001.第4皇子の縁談事情
初夏の緑が目に眩しい。
皇城の中庭は、今日もきらきらしている。
「殿下、ディルズ侯爵家から返事がきました。」
側近アーロンの声の調子から、内容は直ぐに察せられた。
「ああ、また、ダメだったんだね?」
いつものことながら、苦笑が漏れる。
「殿下は、中身は悪くないんですけどねー。
それを知っていただくまでが 難しいんですよね…。」
「はははっ。ありがとう、アーロン。
まぁ、仕方ないよ、こればっかりは。」
「そもそも、趣味を聞かれて、”園芸です”なんて!
もうちょっと、何かありますよね?!
考えてくださいよ。…はぁ、もう。」
アーロンは、思わず溜め息を漏らした。
「でも、後から分かるより、いいじゃないか。」
振られた当の主は、これである。
「もう、あれですね。
こうなったら、レオナルド殿下を見習ってみるとか?」
「アーロン。あんまり無茶は言わないでよ。
異母兄上の在りようは、異母兄上だから成り立つものだよ。
それに ディルズ侯爵家は 近々、シルヴィーナ異母姉上との婚約が決まるそうじゃないか。
流石に、1代で2人の皇族と縁続きというのは…難しいよ?」
「まだ、確実ではないお話です。」
「アーロン。クラレンス殿は、大らかな方だ。
私は、異母姉上の幸せを願いたいよ。」
ジュリアーノは、主君想いの側近をそっと窘めた。
第2皇女シルヴィーナは、美しく聡明で魔術属性も豊富なことで知られている。
その、あまりのハイスペックぶりに 国内の貴族令息は尻込みする者も多く、また外国の王侯貴族からの縁談は多かったが、国外へ嫁ぐことを皇室が良しとしなかった為、ジュリアーノとは正反対の意味で なかなか婚約者が決まらなかったのだ。
そんな異母姉の婚約を異母弟として祝いたいという ジュリアーノの気持ちを アーロンとて分からなくはないのだが、側近としては 物申したくなってしまうのも仕方のないことだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ハーバル帝国は、大陸の西に位置する大国である。北から西に大河が流れ、海へと続いている。肥沃な大地と大きな貿易港を持ち、国防にも不安の少ない国とされている。
帝国の第4皇子 ジュリアーノ・ハーバルは、生母の若かりし頃を写し取ったような容貌をしていた。緩くウェーブのかかったストロベリーブロンドの髪とヘーゼルの瞳に 優しい面立ちは、まるでどこかのお姫様である。まぁ、生母も小国の…とは言え姫だったのだから、例えとして間違ってはいないのだけれども。
「これが皇子でなくて、皇女なら!」と考えた者は、皇城内に一定数いた。
というか、今もかなりいたりする。
さらに言うなら ジュリアーノは末っ子であり、兄姉に大切にされてきたので、おっとりした印象で 頼りなさそうに見えるのだ。
故に、ジュリアーノだけは婚約が決まらずにいた。
いや、婚約だけではない。
皇族としての立ち位置ですら、あやふやだ。
勉学も 剣術も 皇族として恥ずかしくない程度には、熟した。魔力量もかなり多い方なのだが、魔術属性がなく、魔力を魔術として使えないという 大きな欠点がある。帝国魔導士団でも原因を調査してはいるが、依然として理由は分からないままだ。
見た目の愛らしさからか 姉たちに大層可愛がられはしているけれども、
「さて、婿としてはどうだろう?」ということで 縁談を断られまくっているのだ。
愛でる分には不足はないが、悲しいかな「男子としての魅力」を見出されることはないらしい。
「これは、もう、いよいよ、
地方の神殿で神官でもやるしかないかな。」
そんな風に考えてしまっても、仕方ないのかもしれない。
アーロンは、ジュリアーノの呟きを見逃すことにした。
ふわふわ猫っ毛のストロベリーブロンドな王子様を書いてみたかった…んです。