四話 城 2
「・・・すごいな。アスカさん」
「だろ」
「王子相手にこんな態度とるのもそうだけど、『立て直します』って・・・」
レオンがリュードさんにざっくり事情を話すと私はなぜかほめられていた。
「ありがとうございます」
「リュード、部屋のついでにメイドとカードもどうにかしといてくれ」
「ついでではないでしょう。メイドはともかくカード持ってないの?」
「はい」
この国出身ではない事は言わない方がいいのかな?
「無くしてしまいました」
「そういうことだから、よろしく」
「名前はアスカ・カヅキで登録していい?」
「・・・カヅキではなくしてもらうことは出来ますか?」
もうあの家に戻るつもりはないし、ここは異世界だ。異世界でまで家の事を引きずりたくない。
「出来ないことはないけど・・・」
「名字は何にする?」
「なんでもいいです。特にこだわりはないので」
「お嬢様のわりに家名に誇りとかないんだ。変わってる」
「家なんてどうでもいいんです。名字は多いものにでもしてください」
「わかった。じゃあ」
リュードさんは眼鏡をかけあの固いリュードさんに戻り・・・
「行ってきます。アスカさんごゆっくりくつろいでお待ちください」
「あ・・・はい」
やっぱりすごいなー。
「・・・ついでに陛下に報告してきます」
「待て。何を言うつもりだ?」
「さっき言いましたよね。レオン様が部屋に女性を連れ・・」
「ダメだ。お父様はまだしもお母様は絶対!」
「そうですか。わかりました。妃様に報告してきますね」
「わかってない!!」
うわー。リュードさんがレオンで遊んでる。
しかもリュードさんは表情は真顔で声も棒読みなのに何故か楽しそうな感情がすごくこもっている。
「あの・・・いつまでやるつもりですか?」
「・・・行ってきます」
「絶対言うなよ」
「わかりました」
これは言うつもりだろう。かわいそうに・・
リュードさんが部屋から出ていき二人っきりになった。
「レオン、話をしていいですか?」
「あぁ、そういえばなんか言いかけてたな」
「この国は財政難以前の問題が山積みです」
「? そうか?」
「何ですか? この城は、ぼろぼろではないですか!」
「まあ・・・確かに」
「まず室内だけでも綺麗にしてはいかがですか? それくらいすぐにできるでしょう」
「それが・・・・・人手が足りなくて・・・・」
この部屋まで歩いただけでもメイドと兵あわせてかなりの人数がいた。うちにいた人数よりずっと多いはずだ。
「なら、ちゃんと働いていないはずです。サボったりしているのではないですか?」
「・・・・そうかもしれない」
「そして隅々の掃除までさせるべきです。中庭の草もどうにかしましょう」
「掃除はともかく・・・メイドは草取りなんかしてくれないと思う」
「なら兵にさせてはいかがですか? この国は平和のようですし」
うちの警備員だって規模が同じに揃えて考えてもこんなに多くなかった。
「兵が最近弱いことが問題になってて強化訓練をしてたりして忙しくて・・・」
「レオンは強いように見えますが兵のどれくらいに勝てる自信がありますか?」
「んー・・・ほとんど勝てるんじゃないか? すごく弱いらしいし・・・あの弱い兄様が強いって言ってるくらいだから」
「レオンは誰に剣術など習ったのですか?」
「小さい頃は軍の偉い人に教えて貰ってたけど・・・うちの国は貧乏だって気づいたときからそっちの勉強はしなくなって・・・」
「当時から強かったのですか?」
「いや。5つ上の兄様に全く敵わなかった」
子供の頃で5つも違えば負けて当然だ。でもどうしてあんなに山を駆け回り素早い動物を捕まえられるのだろう?
「なら1人で何かやったとか?」
「・・・・1人でしたのは狩りくらいかな? あとたまに草取りもしてる。誰もいない時だけだけど・・」
もしかして・・・・そうだとしたら! それなら確かに強くなるかもしれない。実践が一番上達すると聞いたことがある。
「ちなみに狩りに行き始めたのはいつからですか?」
「・・・7歳くらい?」
もう8年近く経つということか。7歳くらいで国の財政難に気づいたならレオンはとても頭がいいのだろう。
「レオンが言えば兵に色々別の仕事をさせることはできますか?」
「無理だろうな。そういう権限は全てお父様が持っている。その前に大臣も通さないといけない」
「やっぱり王様邪魔ですね。どうにかなりませんか? 説明してわかって下さるような方ではないようですし、いっそ王位を譲ってもらうとか?」
「俺は第三王子だ。上に2人も兄がいる」
「どちらか話がわかるような方だったり・・・・ないですね」
「残念ながら」
こうなったら・・・裏の手を使うしかない。私はどれくらいここに居させて貰えるかわからない。居続けるには結果が必要。
「レオン覚悟はあるんですよね? 国を変える・・・王になる覚悟が」
「・・・もちろん・・・・・そうしないとどっち道フライスト家は終わる」
あとがないのはどちらも同じか・・・やっぱり面白い
「レオンは家族が好きですか?」
「もちろん。わかってないだけで悪い人達ではない・・・優しい人ばかりだ。そういうものだろ」
「そうですか・・・・私にはわかりません」
「アスカ?」
「いえ、・・・ならご家族はそのままで王位だけ譲ってもらいましょう。変えていくにはそれが不可欠です。いいですか?」
「あぁ、俺はアスカほど頭がよくない。だから考えるのを手伝ってくれ。それを俺が実現させる。・・・そうやって変えていこう」
「はい」
どうやったら一番損なしに近道で目的を達成できるか。
これを考えるのがとても楽しい。まるでパズルのようで、ピースがピタリとハマった時なんとも言えない達成感がある。これを教えてくれたことくらいはあの人達に感謝してもいいかもしれない。
「レオン様」
「!・・・リュードか」
この人いつも突然現れるんだ。
「部屋のご用意できました。メイドはこの者を」
リュードさんの後ろからメイド服の可愛らしい少女が現れた。
おとなしそうな雰囲気で春の若葉のような色の肩くらいまで伸びた髪のこだった。
「メイドのメルシア・ロニアです。よろしくお願いします」
「アスカです。よろしくお願いします」
「はい。部屋までご案内します」
「ありがとうございます。・・・・レオン朝からここにくればいいですか?」
「あぁ。そういえば着替えとかあるのか?」
「はい。一通り持ってきているので・・・・これでおかしくないですか?」
着替えにと持ってきていた服を見せた。異世界だからこれでいいのかわからない。
「んー、街に行くにはそれでいいけど・・・明日までに何か用意しとこう」
「助かります。ではまた明日」
案内された部屋は少し狭かったけれどベットはふわふわでぐっすりと眠れた。
翌朝
「おはようございます」
寝たら疲れも取れてスッキリしている。外もいい天気だ
「メルシアさん。おはようございます。色々ありがとうございました」
昨日わからないことを色々と教えてくれた。特に王家のことなどレオンに聞きづらいことを中心に。
「レオンの・・・違った・・・レオン様のところに行ってきますね」
「私もご一緒します」
「ありがとうございます」
広くて迷子になりそうだったからよかった。
「こちらです」
一応ノックをして戸を開ける。どうせ部屋に入るまでもうひとつ扉があるけれど・・・
「失礼しま・・・ん?」
開けて入ろうと思っていたけれど戸の向こうから何か声が聞こえてきていた。
読んでいただきありがとうございます。
新キャラ、メルシアが登場しました。このこはまともな子になるでしょうか?
メルシアは感想からの案を採用させていただきました。ありがとうございます。
まだキャラはサブ含め増えていきますので案よろしくお願いします。
次話も読んでいただけると嬉しいです。