004.第3皇子の婚約者
設定、変更しました。
トラジャン 五男 ⇒三男
魔術属性の全くないジュリアーノを除くと、皇子・皇女の中で 魔術属性が1種類のみなのは 第3皇子のレオナルドと 第3皇女のアニェーゼ だけだ。
しかし、アニェーゼの属性は『光』であり、その力は 珍重されている。
翻って レオナルドの魔術属性は『火』であり、魔力量は皇族として見劣りするものでもないけれど、やはり 劣等感は付き纏う。きっかけが何だったかは、本人も覚えていないだろう。レオナルド皇子は、ある時を境に剣術の鍛錬にのめり込むようになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルード辺境伯の子息子女は皆、剣術に長けているとの噂が広がっていた。
特に 三男のトラジャンは、天才ではないかとの評判だった。
「実際はどうなのだろう?」という興味から。
たまたま 同い年だった 異母弟のジュリアーノをダシに、皇城へとトラジャンを招びだした。
そして、レオナルドはトラジャンとの試合を申し出た。
考えても見てほしい。
15才の皇子と8才の辺境伯子息という、何とも悲惨な対戦カードである。大人げないにも程がある。
何故、誰も止めなかったのか?
ジュリアーノが席を外していなかったら、もしかしたら 止めていたかもしれない。けれども、その時 その場に ジュリアーノはいなかったのだ。どうしようもない。
腕力は、レオナルドの方が圧倒的に有利である。にも拘らず、トラジャンに勝ち切れなかった。
ほんの数分の剣戟ではあったが、躱しきられてしまった。完全に、レオナルドの敗北である。
その後。
ルード辺境伯の令息令嬢は 事あるごとに、レオナルドによって皇城に招びだされ続けることになった。
さらに、2年後。
ルード辺境伯令嬢パンジェリーと第3皇子レオナルドの婚約が決まった。
そこに パンジェリー嬢の想いは考慮されていたのか、甚だ疑問ではあるのだけれど…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジュリアーノは、パンジェリーのことを「ジュエリー様」と呼んだ。
「ジュエリー様、ごきげんよう。」
「ごきげんよう、ジュリアーノ殿下。」
「レオ兄様とのお茶会は、もう終わりですか?」
「…ええ。」
気のせいだろうか。パンジェリーの顔が一瞬引きつったように見えた。
「ジュエリー様、少しだけお時間はありますか?」
「どうかなさいまして?」
「はい。実は、折り入ってご相談したいことがありまして。」
「……。
どのようなことでしょう?
私でお力になれることであれば、良いのですけれど。」
パンジェリーの返答に、ジュリアーノは柔らかく笑んだ。
「来月は、トラジャンの誕生日がありますよね?
何か、トラジャンの喜びそうなことをしたいのですが、
良い案が思いつかなくて…。」
「まぁ。」
心なしか、パンジェリーの声から硬さが薄れたように聞こえた。
「一緒に、考えてくださいませんか?」
「殿下は、弟と仲良くされたいのですか?」
「はい!
でも、トラジャンは 感情が表に出にくいし、
あまり自分のことを話してくれないので
煮詰まってしまってて…。」
「そうですわねぇ。
では、私の方でも少し探ってみましょうか。」
「わぁ!
ありがとうございます。嬉しいです。
ジュエリー様に相談して、良かったです。」
あの皇子に この弟、兄弟だとは思えない…とパンジェリーが思ったかどうかは知らないが。
パンジェリーは表情を少しだけ緩ませ、皇城を後にした。