三話 城1
「アスカ、どうする?」
「何がですか?」
「俺とうちを立て直してくれるんだろ。城にくるか?」
「そうですね。入っていいなら」
立て直すには政治のあれこれにも関わらなければならないだろう。
突然、私がそんなところに入って受け入れられるだろうか?
「レオン、あなたの権力でどれくらいのことができますか?」
「ほとんど何も出来ない。出来ても上の偉いやつと会うことくらいだ。話を聞いてくれるやつは結構いるが・・・・」
「ダメなのですか?」
「・・誰も父に意見するようなやつはいない。そういうものだと言うような文化になってしまっている。もう何百年も王はただのお飾りだ。決まりとか建国当時から何ひとつ変わっていない」
「それでよく国が安定していますね」
何でそんなに政治が上手くいっているのだろう?
「初代王がすごい方だったらしい。それに他国と交流がないから建国当初から何も発展していない」
それもそれですごい
「では・・・とりあえず、城に連れて行っていただけませんか?」
「・・・それはいいが・・・・」
「どうかしましたか?」
「城に入れるとなると誰だという話になりそうで・・・適当に言っておくからそれに合わせて欲しい」
「わかりました」
そういうのは得意だ。屋敷から抜け出すときはよく勝手にお嬢様ではないと勘違いしてくれるメイドに合わせて色々演じていた。
「その足で街まで歩けるか?」
「頑張ります」
「荷物は持とう」
「ありがとうございます」
「ついて来てくれ」
真っ暗な森を慣れたように歩いていくレオンをついていく。
この姿はとても王子様には見えない。変わってるなー。
少し歩くと何か大きな壁が見えてきた。
「これは?」
「街を囲む壁だ」
「大きいですね」
「魔物から街を守っているんだ」
やっぱり魔物は危険な存在なのか?
森は危ないとレオンも言っていたし・・・ん? そんなところに王子様が一人で入って大丈夫なのだろうか? それともレオンはすごく強いのかな?
大きな壁には門があるらしい。私入れるのかな?
レオンが普通に門に向かっていくのでついていく。
入り口に着くとやっと街の中が見えた。
すごい。ヨーロッパっぽい建物がたくさん建っている。思っていたより大きくてちゃんとしている街だ。
「すみません。カードを見せていただけますか?」
街を覗き込んでいると門番らしき人に止められてしまった。レオンはなんか門番に見せている。
「そうだった。持ってるわけないよな・・・」
「これならありますよ」
ポケットからあるものを取り出した。結構似てるんじゃないかな?
「ダメですか?」
「持ってたのか? ん? 違う? 何だこれ?」
「学生証です。これでは流石にダメですよねー」
もちろん冗談だ。これで通れるわけがない。どうしようか?
一応、門番には聞こえないようにヒソヒソと話す。
「持っていたのですね。どうぞ」
「「えっ!」」
まさか本当に通れるなんて。まあいいか。
門をくぐると奥にに大きな立派なお城が見えた。街は賑やかでキラキラしている。
「レオン! すごいです!」
ほとんど夜の街など、いや、昼の街すらあまり歩いたことがない。
「レオンと呼ぶな! バレるとめんどくさい」
「そんな有名なのですか?」
「顔を見たことある人はそれなりにいるはずだ。というか門番はあれでいいのか?」
確かにそうだ。あれでは門番がいる意味がない。
「通れちゃいましたね。本物と似てるのですか?」
「どうかな? これだけど」
レオンは自分のカード見せてくれた。青いカードに文字と思われるものが書いてある。そもそも文字が違う。似ているのはサイズ感と雰囲気くらい? もうどうして間違えたのか、そっちの方が不思議だ。
「あれでいいのですか?」
「よくない。後で報告しておかないと」
「王子様なのに何も門番に言われませんでしたね。これにはそういうことが書いてあるんですよね?」
「これは偽造したやつだから」
「そんなのやっていいのですか?」
「ダメだと思う。けど王子だから本物のカード持ってたら自由に動きまわれないし、これくらい権力使ってもいいでしょ」
「意外と適当ですね」
レオンは王子っぽいところもあるみたいだけど、そうではない普通なところも結構あるらしい。
「ほら、早く行こう。知り合いに見つかると怒られる」
「待ってください。私走れません」
「あ・・ごめん」
「いきなりですが、そのうち文字を教えてください」
どんな文字なのだろう? 英語みたいな感じではないといいな。日本語みたいな形の可能性は少ないだろう。せめてローマ字みたいな感じがいい!
「書けないのか?」
「この国の文字と私のいた国の文字は違うみたいです」
「そうか。わかった」
少し歩くとお城のすぐそばまで来た。おおー! うちより五倍は大きい!
「アスカ、ただついて来てくれ。その格好ならどこかの令嬢だと周りは勘違いしてくれる」
「わかりました」
レオンは持ってきていた袋から何か取り出していた。
「それは?」
「城で着てる王子らしい服。これを着てないと顔パスで入れないだろ」
「そんな理由ですか」
「それとあんな服で入ったら森に行けなくなる。あいつに怒られる」
レオンはその服を上から着た。
上着だけなのにそれだけで王子様だ。青の生地に白いラインと金色の紐?のついた物。
「・・平民に見えない理由はもう一つあるかもしれません」
「どこだ?」
「顔です。あなたのような美形な方そういません」
「そうか?」
「はい。あ・・城では王子様扱いしますね」
「よろしく」
城にも門はあったが普通に通れた。
レオンと一緒だからだろう。
城は綺麗だった。キラキラで豪華で・・・・・・
いや、違うかもしれない。
あちこち埃は溜まっているし、中庭は草が伸びっぱなし。ツタがはってしまっている建物まである。それだけではない。外壁がボロボロになっていたり・・・・
「ここだ」
どこかの部屋の前まで連れてこられた
「ここは?」
「俺の部屋だ。とりあえずここくらいしか場所がなくて」
「そうですか」
「入らないのか?」
「おじゃまします」
中は豪華な椅子や机、絵があって綺麗に整えられていた。王子の部屋だけあって広い。しかも寝室や作業部屋はわかれているらしい。
「そこら辺に座ってくれ」
「どこでもいいですか?」
「あぁ、・・・あと、二人の時はいつもの感じで話して欲しい」
「わかりました。なら言わせていただきます。この国は財政難以前の問題があ・・」
「レオン様。どちらに行っておられたのですか?」
どこからか眼鏡をかけた堅い見た目の同年代と思われる銀髪紅眼の男が現れた。無表情でなんの感情もこもっていないような声。
「あ・・・リュ、リュード。いたのか。そうか」
「この方は?」
「初めまして。アスカ・カズキと言います」
「私はレオン様の側近。リュード・ロアンと言います。失礼ですが、レオン様とはどういう関係で?」
どういう関係か? それは・・・
「契約者です」
「契約者?」
「リュード、アスカの部屋を手配してくれ」
「意味がわかりません! どういうことですか?」
「そのままの意味だ」
「教えてくださらなければレオン様が部屋に女性を連れてきていたと報告させていただきます」
別に報告されても良くないか? 連れてきているのは事実だし。
「そうだけど・・・わかった! 話すからやめてくれ」
「私的な方ですか? 政治的な方ですか?」
「政治的な方だが、私的な方で頼む」
「わかりました」
頼むってどういうこと?
首を傾げて見ているとリュードさんは眼鏡を外し・・・
「それで? どういうことなんだ? レオン」
えっ! これリュードさん? 口調とか雰囲気とか色々違う。レオンもキャラが変わるけどあれは作っている感じがある。この人にはそれが全くない。
大人っぽかったリュードさんが子供っぽいというか歳相応に見える。静かで淡々としているのはあまり変わらないけれど・・・説明は難しいがとにかく違う。
「この国を変える。アスカはそれを手伝ってくれる・・・いや、一緒にやってくれるらしい」
「あれを本当にやるのか?」
「待ってください。どうやってそんな風に変えているのですか?」
「雰囲気とかのこと?」
「それです!」
私はまだまだ別の顔を作るのが上手くない。わかる人には作っているとわかってしまう。
「この眼鏡で切り替えてるだけ。で、レオン。それで?」
「アスカ。リュードはそういうやつなんだ。それでアスカを城に連れてきた」
「この人は何者なんだ?」
「さあ・・・誰でもいいだろ」
『誰でもいい』か・・・異世界から来たのは隠しておいてくれるのかな?
「これからどうする?」
「まだ考えてない」
「!?」
「アスカは帰るところがないらしい。城の方が色々しやすいから連れてきた」
「そんな理由で?」
「そうだ。だから、部屋と言い訳を用意して欲しい」
「わかった。・・・この国を変える・・・本気なんだな?」
「遊びでこんなことするわけないだろう」
「そうか」
「リュードは関わらなくてもいい。どうする? ここから先は踏み込んだら元には戻れない。それでも協力してくれるのか?」
「もちろん、協力するよ。こんな面白そうなこと関わらないともったいない」
こんな流れで私たちの仲間は三人になった。
後に誰かが言った。
国を変えたのは最強の変人集団だと
読んでいただきありがとうございます。
まだ三話なのにポイントがついてます。入れてくださった方ありがとうございます。
今回、三人目の変人。リュードが出てきました。
変人と言っても変わっているという意味です。
突然思いついた人物なのでリュードがどんなふうになっていくのかまだ分かりません。どうなっていくのかとても楽しみです。
私は名前を考えるのは苦手です。地名・人物名募集します。よければ感想から書いていただけると助かります。
次話も読んでいただけると嬉しいです。