六話 ピキ
「意外と明るいですね」
洞窟の中は天井から光が差し込んでいて綺麗な光景だ。怖い感じではなくてよかった。
「アスカ、罠とかあるかもって話しだから気をつけて」
「大丈夫ですよ。動物の足跡だってありますし」
「ほんとだ。・・・・・ドラゴンって動物食べないのか?」
「さあ、ドラゴンの巣には骨とか落ちているのかもしれませんよ」
「・・・・・そんな上手くいきますかね? ドラゴンを使うなんて」
「上手くいかせます。わざわざこんなところまで来たのですから」
きっとドラゴンは貴重な生物だろう。ならああすれば・・・・・
「アスカ、またその顔・・・・」
「あ、いいことを思いついたもので・・・・・つい」
「アスカさんもそんな顔するのですね」
二人ともちょっと引いてる? ひどい。変えていくためなのに。
そういえばリュードさんはだんだん眼鏡の時でも表情があるようになってきた気がする。
「レオンは国を変えていく方法を考えるのを私に全て任せるつもりですか? 一人で国を変えろと? さすが王子様です」
「! 違う! そうじゃなくて・・・・・」
簡単だな。こんなのでは王はやっていけない気がする。
「ちょっと煽ってみただけですよ。・・・・別に私のことは使っていいのですよ。そういう契約ですから・・・無理難題言ってください。全部叶えて見せます」
「・・・・・なんかアスカ・・・・かっこいいな」
「そうですか?」
「レオン様と違ってとてもかっこいいですよ」
ふと見ればこの二人、同じくらいの背をしてるんだ。しかも、それなりに高い。
私は身長は低くはないが、高くも無い。メルシアさんは多分私と同じくらい。
「ありがとうございます」
「なんでリュードと反応が違うんだよ。同じこと言ってるのに」
「・・・・・レオンはすごいと思いますよ。一人で何もかの背負おうとしていたのでしょう」
レオンはきっと頼ることをあまり知らないんじゃないだろうか? それともそんなところを私が知らないだけだろうか?
「・・・・・」
『まさかこんな風に喧嘩しながら来る奴がいるとは・・・』
「・・・リュードさん、何か言いましたか?」
「いえ」
確かにどこからか声が聞こえたのに・・・・・あれ?
「他に人がいるのですかね? そんなにドラゴン人気なのですか?」
「ドラゴンを商品みたいに言うな」
『そうだそうだ!』
また聞こえた。なんと言っているかはわからないけど確かに聞こえた。
「どこにいるのでしょうか?」
「・・・・どこかな?」
「というかドラゴンはどこにいるのでしょうか?」
『上を見ろ!』
「はい」
なぜかどこからか聞こえたかわからない声に返事をして言われた通りにしてしまった。
「あ」
「え?」
「ん?」
三人同じ方を見て数秒固まった後・・・・・・
「ぎゃあああぁぁぁーーーーーーー!」
「「わあぁぁっぁぁぁーーーーーーーーー!」」
頭の上には大きなトカゲのゴツゴツした顔があった。
「こんなに大きいのですか? 聞いてません!」
「お、俺だって・・・ほんとにこんな簡単に会えるとは思ってないし・・・」
「レオン様、そんな風に考えていたのですか?」
「来てドラゴンと会えなかったらアスカだって諦めると思ったんだよ。それに兄様からドラゴンのところは行くなって言われてたし・・・そのつもりで・・・・・」
「国を変えるために必要なことだと言ったではないですか。なのにレオンはそんな・・・・」
『遊びに来たのか? そんな軽く来る場所ではない』
ドラゴンの声でハッとなった。
「あの、お願い聞いていただけませんか?」
『戦いに来たのではないのか? 珍しいな。まあ我にできることならいいだろう。ただし我に勝つことができたら叶えてやろう」
「言いましたね」
『そこの金髪のやつはそこそこ強いようだが・・・我に勝てたものは今までいないのはわかっているのだろう』
「はい。・・・どんな方法でもいいですか?」
『今まで魔法やら、百人以上でかかって来たやつもいたが勝てたやつはいない! どんな卑怯な手を使っても勝てると思うな!』
赤い大きなドラゴンは自慢している。なんかな・・・・
でもいい。罠にはかかってくれたのだから・・・・
「では私と勝負しましょう。ババ抜きで」
『・・・・・へっ?』
数十分後
「次レオンです」
「んー、揃わないなー。・・・というかなんでドラゴンとババ抜きしてるんだ?」
「ババ抜きは二人でしても面白くありませんから」
「あ、揃いました。あと少しですね。次、ドラゴンさんです」
『あー! 揃わない!』
ドラゴンが小さなカードを指先でちまちま取ったり順番を入れ替えたりしているのは面白い。
「ドラゴンさん。カードが取れません」
『これでいいか?』
私が取れるようにカードを持っている手を下げてくれる。
意外と良い人だ。いや、人ではないから良いドラゴンかな?
「あ、揃いました」
ちなみにこの世界にババ抜きはない。トランプもない。これは昨日私が作ったものだ。
「この遊びは面白いですね。流行りそうです」
「では街で売り出しましょう」
「そんなに売れるか?」
「材料費はほとんどかかりませんから利益が大きいはずです。国の稼ぎにしましょう」
「そうだな」
「レオン、私の引いてください」
「うん。あ・・・・俺がこれ引いたら・・・・」
「1抜けです!」
『なっ! そんな・・・・我が負けるなど・・・』
勝負は一番にカードがなくなった人が勝ちで、今回はチーム戦にした。私たち三人対ドラゴンさんでは不平等だからだ。私かレオンが1抜けなら私たちの勝ち、リュードさんかドラゴンさんが1抜けならドラゴンさんの勝ち。
「私の勝ちです! 言うことを聞いてもらいましょう!」
『慣れてなかったから負けただけだ! もう一回しろ!』
「良いでしょう。次はレオンもドラゴンさんチームでいいですよ。私一人で勝てますから」
「次は私が勝ちます」
『いや我が!』
「いや俺が! コツはわかった」
二人とも勝負のことを忘れている。本気だ。まあいいか。
「では2回戦にいきましょう」
さらに数十分後
「はい! 私の勝ちです!」
『なに! そんな』
「よしっ! 2抜け」
「私も終わりです」
『・・・・・・もう一回だ!』
「いいですよ。勝てるものならやってみてください!」
数時間後
「なんで勝てない!」
「強すぎますね。一度くらい他が勝ててもいいものなのに」
『我はなぜ毎回最下位なのだーーーー!」
「わかりましたか? ババ抜きで私に勝てたものは今までいないのですよ」
あれから何回もババ抜きをして空はオレンジ色になってきている。
私はいつも1抜けで次に強いのはレオンとリュードさん。二人は2抜けと3抜けを争う形になっていた。強さは同じくらいだろう。
そしてダントツ弱いのがドラゴンさん。
「ドラゴンさん、もう日も暮れそうですし・・・負けを認めていただけませんか?」
「・・・・わかった。なんでも聞いてやる」
「では・・・・・・そうですね・・・・」
ドラゴンは今なんでも、と言った。なら予定よりたくさん聞いてもらおう。取れるとこからは取れる分だけ取らなければ・・・・・
「うわー、アスカがまた悪い顔を・・・・」
「本当ですね。一体どんなことを?」
二人がこそこそ言っている。リュードさんはなぜか楽しそうにしているけれどなにを勝手に想像しているのだろうか? 私にリュードさんのような趣味はないというのに・・・
「ドラゴンさん、私のペットになってください」
『・・・・ペット?』
「「『・・・えぇぇぇーーーー!』」」
「何かおかしいことを言いましたか?」
「ドラゴンは・・・・その・・・恐れられ祀られるような生物で・・・・」
「だからですよ。これ以上の最強の後ろ盾はないでしょう」
「そうかもしれませんが・・・・そんなことドラゴンさんが聞くわけないかと・・」
『面白い。ペットになってやろう』
「ありがとうございます」
これで邪魔な王様たちを退かすことができる。
「このアスカさんのペットになって良いのですか?」
このアスカさんとはどういう意味だろうか?
『あぁ、こんなことを言う奴は初めてだ。あの初代フライスト国王でもそんなことは言わなかった」
「会ったことあるんですか?」
「ここに我を連れて来たのはアイツだ」
初代国王、一体どんな人だったのだろう。そのうち聞いてみよう。
『ペットになってなにをすればいい?』
「色々・・・私のお願いを聞いていただければ結構です」
『そうか。・・・・名をなんと言う?」
「アスカです。よろしくお願いします。この方が・・」
「レオン・フライスト。よろしく」
『アイツの子孫か?』
「一応第三王子だ。とりあえず城に・・・入れるように・・・どうする?」
確かにこの大きさでは室内に入らない。
『大丈夫だ。小さくなれる』
「そうなのですか」
『そして、お前は?」
「リュード・ロアンです。レオン様の側近をしています」
そうだ! ペットには名前をつけなくては! どうしようか? んー・・・
『我の名も特別に教えてやろう。我が名はアルフレッ・・・』
「ピキです!」
「ちょっと、アスカ。今ドラゴンさん名乗ってたんだから」
「そうだったのですか。全く聞いていませんでした」
『ならば、特別にもう一度言ってやろう。我が名は・・』
「ピキです!」
『ピキとはなんだ?』
「あなたの名前です」
『我にはアルフレッドというかっこいい名があるのになんだ。その弱そうな名は!』
「ピキです」
せっかく良い名前を思いついたのだから絶対アルフレッドとは言わせない。
「ピキ、帰りますよ。レオン、どっちが城ですか?」
「あっちだ」
『歩いて帰るのか?』
「馬を使えたら良いけど馬が通れる道がなくて出来ないから」
『・・・・飛んでいくか?』
それってピキに乗っていいって事だろうか?
「ぜひ!」
「いや、ドラゴンが巣から出てきたって話が広まれば騒ぎになるから」
「そうです。歩いて帰りましょう」
「どうせこんなに大きいピキを連れて帰るのだから見られるのは同じではないですか? 飛んでいくのがいいです!」
『それは問題ない』
するとピキはどんどん小さくなって・・・・・・50cmくらいまで小さくなり・・・
見た目が少し可愛らしくなっているのは気のせいだろうか?
いや、気のせいではない。デフォルメ化されている。
「ピキ、意外と可愛いです」
『可愛くない! 我はレッドドラゴンだぞ』
そんな姿で言っても・・・・
「余計可愛くなっているだけですよ」
地面でピーピー言っているピキを抱きかかえた。
「早く帰りましょうか」
「ピキ、大人しくしとけよ。街で暴れたら面倒なことになるんだから」
「帰ったら首輪でもつけましょうか」
『ピキと呼ぶな! ドラゴンに首輪をつけるな!』
「わかりました」
『味方はアスカだけか』
「頭にリボンでもつけましょうね」
「それは良いですね。何色にしますか?」
「ピンクとか?」
『アスカが裏切ったー!!』
ピキの叫びを聞き流して来た道を通る。
そして、ちょっとだけわがままを言って少しピキに乗って飛んでもらった。
夜
「ただいまー」
「おかえりなさいませ。レオン殿下」
レオンとリュードさんのあとに部屋に入ったので姿は見えないがメルシアさんの声だ。今日もメルシアさんには話を聞いてもらおう。
「遅かったですね。ドラゴンはどうなりましたか?」
「あとで話す。食事の用意はできてるか?」
「はい」
私もお腹すいたなーと思いつつレオンが部屋に入るのを待っていると・・
「わっ!」
リュードさんがいきなり後ろに下がってきたようでぶつかった。
「ちょっと、リュードさん」
「あ、なんでここに・・・・・」
リュードさんが珍しく怖がっている気がする。もちろん顔には出ていないし、なんとなくだけど・・
なんだろうと思いリュードさんの視線の先を見ると・・・
とても可愛い、水色の髪をツインテールにしたメイド服の少女が立っていた。
読んでいただきありがとうございます。
書いているうちにとても長くなってしまいました。
ドラゴンのピキが出て来ました。ピキにはたくさん活躍してもらう予定です。
最後に出て来た少女は何者なんでしょうか?
次話も読んでいただけると嬉しいです。