012.お膳立てする皇子
オレーガノ伯爵家の次男アーロンは悩んでいた。
自身の主の婚約について。
「殿下はお優しくて、見目だって悪くないのに…。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「殿下、ぺオニール嬢をご存知でしょうか?」
「アーロンの幼馴染だよね。
パンセリー伯爵令嬢だったかな?」
「そうです。」
「オーキッド様の妹殿と仲が良かったような…。」
「よくご存知で。」
第2皇子フェリクスの婚約者オーキッドの妹、アイリス嬢と仲が良かったはずだ。
「………。何だか、嫌な予感しかしないね。」
「今度、お茶会をしましょう!」
「出来れば、遠慮したいのだけれど。」
「何故ですか?!」
「いろいろと事情があるんだよ。」
ぺオニール嬢が、アーロンを憎からず思っているのをジュリアーノは知っていた。
アーロン本人は全く気付いていないようであるが。
まさか、想い人本人から別の者との縁談を進められているとは、彼女は思いもしないだろう。
難儀なことだ…。
そもそも、ジュリアーノに婚約者がいないのはおかしいとか言うなら、同い年のアーロンにだって婚約者がいないのはおかしいじゃないか。
自分のことこそ、もっと考えてほしいものだとジュリアーノは思ったりするのだが。
当のアーロンはと言えば…。
「主のお相手が決まらないのに、何故、私が婚約者を持てましょう。
私に婚約者を…と言うのなら、まずは殿下が婚約者をお決めになってからです。」
と、譲らない。
ぺオニール嬢に申し訳ない気持ちが積もろうというものだ。
溜息をつきたいのを堪えて、私室の窓の外に目をやれば、
役人たちが忙しなく行き交うのが見えた。
「ああ、そうだね。
たまにはお茶会もイイかもしれないね。」
「ええ、イイでしょう?
っ、え?! いいんですか?」
「うん。だけど、何人か集めて楽しい時間にしたいな。」
「承知しました!」
「あ、でも、人の選定は別な人間にお願いするから。
アーロンはノータッチで頼むね。」
「………え?」
アーロンの表情が嬉しそうなものから愕然としたものへと変わるが、ジュリアーノは気にしない。
だって、アーロンの為のお茶会だしね。
本人には内緒にしておこうと思う。
折角だから、トラジャンも巻き込んでしまおう!
これからの予定を考えると、自然と笑みが零れる皇子様であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日は晴れだった。
絶好のお茶会日和である。
側妃ルナーリア主催のお茶会には、第3皇女アニェーゼ、第4皇子ジュリアーノの他には、ジュリアーノとほぼ同世代の子息令嬢が招ばれていた。
すなわち、バージル公爵家のアイリス嬢、ルード辺境伯家のトラジャン、パンセリー伯爵家のぺオニール嬢、オレーガノ伯爵家のアーロン…たちである。
何も知らずにこの場に訪れたアーロンは、言葉を失った。
今日は、敬愛する殿下の婚約者選びの為のお茶会ではなかったのか?
ぺオニール嬢は御免だと言っていた気がしたが、気が変わったのだろうか?
それなら、納得できる。
バージル公爵家は第2皇子と既に繋がりがあるので、殿下のお相手としてはあり得ないのである。
しかし、この雰囲気は…違う気がする。
─── 殿下は、一体何を考えてらっしゃるのか?
─── 分からない。どういうことだ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
このお茶会以後。
第3妃ルナーリアの仲立ちで2組のカップルが成立するのは、もう少し後のことである。
「トラジャンとアイリス嬢も、上手くいく勝算はあったんだよねー。」
とは、ジュリアーノの独り言であった。
ジュリアーノは婚約とかあんまり興味ないんだよねー。