010.回想 ~第1皇女の婚約事情~
時を戻そう…。
多分、6年と半年くらい前まで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジュリアーノの異母姉である第1皇女エレノアは、18歳の誕生日を数ヵ月後に控えていた。
この国の女性の結婚適齢期は16~18歳とされているので、皇女であるにも関わらず 未だ婚約者が決まっていないのは異常とも言えた。
その原因は、彼女の魔術属性と本来の外見にあった。
エレノアの魔術属性は『風』『水』『闇』。
蔑称として『闇もち』とも呼ばれる『闇』属性を保持していたのだ。
そして、『闇もち』にありがちな黒髪と珍しい紅い瞳をしていた。周りが気味悪がるので 普段は色を変えているが、幼少期は本来の色のままであった為に それは有名な話であった。
エレノアの婚約が決まりそうだと聞いたジュリアーノは、異母姉シルヴィーナを伴いエレノアの私室をと訪ねた。
「エル異母姉様、ご婚約おめでとうございます?」
「ふふっ。ありがとう、ジュリー。
でも、まだ、決まっていないわよ。気が早いわね。」
エレノアは笑顔で末っ子の異母弟を抱き上げた。シルヴィーナはジュリアーノを「リア」と呼ぶが、エレノアは「ジュリー」と呼んだ。
「では、まだ、遊んでいただけるのですね!」
「まぁ、リア。そんなこと、言うものではないわ。同母姉様の慶事を喜んで差し上げなくては。」
「ふふふふっ。本当に真面目ね、シルヴィーは。ジュリーは、無邪気なだけじゃないの。でも、嬉しいわ。喜んでくれる、シルヴィーの気持ちが。」
「そんなこと、当たり前ですわ。それに このお話が纏まれば、婚礼の準備でお忙しくなるではありませんか?リアと遊んでいる暇などなくなるかもしれませんよ。」
「あら、ジュリーを独り占めする気かしら?ダメよ。私だって、可愛いジュリーとの時間を減らしたくないわ。」
「別に、そんなことは言っておりませんわよ。ただ、心配なだけですわ。エル同母姉様は、何でもない顔で無理をしますから。」
シルヴィーナは少し呆れ気味だ。
エレノアとの婚約が持ち上がっているのは、2歳年上のタイムーン侯爵家の嫡男 カーティスだ。彼に恋人がいるという噂は、エレノアも知っていた。親の許しが得られず、婚約に至っていないという。彼の立場を考えれば、エレノアから話を白紙に戻すべきなのかもしれない。しかし、エレノアにも事情があった。もうすぐ、誕生日を迎えてしまう。婚約のタイムリミットであった。某かの事情で結婚が遅れるとしても、婚約だけは済ませておきたいという皇族としての体面がある。自分のプライドというよりは、家の面子として。
「これは何か、策が必要よね。デメリットを補って余りある、メリットを提示しなければいけないわ。」
エレノアは独りきりの部屋で、呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、何度かエレノアとカーティスは話し合い、何とか着地点を見つけた。
結婚の1年後に側妻を娶るという案から、結婚の3年後に側妻を娶ることに条件は変わり、その際には現タイムーン侯爵にエレノアから強く口添えをすることで折り合ったのだ。
しかし、華の命は短い。カーティスの恋人がいつまで待てるのか。いや、待たせてよいのか。エレノアは、膿んだ想いがした。
再び回想シーンでした。