011.華の想い
ジュリアーノの手には、1通の封書があった。
異母姉エレノアからである。
何日か前に、侯爵邸への訪問伺いを出していた。その返事と思われた。
ジュリアーノは内容を確かめた後、異母姉シルヴィーナの私室へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
タイムーン侯爵邸では、いつもの変身姿で、エレノアが出迎えてくれた。
「いらっしゃい。ジュリー、シルヴィー。」
「エル異母姉様、お久し振りです。」
ジュリアーノは、思わず知らず笑みを溢した。姉たち絶賛の、キラースマイルである。
侯爵邸の庭で、エレノアはお茶を楽しんでいた。
美味しいお茶とお菓子のお供は、もちろんシルヴィーナの婚約話である。
「ディルズ侯爵令息と婚約したそうじゃない、シルヴィー。
どんな方なの?未来の義弟について、聞かせてちょうだいな。
惚気てくれてもいいのよ?」
「エルったら、意地悪ね。」
「あら、随分と可愛い反応するようになったのね。顔が赤いわよ?」
───この お堅い同母妹の照れた様子など、なかなか見られるものじゃないもの。堪能させていただくわ。私は、チャンスは有効に使う派なのよ。
「わぁ。それは、私も聞いてみたいです!」
───あら、ジュリーも乗っかったわね。よし、よし、この調子で攻めていきましょう。
「ほら、ジュリーもこう言ってるのだし。白状なさいな。」
「もう!………クラレンス様は、とてもお優しい方よ。」
「それじゃ、普通すぎるわ。なんか、もっと、こう…あるでしょう?」
もう勘弁してと言わんばかりに顔を赤くしたシルヴィーナは、新鮮で可愛い。
そうして、暫くお茶の香りを堪能した後、躊躇うように言葉を零した。
「………………優しすぎて、何を考えてらっしゃるのか分からないわ。」
伏し目がちに息を吐く姿が少し悩まし気だ。
「なら、聞いてみたら?
何を考えてるかなんて、本人しか分からないわよ。
聞いてみるのが一番じゃなくて?」
シルヴィーナが嫌われるなんてことは、あるはずがない。
だから、聞いてみれば良いのだと、背中を押してあげたかった。
でも、聞きたくても聞けない気持ちも分かる。
───自分だって出来てないのに、こんなことを言うなんて…私は狡いわね。
「怖がってばかりじゃ、何も解決しないわ。
そうじゃなくて?」
───そうだわ。怖がってばかりではダメなのだわ。
───私も、一歩踏み出してみようかしら。
「ねぇ、シルヴィーナ。貴方は、私の自慢の妹よ。
誰が何と言ったって、自慢の妹だわ。
ディルズ侯爵令息だって 貴方という人を知れば知るほど、
好きにならずにいられないはずだわ。
きっと、もっと、知りたいと思ってくださっているのじゃないかしら?」
「エル異母姉様の言う通りですよ。
私にとってもシルヴィ異母姉様は自慢の姉様です。」
ジュリアーノがまた、エレノアの言葉に乗っかる。
シルヴィーナは少しばかり自信が足りないところがある。
これくらい言ってあげて丁度良い気がする。
「今度、歌劇を観に行くことになっているの。クラレンス様と。
いつもより少し…お話してみようかしら。」
頬を染めながら、シルヴィーナは言った。
───美しく優しい、私の同母妹。貴方はどうか幸せになってね。
そう願いながら、その日のお茶会は終えたのだった。
シルヴィー姉さまにも幸せになってもらいたい。