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008.第2皇女の憂鬱

ジュリアーノは クッキーを齧りながら、窓の外へ目を向けた。


「最近、空が暗いよねぇ。」



曇りの日が続くと、気分も落ち込みがちになるものだ。


近頃、ちょっとした拍子に 物憂げな顔つきをする異母姉(あね)、シルヴィーナのことが気になっていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



シルヴィーナ皇女の婚約者が決まったのは、つい先日のことだった。


シャウラ共和国の公爵令嬢と交わしていた、ディルズ侯爵の嫡男の婚約が流れたのが切欠だ。政治的な判断での婚約破棄だったと噂されている。クラレンス・ディルズ侯爵令息は人当たりがよく、女性を下に見るような偏見の感じられない人のようだった。多分、それが、この婚約が決まった1番の理由だったのだろう。正直、家格は釣り合っていないのだ。


シルヴィーナは『地』『風』『水』『火』と4種の魔術属性を得た、稀有な部類の皇女である。聡明で控えめな優しい女性だ。父である現皇帝からの愛情も深く、将来を心配されての婚約者選びは難航した。周囲がどんなに薦めても、皇帝が首を縦に振らない。そんなことが宮中では繰り返されていた。


そこへ滑り込んだのが、クラレンス・ディルズという幸運な男だった。


実際のところ、ディルズ侯爵もこの縁談が決まった時はホッとしたのではないだろうか。シャウラ共和国との繋がりを切ったことに後悔はないが、国内で目ぼしい上級貴族の令嬢たちは既に婚約者がおり、息子の婚約者選びは困難を極めるだろうと思われたからだ。


シルヴィーナ・ハーバルは、プラチナブロンドの髪と深い翠の瞳を持つ嫋やかな皇女だ。生母は正妃ファウスティーナ妃殿下、その血筋はエルトナ王家であり、他の貴族令嬢と比しても見劣りすることはない。




だが、この婚約を1番喜んでいたのは、誰あろうクラレンスではなかったか?




それは、秘めた恋だったのだ。シルヴィーナが夜会に参加すると聞けば、自分も参加した。シルヴィーナが祈りを捧げるのだと聞けば、お忍びで教会に足を運んだ。一目見たかった。少しでも傍にいたかった。この婚約が決まった時、長年の想いが通じたのではないかと思った。シルヴィーナがクラレンスをどう思っているかは分からないが、なるべく彼女の気持ちに沿うように、なるべく幸せにしたい。想いを伝えることはしないが、クラレンスはそう思っていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ジュリアーノがお気に入りのバラ園へ足を運ぶと、シルヴィーナが曇天を見上げていた。



「シルヴィ異母姉様(ねえさま)?」


ジュリアーノは シルヴィーナを脅かさないように、そっと声をかけた。声に気付いたシルヴィーナが、ゆっくりこちらを振り返る。




「リア。あなたもバラを観に来たの?」

「はい、異母姉様(ねえさま)。」


シルヴィーナは、ジュリアーノを「リア」と呼ぶ。それが、ジュリアーノは嬉しい。




「晴れる日が少ないですね。」

「そうね…。」

「空が晴れたら、このバラたちも もっとずっと美しさを誇れるのに。

 そうは思いませんか、異母姉様(ねえさま)?」

「そうね…。」


シルヴィーナの いつものような相槌が、どこか虚ろに聞こえた。




「光に照らされなくては、花も輝けませんから。」

「そう…かもしれないわね。」

「シルヴィ異母姉様(ねえさま)は、私の自慢の姉上ですよ。」


ジュリアーノが静かに微笑めば、シルヴィーナも微かに頬を緩めた…気がした。




「シルヴィ異母姉様(ねえさま)

 今度、私と一緒に、エル異母姉様(ねえさま)の新居に伺ってみませんか?」


チラと、シルヴィーナの瞳が揺れる。



「そうね。

 私もそのうち、城を出るのだもの。

 心構えを教えていただく必要はあるのでしょうね。」

「では、エル異母姉様(ねえさま)にはお手紙を書きますね。

 とっても楽しみです。」


ジュリアーノは満面の笑顔で、エレノアに手紙を出すことを約束した。

皇族だって、マリッジブルーとかある…んだと思う。

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