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070.新たな報せ

ルード領にもう一体、竜が出現した───。






その報が帝都に届いたのは、2日後だった。

今度は赤竜(レッドドラゴン)で、ルード領の南方に出たという。


「北に青竜(ブルードラゴン)、南に赤竜(レッドドラゴン)か。

 討伐するなら同時……は、無理だろうね。

 さすがに辺境伯領軍だけに任せる訳にはいかないだろうけど。

 フェル異母兄上(あにうえ)は、どうするつもりなんだろう?」


ナッシュはジュリアーノの言葉に耳を傾けながら、優雅な所作でお茶を煎れた。

どこか花のような香りのある琥珀色のお茶がシンプルだか繊細なフォルムのティーカップで供される。


赤竜(レッドドラゴン)が出たなら、ルード領の南に援軍を出すしかないけど…。

 騎士団と魔導士団からどれくらい出すつもりだろうね。」

「探ってはいるのですが、今のところ明確な話はありません。

 噂だけが駆け巡ってはいるようで…申し訳ありません。」

「ううん。気にしないで、ナッシュ。

 いつもありがとう。また何かあったら教えてくれるかな。」

「かしこまりました。」


ナッシュは綺麗な礼をして、一度退出していった。






「どう考えても、おかしいんだよねー。

 ここ数十年は竜の存在を確認していなかったのに。」


ジュリアーノとて、男子だ。

竜を格好いい存在として、あれこれ調べたことくらいはある。

勇者の物語や、竜退治の話などは何度読んでも興奮したものだ。


しかし、本物の竜を見てみたいかと問われれば、否である。

できれば竜などという超常の存在とは対面したくないし、ましてや竜を相手に戦うなど真っ平ごめんと言いたい。


だが、現実に存在し、民を脅かすのなら、それはどうにかしなければいけないし、自分も何か手伝わねばとも思うのだ。


「まずは、相手を知ることからかな。

 エットレ…は、流石に今は忙しいかなぁ。

 でも、エットレだしなぁ…。」


宮廷魔導士エットレは、かなり変わった魔導士だ。


宮廷に出仕できるというだけでも、権力欲の強い者は多い。

魔導士となれば、偏屈だったり、ブライドが高かったり、一般常識をどこかに置き忘れたり、とにかく変わった者が多い。


ましてや、エットレは皇族の教育係を長年務めたのだから、こういった非常事態には当然呼び出されそうなものなのだけれど、エットレはこういう時こそ尚更表舞台に出てこようとはしない。

非常事態は己の能力をアピール出来る機会でもあるだろうに。


本人は「いつまでも爺が前に出ていては目障りというものでしょう」などと言うが、老若関係なく魔術や魔獣討伐の知識でエットレの上をいく者などいはしない。


サラマンダーやワイバーン程度の討伐であれば、それでも良いが、今回の相手は竜だ。

それも、二体。

そして、その中には赤竜がいる。


さすがに、騎士団や魔導士団の上層部から応援の指示が出ていそうだ。


「まぁ、他に頼れる人もいないんだけど。

 予定だけでも聞いてもらおうかな。」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「かしこまりました。

 エットレ殿には、先触れを出しておきます。」


ナッシュが戻ってくると、早々に、ジュリアーノはエットレへの面会を求めるように指示を出した。

それを受けて、ナッシュはまた部屋を出ていく。


「ナッシュは仕事が板についてきたなぁ。

 サムもテッドも出来ることからやってくれてるようだし。

 強引に引き取っちゃったけど、彼らにとっても悪くなかったのかもね。」


ジュリアーノも、実はちょっと自信がなかったのだ。

皇族としてあまり多くのことをできない自分の侍従など、嬉しい訳がない。

それでも、彼らの居場所を作ってやりたいと思ってのことだったが、独りよがりだったかもしれないと、心のどこかで引っかかっていた。

けれども、今は、悪くない選択だったと思っていた。




ナッシュは、あっさりエットレとの面会を取り付けてきた。


「やっぱり、忙しそうだった?」

「いえ、それほどでもないようでした。」

「誰も来てなかったの?」

「魔導士団の方が数名いらっしゃっていたようでしたが、直ぐに帰って行かれたようです。」

「そっかー。エットレは、どんな感じだった?」

「エットレ殿は、何というか、いつも通りでしたね。」

「そう…。何だか、勿体ない気がするよね?」

「そうですね。

 しかし、周りもそれを良しとしているようですから。」


ナッシュも戸惑いを隠せないようだ。


「まぁ、それに関しては今更って気もするし。

 エットレが宮廷魔導士を辞めるのでなければ、取り敢えず放置かな。」

「はい。」

「あとは、トラジャンとアーロンが心配だけど…」


ジュリアーノは思わず苦笑をもらした。


「こういう時、何の役にも立たない自分が腹立たしいよ。

 助けたい人を助けられないというのは、堪えるもんだね。

 魔術の使えない私が出来ることは少ないから仕方ないけど。」


机の上に肘をついて、手を組みながら、溜め息のように呟く。


ジュリアーノがこんな風に弱音を吐くことは珍しい。


ナッシュから見て、ジュリアーノは努力の人だ。

聡明で、じっくり考える慎重派だか、なかなかに情に厚い。

その心に、確かな情熱の火が見える。






魔術が使えない皇子。

それでも、ナッシュにとっては仰ぐべき主だ。

ナッシュは、そのことに誇りすら持っていた。


私はこの方をお支えする───。


あの日、そう誓ったのだから。

ここまで、読んで下さりありがとうございます。


誤字脱字のご指摘や、ご意見、応援メッセージなど頂けると有難いです。

宜しくお願い致します。

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