020.第1皇女の懐妊
第2皇子の結婚が、あと1ヶ月と迫っていた。
「フェリクス殿下のお式の参列者は、流石の面々ですね。」
「そうだね。国外からは王族だけでなく、貴族の方も何組かいらっしゃるみたいだね。」
アーロンが感心したように言うので、それに相槌を打つ。
国内も、貴族、文官、武官と、なかなかの人数のようだ。
皇太子でもないのに、ここまでの人が集まるのは確かに凄いことなのだろう。
正直、皇太子アルフォンスよりフェリクスがいなくなる方が、この国の政治は動かなくなるのだ。
軍事にしても、フェリクスが抜けるとなると困ったことになるはずだ。
「エル異母姉様は、お式に参加できないかもしれないけどね。」
「エレノア様は、ご出産が間近とか。」
「うん。カーティス殿の変貌ぶりは大変なものらしいよ。
姉上の側から片時も離れなくて、周りの者が苦労しているとか。」
「ご結婚から、かなり経ってのお子さまですからね。」
「そうだね…。」
エレノアとカーティスは、ずっと上手くいっていないように見えた。
それがここまで改善されたのは、喜ばしいことだと思う。
このまま幸せになってけれれば、弟としても嬉しい限りだ。
「今年はフェル異母兄上、来年はレオ異母兄上とシルヴィ異母姉上の婚姻だもの、結婚ラッシュだよね。」
昨年はカーミリア皇太子妃の出産、エレノア皇女の懐妊、その他にも軍事的に大きな動きがあったり…とバタバタ続きで、婚姻が後回しにされてきたのだ。
フェリクスの悩みは、まだまだ尽きなさそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今、馬車の中には、オーキッド公爵令嬢、シルヴィーナ皇女、アニェーゼ皇女とジュリアーノ皇子が乗っていた。
「オーキッド様、我儘を聞いてくださり有り難うございます。」
「いいえ、ジュリアーノ殿下。
エレノア様のことは私も気になっておりましたの。お誘いいただけて嬉しいですわ。」
オーキッド公爵令嬢は淑女の微笑みで、ジュリアーノの言葉に応えた。
4人でエレノアに会いにいかないか、と声をかけたのはジュリアーノだった。
フェリクス皇子とオーキッド嬢の挙式の頃、エレノアは臨月に入るため、式への参列を辞退していた。
それをエレノア自身が気にしているだろうことをジュリアーノは察していた。
エレノアは出産してしまえば暫くは動けないし、オーキッドも婚姻後は挨拶回りで国外へ行くことが増えるであろう。
忙しくなる前に話す機会を設けても良い気がしたのだ。
「それにしても、カーティス様のエレノア様への気遣いが大変なのだとか?」
「そうですわね。正直、エル異母姉様とカーティス様が仲睦まじくなさっているところなど、想像もつかないのですけど。」
オーキッドが話を振れば、アニェーゼがあんまりなことを言う。
どうやら、カーティスの態度にずっと思うところがあったようだ。
「まぁ、それは楽しみですわね。」
シルヴィーナが執成すように言う。
「あ、見えてきましたよ。」
ジュリアーノは、女性陣の目を馬車の外へ向けさせた。
皆が馬車を降りた時、屋敷の入り口で出迎えたのは幸せいっぱいという顔をしたカーティスだった。
「ようこそ、お越しくださいました。妻は身重なため、応接間にて待たせております。」
何かあったら困るので、と平然と言い放った。
そんなことを言うような男だったかと、オーキッドとアニェーゼは顔を見合わせた。
大変可哀想なことではあるが、このメンバーの中にカーティスの味方を見つけるのは難しそうである。