002.精霊を信じる世界
まず、『無』があり。
そこから『光』が生まれ、
呼応するように『闇』が生まれる。
さらに続いて、『土』『風』『水』『火』と生まれ出た。
この7つが、大きく括って『精霊』と呼ばれるものである。
人々は『契約』により精霊の力を借りて、様々なことを為せる。
しかし、これは、誰もが契約できるというものではない。
精霊に愛された僅かな者たちが、これを為し得るとされる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…というのが、通説でして。」
7大精霊の偉大な力を行使することは難しい。
現代における『魔術』とは、一般的に『大精霊の眷属に力を借り受けて、魔術を発動させること』とされ、それは『精霊との契約の形』であり、契約の中から特定の魔術式を指定するための合言葉が 俗に言う『詠唱』なのである。
魔術の熟練度によって『短詠唱』だけで魔術を発動できる者もいれば、それだけでは足りずに『長詠唱』と呼ばれる 祝詞のような言葉が必要な者もいる。
「ここまでは 宜しいでしょうか、殿下?」
皇族専属家庭教師の1人である、宮廷魔導士 エットレが尋ねてくる。
「うん、問題ないよ。
『大精霊』と云われるモノのことだよね?
確か 其々の属性を表す『紋様』と『色』がある…と
教えてもらった記憶があるけれど。」
ジュリアーノがにっこり微笑んで返せば、エットレも笑顔で頷いてくれた。
「はい、その通りです。
『無』は虹、『光』は白、『闇』は黒で、
『土』は黄、『風』は緑、『水』は青、『火』は赤と
されておりますね。」
「申し訳ないけれど、
紋様についても軽くお浚いしてもらえるかな?」
「はい、畏まりました。
では、こちらをご覧ください。」
エットレが1冊の本を開いて、見せる。
そこには、魔術属性を表す魔術紋が見開きで載っていた。
大精霊を祀る神殿の正門の柱には、祀られた精霊の魔術紋が必ず標されている。
祭祀に列席すること多い皇族には、見慣れた物であると言えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
人は生まれながらに、『魔力』と『魔術属性』を持つという。
但し、平民の魔力量(値)は 大抵 10にも満たない数値である為、『魔力持ち(魔力値:30以上)』として遇されることは 殆どない。
だが、『魔力を持っている限り、その魔力には必ず属性が存在する』 とされ、また 少ない魔力量でも 突発的な感情の起伏により 魔術現象を発生させることがある。
そのため、平民でも一定の魔力量を持つ者達は その「取扱いを学ぶ」という名目で 帝国立の魔導士学園に通うことが義務付けられており、魔力量の判定自体は各教会に委ねられているが 「平民を含めた 全ての帝国民は 満4~満12歳の間に 少なくとも1度は 教会で魔力検査を行うこと」とされている。
魔力量や魔導士育成は 軍事力と密接に関係してくる為、国策として魔力検査は無料で受けることができることになっている。
平民としても この魔力検査を終えないと「準国民権」を得られず、「準国民権」がなければ 成人する際に「国民権」を得られない。
つまり、魔力検査を意図的に受けないということは まず起こらない。
「国民権の取得要件」には この他に「読み・書き・計算の習得」があり、これも 準国民権があれば 教会にいけば 平民は無料で教えてもらうことができる。
「読み・書き・計算」を何処で習うか。
「教会で習うか、魔導士学園で習うか」は、平民にとっても その先の人生において大きな意味を持つ。
つまり、魔導士学園の卒業は 平民に開かれた「エリートへの道」で。
裕福な商人の中には 子供に わざわざ家庭教師をつけて、魔力量を上げる教育をすることもあるほどだ。
(それに どれほどの効果があるかは、別として…。)
結構、切実な問題なんである。
王侯貴族には『魔力持ち』が多いため、もちろん彼らの大半は魔導士学園に通う。
稀に 魔力量の少ない貴族子息たちは 騎士養成学校へ通うこともあるが、これは 貴族全体の1割に満たないと言われている。
では、こういった者たちが冷遇されているかというと 実はそうでもない。
騎士養成学校では 軍事に関することをかなり深く学べる為、落第を重ねて退学にさえならなければ 軍部で重用されることも少なくないのだ。
継ぐべき家がない次男・三男…といった貴族令息には、好んで騎士養成学校へ進学するケースも ままある話なのだ。
まぁ、そうは言っても、魔力値が高かったり、魔術属性が複数あったりすれば、よっぽどの変わり者でない限り 魔導士学園に進学するのが普通ではある。
貴族の9割が魔力持ちであり、平民の魔力持ちは2%程度と言われているが、『魔術属性が2種類以上ある』というのは 『魔力持ち』の中でも3割に満たないのだから、魔導士への道を選ばないという者は 皆無と言ってもよいだろう。
4種類以上の魔術属性を持つ者に至っては『精霊の愛し子』と呼ばれ、魔導士学園の中でも 尊敬と畏怖の対象となっていた。
世界観、…どうしよう?
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『土』属性:橙→黄