029.アフターフォロー?
ディーノ少年との話は、ジュリアーノにとっては楽しいものに終わった。
しかし、そうは思わなかった者が2名いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1人は側近アーロン・オレーガノ、オレーガノ伯爵令息である。
「何なんですか、あれはっっ!」
「まぁ、まぁ、落ち着いて。
そんなに怒ると早死にするよ?」
「殿下は人が良すぎるのです!
初対面の平民に、あのような態度を許すとは何事ですか!!」
「彼だって望んで来たわけじゃない。
トラジャンを通じて無理矢理連れてこられた訳だから。」
「殿下は皇族ですよ。当然じゃないですかっ。」
「アーロン。………、私はそういうことを好まないんだ。」
「…………………………分かっています。
そういう殿下だからこそ、お仕えしたいと思うのです。
でも、仕える者としては、主が軽んじられるのは耐え難いのです。」
「あー、うん。ごめんね。」
アーロンは平民を見下している訳じゃない。
貴族という地位に優越感を感じている訳でもない。
ただ、主―――この場合、ジュリアーノである―――が貶められるのが許せないのだ。
それについてはジュリアーノも理解しているつもりだ。
自分の言動が周囲から軽んじられる結果に繋がりがちであること、それに対してアーロンが心を痛めていること、どちらも知っていて無視している。
その点について、ジュリアーノはアーロンに申し訳ない気持ちはあるのだけれど、今のところは改める気もないので、心の中だけで土下座である。
そして、もう一人がトラジャン・ルード、ルード辺境伯令息である。
ディーノとの初めての謁見(?)から少し間をおいて、彼はジュリアーノの私室へやってきた。
「ジュリアーノ殿下は、精霊が見えるのですか?」
これまた どストレートに聞いてきた。
(あれ?会話は聞こえないんじゃなかったの?
ああ……読唇術、かな。)
「トラジャンは どう思うの?」
「アレが言うなら、可能性は高いかと。」
「因みに、彼は見えてるのかな?」
「あの様子だと、そうなのでしょうね。
話すことも、あるいは…。」
「私もそう感じたよ。
ディーノという少年は天才というだけでなく、かなり特異な人物のようだね。」
「それで、殿下。殿下はどうなのですか?」
ここで、打ち明けるべきか?
ジュリアーノには、明言してしまうことに迷いがあった。
トラジャンを信用してるとかしてないとかという問題ではなく、トラジャンに第一級の秘密を背負わせてしまうことに。
「どうだろうね?
申し訳ないけれど、私にはそれに答える権利を与えられてないんだよ。」
これだけで、トラジャンの中では確定するだろう。
そして、それがとても危険な内容であることも理解しただろう。
「ディーノというのは、面白いね。また近いうちに話してみたいな。」
「こちらの心臓の心配はしてもらえないんでしょうか?」
「うん?」
「内容もですが、アーロンのイライラ度上昇率が酷いですよ。
傍で見ていて、同情しますね。」
「ああ、うん。
アーロンも もう少し落ち着いてくれるとありがたいんだけどねぇ。」
「あれは 無理でしょう?忠誠の塊ですから。」
(うーん。でも、それでは、側近は務まらないだろう。
困ったな。もっと冷静で、私の間違いを躊躇なく指摘してくれるようでなきゃ困る。
自分は、一体、何処で間違えたんだろうか?)
この件は、後で熟考する必要がありそうだった。
ここまで、読んで下さりありがとうございます。
誤字脱字のご指摘や、ご意見、応援メッセージなど頂けると有難いです。
宜しくお願い致します。