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028.天才

数日後。

ジュリアーノは、トラジャンの計らいで「六連星」ディーノと会う機会が得ることができた。




6属性を使い熟す天才魔術師とはどんな人間なのか。

噂では「貴族に諂わない平民」「気難しい少年」と聞く。


「そういえば、トラジャンはその少年と仲がいいのかな?」

「確か、ルード領の出身なのだそうですよ。接点はあるのでしょう。」


アーロンは今回の件にあまり気が進まないのか、どこか落ち着きがない。

しかし、必要な情報は伝えてくれる。


「甘い物は好きなのかな?」

「男ですよ?いらないんじゃないですかね?

 トラジャン殿だって、甘い物は得意でなかったのでは?」

「そう?じゃあ、お茶だけでいいのかな。

 念のため、クッキーだけでも用意しておいてもらえるかな。」

「承知いたしました。」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



学園の寮内に皇族用に用意された応接間、そこへトラジャンが入ってきた。

その後ろから、黒髪に深い青色の瞳の、端正な顔立ちの少年が続く。




「殿下。これが我が領出身の平民、ディーノです。」


トラジャンが手で黒髪の少年を示す。

少年はほんの気持ち程度会釈したまま無言だ。


ジュリアーノは、それに1つ頷いてみせた。


「うん。座ってくれ。ディーノも楽にしてもらって構わないよ。」


ジュリアーノの言葉をきっかけに、その対面のソファにトラジャンが座る。

トラジャンの隣に少年は座った。

アーロンは側近として、ジュリアーノの斜め後ろに控えたまま立っている。



「急に招んでしまって驚いたかな?

 学園に入学したら、一度君に会ってみたいと思っていたんだ。」

「………。」

「ディーノ、少しは愛想良くしてくれないか?

 殿下の御前だぞ。」


トラジャンがこんなフォローをしてくるなんて、相当である。

内心ハラハラしているのかもしれない。

もちろん、多少のことではジュリアーノが大事にする訳はないと知ってはいても、ここにはアーロンもいるのだ。


「用は………何ですか?」

「おいっ。殿下に対して、その態度はなんだ!」


やはりというか、ディーノの端的な質問にアーロンがイラつきだす。

ディーノがアーロンを気にするそぶりはない。そもそも表情が薄い。

こんなに感情を表に出さない平民も珍しいのではないだろうか。

そこまで平民のことを知らないジュリアーノでも、そう思ってしまうほど、ディーノに動揺は見られなかった。


「アーロン、私は気にしないよ。」

「ですがっ。」

「アーロン、私が……気にしてないんだよ?」


ジュリアーノが笑みを深めると、アーロンは口を噤んだ。

納得できないながらも、主人に従って黙することにしたらしい。



「私はつい最近入学したばかりなのだけど、君に友人になってほしくてね。

 どうだろう?」

「「っっっ。」」


アーロンだけではなく、トラジャンまでもが声を失った。

なのに、ディーノだけは落ち着いている。

黒髪の少年は部屋の中をぐるりと見まわすと、皇子に問うた。


「ここで話すことに、制約は?」

「……そうだね。

 アーロン、トラジャン、ここでの話は内密に頼めるかな?」

「「はい。」」


アーロンは苛立ちのままに、トラジャンは不審げに、それでも了承の返事を返した。

それを確認すると、少年はパチンと1つ指を鳴らして

徐ろに口を開いた。


「数日前から、精霊が騒がしい。

 これは、あんたのせいだな?」

「待った。ここでその話は…」

「問題ない。2人には聞こえていない。」


なるほど。やはり、この少年は天才らしい。


短詠唱(トリガーワード)すら必要とせず、高等魔術を使い熟すのか。)


アーロンが怒りもしないところを見ると、彼らには口許の動きすら見えていないのかもしれない。


「君には……精霊の声が聞こえるのかい?」

「闇の精霊と話したか?」


ジュリアーノの質問にはまともに答えるつもりがないらしい。

ディーノは新たに質問することで肯定を示す。


「分かっているかもしれないが、精霊との契約は安易にするなよ。」

「それは、なぜ? そして、どういう意味なのかな?」

「精霊は気まぐれだ。しかも、それぞれに個性がある。

 同じ属性だからと言って、同じような考えを持っているとも限らない。

 相手をよく知らずに、約束を取り交わすのは危険だ。」

「なるほど。肝に銘じておくよ。

 ところで、友人になってほしいという私の頼みは聞き入れてもらえるのかな?」


ジュリアーノは、まだ貰っていない答えを確認する。


「あんたの顔は覚えた。声も覚えた。

 これは、顔見知りと言えるだろう。」

「そうだね。まずは、知人からということかな?

 分かった。それで、頼むよ。」



こうして、ディーノとの茶会は終わった。

その間、ディーノは一度もティーカップに口をつけることはなかった。


けれど、彼の中で少しだけ、自分は受け入れられたのだとジュリアーノは感じていた。


(もっといろいろ話してみたいけど……ゆっくり距離を縮めた方が良さそうかな?)






当たり前だが、ジュリアーノの側近で乳兄弟のアーロンはディーノの態度を憤慨していた。

こちらを宥める方に、暫くの時間を要した。


(アーロンとディーノは、相性が良くないなぁ。

 ディーノの話は、トラジャンとするようにしなくっちゃ。)

読んで下さりありがとうございます。


誤字脱字のご指摘や、ご意見、応援メッセージなど頂けると有難いです。

宜しくお願い致します。

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