菫野紫。私の友達よ」


(……マジかよ……)


       ◇


 その夜、アイリスガーデンは月明りの下でいつまでも光の消えない街を見下ろしながら恍惚とした笑みを浮かべていた。


「はぁ……ゆとちゃん、可愛かったなぁ。白い髪に、ピンクの瞳。まるでお姫様みたい。氷の魔法がピカッてして、キラキラ零れて、お星さまみたいだった。また遊びたいなぁ……」


『今日はまた随分とご機嫌だねぇ? アイリスガーデン』


 パタパタと周囲で羽ばたいていた一匹コウモリは、血にまみれたままうっとりとする魔法少女に呆れたようにため息を吐くと、その華奢な肩にとまって羽休めをする。


『キミの願いは、見つかりそうなのかい?』


「ん? 私の『願い』?」


『そうだよ、キミの願い。僕と契約したときはまだ、思い浮かばないって言ってたじゃないか?』


「ああ、それね……」


 ふいっと興味なさげに視線を逸らすアイリスガーデン。だが、コウモリの興味は依然としてその『願い』に注がれているようだ。


『トモダチが、欲しくなったとか?』


「ゆとちゃんはもう、私のトモダチだよ?」


『嘘だね。だって、キミはいつもひとりきりだ。僕を除いては、“本当の意味で”キミの傍に居られるモノなんていない』



「そうかなぁ?」


『そうだよ。きっとこれから、どんどんそうなっていく』


 ちょこんと肩に乗ったコウモリは、アイリスガーデンの頬についた血をチロチロと舐めながら問いかける。


『ねぇ、最近ちょっとヤり過ぎじゃない? 虐殺の果てにキミは何を望むの? 教えてよ。その願いが叶ったら……いや、叶っても。僕はキミの傍に居られる?』


「私が魔法少女じゃなくなったら、あなたもマスコットじゃいられなくなるもんね?」


『でも、このままミタマを殺し続けていたら、いずれにせよキミはキミのままでいられなくなる。闇の魔法少女は、そういう存在なのかもしれない』


 ペロリと頬を舐め終えたコウモリは、月明りの下、そっと問いかけた。


『ねぇ、もう辞めにしない? 魔法少女』


「え?」


『こんなの、割に合わないよ。キミはずっとこのままでいい。いや、このままでいなければ。たとえ闇の代償に大切な何かを失ったとしても。僕だけは、ずっと傍にいるから……』


 その問いに、魔法少女は――


「私はやめないよ。魔法少女」


 ――笑った。


「だって、もう……やめられないんだもん♪」


 その傍らには、『病み』へと誘う『絶望』が、確かに潜んでいたのだった。

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