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コンタクトが来たのでやってみた  作者: 今村ジュン
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この不確実な時代に、私たちは僕たちは何を思う

僕の、というか私の大学4年次、卒業論文テーマはNASA成層圏エアロゾルデータと東京上空での実測データの比較だったが、志なかばで関連への就職を当時は諦めた。


2020年夏、筑波工科大学主催のMBAに関する有償セミナーに参加した。今あるリソースを活用しセミナーのノウハウを現職に水平展開する予定だった。しかし、コロナの影響で在宅ワークが続き、会社業績の回復時期が未定のため、いつ現場に本格的に復帰できるか予測が不可能な現状だった。


そのセミナーで衛星関連ベンチャーの話を聞き、宇宙空間の清掃事業にも興味を持った。それは国際宇宙ステーションの運営にも大いに関係する。しかし私は理学修士や博士は取得しておらず業界への大志は夢で終わっていた。


2020年10月12日の深夜、Univerce.comのウェブページで火星が地球を中心にして太陽と共に一直線に並び2035年までで1番地球に接近するのが10月13日だと知った。夜中に星座アプリで火星を確認し、夜空を見上げたが、火星の方位が90度程ずれていた。そもそもコンパスが90度ずれていたので、携帯電話を再起動した。長い間、夜宙を見上げていなかったんだなと感じる。赤方偏移という言葉を思い出した。


そうしているうちに、ある求人を発見した。偶然が重なった結果だった。未経験でも応募が可能という文言を見つけ、応募を決意した。国際宇宙ステーションの運用に携わる仕事だ。


息子たちもロケットが好きだ。岩島天文文化村に家族で宿泊した数年前の真っ暗な夜、望遠鏡が億単位の価格であることに子供たちが興奮した。連星という言葉を初めて知り宇宙空間全体では、二つセットが当たり前であることに驚いた。私たちの息子たちは双子。そして私はふたご座。


現職では緊急対応のため昼夜シフトを15年間続けて来た。目立った体調の変化はなく、つくばでもシフトに順応できる自信がある。


英語での交渉は米語だけではなく欧州で英語を母国語としないスタッフとも行い、折衝経験を積み上げた。つくばでは技術英語に長けたスタッフが大勢いるが、一切妥協しないほど隙を見せないことが多い米語の立て板に水に、苦労されることは多いと推察する。そのような環境で当事者双方の気分を害さぬよう事態を収束してきた交渉実績を生かしたい。


いま私が大切にしている中庸な姿勢を今後も重んじ、問題を柔和に解決してきた英語交渉力に加えて、つくばでは覚悟を持って可能な限り早く正確に技術を吸収することで、将来、対峙/協力/切磋琢磨するであろう関係機関とお客様との間でパイプ役として活躍し貴社の業績・成長に貢献したい。


運用管制に今後携わる若い人材に貴社の技術を伝承するためにも、DXを用いた持続可能な、ノウハウ継承の為のデジタルアナリスティクス業務にも興味がある。


世界中で亡くなられた方々に対しては不謹慎な表現だが、このコロナをチャンスへ変えたいと強く思う。


偏った思考や行動をとらず常に冷静を保ち、ファシリテーションを意識することでスタッフ間の議論を促すことができる。妻の理解もあり東京から茨城への移住/転職に家族単位で大変前向きである。


そのようなことをフォームに書いてエントリーをした。ただ、年齢は記入せずに送信した。新卒の就職活動時以来の興奮だった。とは言うものの、私が大学を卒業する頃はまだまだ氷河期だった。


数日後、その会社から一次ウェブ面接の連絡が来た。信じられなかった。ワクワクが止まらなかった。しかし宙に浮いているようなふわっとした感じではなかった。その日からいろいろな資料を漁り、図書館へも通い関係するであろう本を10冊以上借りて勉強を始めた。


その数日前、ある夢を見た。田舎の海岸線に打ち寄せる、ところてんのような綺麗な波。足元の小石には苔がついていて、ぬるっとした感覚の土踏まず。波打ち際を歩くと、その石ころに足を取られよろついてしまう。そして目頭から汗がにじみ目が痛い。日差しは厳しい、8月の午後。波が足元を行きすぎる。石にあたり波紋ができ、ピラミッドのようなグレーのしましま模様を描きながら、また沖の方へ波が帰っていく。砂鉄だろうか。黒い砂粒は何とも言えない、イスラムの模様のような波紋を残し、波紋というより、むしろ既にどろっとした砂の紋だが、何とも奇妙で、ただそのまま美しい景色だった。


浮き輪に乗って仰向けになった。水平線を逆さに見ると、なぜか空は地球儀を外から見ているように球体に見えた。なぜだろう。夕日が傾いていく。オレンジ色のグラデーションが水平線から茶色、こげ茶、濃いオレンジ、薄い橙色、そして灰色と筆で線を描いたようにくっきりと境界線のその境が認識できた。相変わらず空は丸く天球のようだった。逆さまに見ると、こんなに景色が違うのかと普通に戻った状態で、島々とその空を見上げた。その時はなんだかポカンとした感じがした。


また、逆さまになり、頭頂部を水面につける。また天球が見える。雲も曲がって見える。水平線に夕日が沈んでゆく不思議な感じがした。


子供たちは浜辺でカニを追っかけている。妻は海岸線の遠くの方まで歩いて行っている。他のファミリーが波打ち際でワイワイ騒いでいるが、水着を持ってきておらず、足首あたりもしくはズボンの裾が濡れて

キャキャッと言うような感じだ。


夕日が沈む頃、午後8時前だったかな。波打ち際でクラゲに刺されたようなピリピリとしたような感じが、太ももや腕を襲った。そこで目が覚めた。


『卒業論文はどのようなものだったのでしょうか?』


Web面談では、事前に読みこんでいた卒論の概要を説明した。当たり障りのない会話が続いた。自宅の部屋の一角でデスクに向かい、顔にライティングを当て顔色は明るい感じにしていた。ノートパソコンの下に本を数冊重ねカメラの位置は目線に合わせていた。問題なさすぎるほど問題なくWeb面接は終了した。


面談の後、家から出たくなり裏山に向かった。裏山には長い階段があり、階段を登ると木漏れ日が見えた。木漏れ日はこんなに放射線状に光が広がるのか。光の破線が放射線状に全方向に広がっていることに初めて気づかされた。太陽は真上にあった。破線光は黄金のシャワーのようで、シャワーヘッドを真下から見上げて、全部浴びているような感じがした。


もやもやは止まず、気分転換に本当に海に行ってみた。波打ち際を裸足で歩くことにした。


水面を流れる小川は、砂浜の中から地上に染み出た水が根っこのような線をたどって、大きな川を作る。


そして波打ち際に平行に川を作って、その川底は大蛇の鱗のよう。


うねうねと凸凹な大小様々な鱗が重なり合い、その上には、金色のとても小さな粒もさらさらと流れ、少し大きめの黒い粒は川底にたまり水はキラキラと輝きながら流れていく。


そして大蛇の鱗には太陽が反射し、ギラギラ光っている。


一方水平線の1番遠くを眺めると、そこはまるで0.3ミリのボールペンで波線を描いたようにギザギザしている。その上を2隻の船が同じ方向に右側に向かっていく。なぜ水平線はまっすぐではなくギザギザに見えるのか。波のせいだろうか。


手前に目を戻すと、波は波を追い越し小さな波紋を幾重にも重ねながら波打ち際に到達し、そして折り返す。


そしてまた重なり合い絶妙なハーモニーと、破壊を表しているように見える。


棚田のような波打ち際から平行に水平線の方を眺めて、波打ち際にまた目を戻すと棚田が打ち寄せてくるように、そしてその棚田の先端の白い泡は波の先端だが、ダンゴムシの大群が打ち寄せてくるようにも見えた。


足元に目を落とすと水面を拭く風の動き、水中の泡の動き、そして波が寄せ、波打ち際から沖の方へ流れていく。砂や水が四方八方に複雑に動く。1つとして同じような動きはなく、そしてすべての動きがハーモニーのような打ち消し合いのようななんとも言えないまとまったような、いやまとまってはいない。


しかし混沌とした中に心地よさを感じる。気持ちいい線があり、丸があり斜めのカーブがありキラキラとした波打ち際の銀色の泡があり、白い波があり、白い泡があり、オーシャンブルーがあり、緑があり、山があり、茶色い草もあり、船もあり、しかし雲は全く上にはなかった。


水平線には白い雲を見ることができる。雲がこちらに向かって、あちらに向かって敬礼をしている。帽子は三角で、右肩から右肘は垂直に伸びとても綺麗だ。左肩には肩パットが入っている。そんな形状の綺麗な敬礼を後から見るような雲を見つけたところでこの旅は終わりそうだ。


沖合の上空には、鳶が1羽。そして私の頭上にはトンボが1匹、そして遠くの方にはベビーカー?違うな、犬のベビーカーのようなものを押すご婦人が1人。そして私だけ。さっきまで私だけだった。まるでプライベートビーチだ。登場人物、動物が増えた今でもまだ充分プライベートビーチだった。


先ほどから水が流れ出ていた大蛇の小川の砂の上を足の裏でタップすると、その足から半径5センチから10センチの円を描くように砂が白く輝く。砂の中の水分が動いているようなイメージだ。


最後に小川の水中の山脈に目を落とすと波が来る度に、その山頂で砂埃が舞うようにモヤがかかる。そして波が行き過ぎるとその砂埃は止む。また砂金のような波が立つ。そして水面の風はそれとは垂直方向に流れる。90度違うのである。波は前から後ろへ流れてくるが、水面の風は右から左へと流れていく。白い筋は右から左に流れていく。縦の線はゆらゆら揺れながら、なんだかクラゲの足のようにも見えた。


採否はその後すぐに出た。


そして今までと同じ仕事の繰り返し。人生はそんなものだ。しかし、まだ楽しみなことは沢山ある。なぜかそう思えた。楽しいことではなく、楽しみなこと?



-



今僕が楽しみなことは何かを書いたり、何かを描いたりすること、何かを作ったりすることである。


手先を使うと脳が活性化する。確かにそうである。ピアノを弾く、絵を描く、いずれもワクワクが止まらない。


ほんとにそうなのか?実際に行動している時は、無心で没頭しているので、楽しい、面白いと実感しながら、絵を描いたりしているわけではない。ただインスピレーションで描けてしまった。偶然の描写は描いた瞬間に、


「これだ!いい感じだ!」


そう一言一句思い浮かぶわけではないが、良い出力をしたときには、脳が瞬発的に喜んでいることがわかるものだ。


しかしそれは意図してできたものではなく、偶然の算出というか、なぜその描写が生まれたかも、よくわからないうちに出来上がってしまうものである。


深夜スケッチに夢中になっているときに、友人の深田から連絡が来た。


「久しぶり、最近どうしてる?」


深夜帯だったと言うこともあり、僕はすぐに返信せず翌朝、


{何も変わらないよ。いつもと一緒。最近走ってる?}


「週に1回位だね。今度飲みに行こう」


私は近いうちにという返信をして、そのやりとりはそれで終わった。


私と深田は、大学の同級生で、今まで何回かマラソンを一緒に走っている。


私たちが20代だった頃、何をきっかけだったか覚えていないが、10キロマラソンやハーフマラソンを何回か走った後、フルマラソンに挑戦し、すべてのマラソンにおいて2人とも完走した。


私は当時、まだ子供はおらず、深田は小学生の子供がいた。子育ての楽しみや大変さなどは知る由もなかった。


私は昼夜を問わず、時間があれば走っていた。幼少期は長距離走はとても苦手で、すぐ息が上がっていた。


母と運動会の前に、深夜の小学校のグラウンドを走っていたこともある。母に連れられ少しでも長距離走の順位を上げようと母が計画して僕を走らせた。僕は嫌々ながらもそれを実践し、結果順位は少し上がった。長い距離を走ることに抵抗があったが、練習すればタイムが良くなることを実感した。


絵は走る事とは少し違う。絵を描くことに苦手意識は元々なかった。


小さい頃からよく絵を描いていた。テーブルの裏は、唯一落書きをして良い場所だ、と母に言われ無心に描いていたことを覚えている。


そのテーブルはもう実家にはないが、いちど子供たちと一緒に見たかった。子供たちには、今よく絵を描いているので、私が僕の頃、どんな絵を描いていたのか、子供と共有し、そのテーブルの裏にも子供の絵を追加したかった。結果的に合作だ。時を経て当時の僕の作品と今の私の子供たちの作品が混ざり合い、どんな絵ができていたのか想像すると、いや、想像しても想像できないが、それも想像するだけで楽しい。少し笑顔になる。


「いつゲーセンいける?」


私の次男からそう言われ、即答はできなかった。仕事の疲れからか、次の休みをカレンダーで見ることはしなかった。



ところでよく見る夢の話だが、テトラポットを駆け上がる波はあまり面白くない。砂浜の波は面白い。波が引く時、ごろごろごろごろと言う。何の音かと思ったら、黒い石がざわざわしながら、ごろごろ転がっている。


そのそばで砂浜から生えた草木は日光浴をしている。根を掘ると根っこはしっとりしている。彼らは塩水を食料にしているのか、それでも枯れない。この環境に順応している。葉っぱはパサパサ。日当たりは良い。波の水しぶきが少しだけ飛んでくる。波打ち際で生きる植物たちも、花を咲かせている。黄色い花だ。そしてクローバーの葉っぱ。なぜこんなところに黄色い花が咲いているのだろう。受粉するのだろうか、蜂が飛んでくるのだろうか。そういえば、蜂を見たような気がする。


林の茂みを抜ける時、顔がチクチクした。痛い。痛い。



松の葉っぱだった。


寝転がると、太陽を左上に暖かく感じる。



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