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不始末

作者: 藤夏燦

 はじめてできた彼氏とは大学の喫煙所で知り合った。彼はいつも灰皿から一番遠い隅で、ハイライトかラッキーストライクをフィルターに火がかすめるくらいまで時間をかけて吸っていた。毎回おなじ色のプルダウンパーカーを着て、たばこ一本で下世話な与太話に花をさかせる連中を死んだような眼で見ていた。晴れの日も雨の日も、必ず3限終わりにここに来て、シケモクを生み出すのがまるで義務かのようにただ無心で副流煙を吐いていた。

 その日も同じように彼は喫煙所にいた。ただ今日は補講日で基本的に講義はない。したがって普段ここにたむろしている大嫌いな連中もいなかった。喫煙所に入ると彼だけが当たり前のようにそこにいて、しとしとと降り続く雨の雫を眺めていた。じめじめした6月特有の湿気の中で、まるで人類が滅びた後のような清らかな絶望が、のっぺりとここにははびこっていた。

「……すみません、火もらえますか?」

 そんな中でそう尋ねると、彼は快く承諾した。口先に吸いかけのハイライトを咥えて、ポケットからライターを取り出す。

「ども」

「うす」

 呼吸のような存在感のないやり取りが、キャンパス内で最も白けた場所に流れる。

「……いつもいますよね?」

 今度は彼の方からこう言った。なるべく口を動かさないようにして、喉から出したであろう声は掠れていた。

「ええ、そちらも」

「アメスピっすか?」

 彼は黒目を微かに動かして手元を見た。興味があるのは煙草の銘柄だけではないように思えた。

「そうです」

「何回生ですか?」

「3年です」

「一緒っすね。文学部っすか?」

「うん、哲学科です」

「哲学っすか、俺は日本語表現です」

 彼の重い瞳とは裏腹に、口は途端に饒舌になった。しかし口元は省エネで、相変わらず声は掠れている。この時、お互いが似た者同士であることを煙の中で察した。彼は腰を曲げてシケモクを灰皿に落とすと、ハイライトの箱から二本目を取りだして口にくわえる。

「近代文学史、いつもいない人?」

 彼が火をつけて間もなく、こう尋ねてみた。いつもは4限目にある近代文学史でいつも欠席扱いの学生がいる。先生の、またアイツか、とあきれている姿になんとなく彼の姿が重なった。文学部の必修科目なので、哲学科も日本語表現学科も受けなくてはならない。

「うん、なんでわかったの?」

 彼は予想通り驚いた。それで煙草をふかしてしまい、玉手箱のように白い煙が舞い上がった。

「なんとなく。でも名前は有名人だから。汐留くんだっけ?」

「そうか。うん、汐留恭人しおどめきょうと。君は?」

秤屋琴はかりやこと

 この時、嘘の名前を言った。恭人はそれを怪しいとは思わなかった。


 恭人は出不精で、授業とバイト以外はほとんど家にいるような子だった。煙草とコーヒーと少量の胡桃で体ができていた。欲望に忠実で、寝たいときは寝て、食べたいときは食べる。コンビニでよく納豆巻きを買ってきては、それを肴にストロングゼロを飲んでいた。その一見対極に見える組み合わせに、

「なに、健康に気を使ってるの?」

と尋ねると

「んなわけ、好きだから食ってんだよ」

と少し面倒そうに言われた。なるほど、好きなものを好きなだけ楽しむか。恭人の生き方は極力省エネだが、合理的なようにも思えた。彼は週5日、居酒屋でアルバイトして、そのままワンルームのアパートに帰ってはスマホを覗きながら寝落ちしていた。そんな姿からは学生特有の浮かれた感じも、将来への夢や希望といったキラキラしたものは何も伺えなかった。でも、彼はそれで満足気だった。恭人は今の快楽にすべてを捧げていたのだ。

 付き合い出したのはそれからしばらくしてからで、お互いに友達もほとんどいなかったので、周りからちやほやされることもなかった。ただ二人で授業を受けて、煙草を吸って、時間があれば飯でも食べて、それだけだった。それでも少しずつ省エネだった恭人の時間を、二人の時間にすることができはじめていた。やがて西日が強くなったころ、恭人は自分から「秤屋琴はかりやこと」を求めるようになっていった。

 もし「琴」が恭人のすべてになったとしたら、それを滅茶苦茶に壊すことが恭人への最大の復讐になると思った。僕は、恭人の前で、全てをさらけ出す準備を整えていた。


 僕のはじめての彼氏、汐留恭人とは、あの喫煙所で初めて会ったわけではない。僕と彼は、すでに小学校時代に会っていた。恭人と僕は2年間、クラスメイトとして同じ黒板に向っていのだ。僕はその頃、内気な性格でクラスのみんなからよくからかわれていた。勉強も運動もできない、体が小さい根暗な少年だった。

 そんな僕へのクラスの反応がからかいからいじめに変わったのは小4の時、恭人が僕の前に現れてからだ。小学時代の彼は、今とは違った横暴な性格で知られていて、ゲームソフトを借りパクしたり、宿題を人にやらせたり、やんちゃな子たちを舎弟のように従えて子分のように使っていた。今から思えばかわいいものだが、小学生の僕にとってそれは恐怖の対象だった。さらに恭人は自分に気に食わないことがあると、子分たちを呼び出して八つ当たりで暴力を加えた。長い手足と一回り大きな彼の体格に、小さな体の生徒たちはただ怯えるしかなかった。

 恭人が僕を見つけた時の目を、僕は忘れることができない。この世の悪をすべて吸い込んだような瞳で、白目は細長く伸びていた。誰よりも大人しく弱気な僕のことを格好のターゲットだと思ったのだろう。小さくほくそ笑んで、はじめは「いじり」から始まった。

「おっせーな。はやくしろよ」

 恭人が僕の頭に拳をぐりぐりと押し付けながら言った。給食をなかなか食べ終えない僕を、恭人と取り巻きの何人かが囲んでいた。

「ご、ごめん」

 もともと遅食いの僕は、今日は苦手なインゲン豆が出ていたこともあって、昼休みまで給食を食べきれずにいた。他の生徒はもう食べ終えており、先生も教室にはいない。給食当番だった恭人は、僕が食べ終えるまで昼休み入れずにいた。

「ちっ」

 恭人と取り巻きたちはいかにも迷惑そうに僕を睨んだ。僕は胃がキュッと痛くなる。給食を早く食べ終えないお前が悪い、その無言の圧力が僕を押しつぶそうとしている。ここで「あとで給食室に持っていくから、先に片付けてくれていいよ」と言えれば楽だっただろうが、当時の大人しい僕にはその言葉を思いつく余裕はなかった。

 この出来事をきっかけにして恭人は僕をいじめるようになった。給食の件で迷惑をかけてしまったという思いがあって、僕は恭人に逆らうことはできなくなっていた。そうやって恭人は僕の弱みに付け込んで、徹底的に僕の学校生活を壊していった。お気に入りの消しゴムは帰ってこなかったし、教科書には落書きをされた。そして日常的になった暴力は、身体の見えない箇所から次第に首や顔面にまで及ぶようになった。その頃、親も先生もあまり僕には関心がなかったらしく、こちらから声を上げなければ助けてもらえることはなかった。そもそも僕は恭人からの報復を恐れて、いじめの事実を誰にも打ち明けることができなかった。恭人は僕にとって学校の全てであり、学校生活は開けないトンネルのような暗闇だった。


 やがてその暗闇が僕の全てになる。実際に暗闇の中にいると目がその明るさに慣れることがあるが、不思議なことに恭人の暴力がひどくなるにつれて、彼に対する恐怖心は麻痺していった。だから僕は恭人に暴力を振るわれる時、腕や足で抵抗することをやめた。彼はそれを面白がって、丸まった僕の背中をよく蹴り飛ばした。

「おい、ダンゴムシ! いつまで丸まってんだ!」

 恭人は地面に倒れて丸くなった僕を「ダンゴムシ」と呼んだ。背中はお腹と違い内蔵へのダメージが少なく、痣も外からは見つけにくかったので恭人にとって最も蹴りやすい部位だったのだろう。僕は恭人の気が収まるか飽きるまで、背中を丸めて耐え続けた。手を差し伸べる同級生はおらず、恭人たちがいなくなったあと、死にかけの老人のようにとぼとぼと家に帰ることも多かった。

一体、僕の存在は何なのだろう。恭人にいじめのターゲットにされてから僕は学校の中で完全に孤立した。絶対的ないじめっ子である恭人を諫めるような勇気のある生徒なんていなかったし、無口で大人しい僕をわざわざ助けようとする生徒もいなかった。僕という存在は恭人によって暴力を振るわれ、パシリにされている時のみ、みんなの前に現れるような気さえした。そんなことをぼんやり考えながら迎えた5年生の3月、突然この関係にピリオドが打たれることになる。

 転校、それも県外に。その言葉を母から聞いた時、やっと恭人から解放されるのだと僕はまず深く安堵した。両親は、あと一年で小学校卒業というこのタイミングで転校しなければならない僕のことを案じて申し訳そうにしていたが、僕はこの学校に思い入れなんてなかったし、生徒も先生もただ背景の一部と化す黒子のような存在だったのでその心配は無用だった。むしろ新しい学校でうまくやっていけるのだろうか。そっちの方が不安だった。

 僕が転校する直前まで、このことは担任の先生以外には知られることはなかった。クラスの誰も僕になんか興味を持っていなかったし、恭人だけが変わらずに僕を痛め続けた。帰りのホームルームで今日が最後の登校だと告げられると、恭人は僕の方を振り返り、目を丸くして口を開いた。まるで水を離れた魚のように困惑し、困窮し、悲しみに似た感情に端を発した怒りを細長い白目にむけて充血させ、僕を睨んだ。その時の顔はこれまで見たどの恭人の顔よりも恐ろしく、しかしどこか弱弱しくもあった。

 僕が当たり障りのない転校の挨拶をして、いつも通りホームルームは終わった。クラスの子たちははじめこそ驚いたものの、最後の言葉をかけてくれる者は誰もいなかった。僕はもう来ることはない教室から自分の教科書や荷物をまとめ、白けた面持ちで教室を出て行こうとした。不意に恭人が僕の行く手を阻む。

「……」

 彼は先ほどと同じ眼つきで僕を睨んでいた。最後にどでかい仕返しがくる。それを覚悟すると僕は少し足がすくんだ。

(来るなら来い! 今日で最後なんだ、好きなだけ殴れ!)

 腹をくくった僕が目を瞑ると、恭人は拳を固く握りしめた。しかし、それで終わった。僕が目を開けた時、恭人はもう目の前から居なくなっていた。


 僕はその拍子抜けのような安心のようなアンビバレントな感情を持ったまま、新しい学校に編入した。そこは郊外の住宅地にある大規模な学校で、教室の作りからチャイムの音色まで前の学校とは何もかもが違った。ここなら僕は変わることができるかもしれない。木目調の新しい校舎の廊下が僕にそんな期待を抱かせた。

 しかし結論からいうと、この学校が僕を変えてくれることはなかった。後から気づいた話だが、この学校は生徒数も多く、転校転入が盛んで友人関係も希薄だった。前の学校以上に白けたホームルームで自己紹介を終えたあと、僕は自分の席に座って震えていた。このクラスでどのくらいの人間が、僕を僕として認知してくれるのだろう。転校生であることはもはやなんのタギングにもならない。恭人を失った今、僕が僕であるためには何が必要なのだろう。深く考えこんで頭を抱え、無色透明である僕の写像になんとか色を付けようと必死になって体をめぐる。しかしそこからは何も搾りとることができず、かろうじて出た色は卑近でつまらない産物だった。

 僕をここまで至らしめたのは、間違いなく恭人の所為だった。恭人さえいなければ僕は僕である色をここまで腑抜けにされることなんてなかった。中学、高校と認知からあぶれたままの存在で終わり、国立大学の受験にも失敗して、僕は地方の中堅私立大学に滑り止めでなんとか入った。たった2年間のいじめに僕の人生はめちゃくちゃに破壊されたのだ。そんな時だった。ふと学部共通の授業の名簿の中に「汐留恭人」の名前を見つけたのは。


 恭人に復讐をする。彼のすべてを奪って、自分と同じように色が抜け落ちるまで徹底的に破壊する。それが僕の頭に浮かんだ唯一のプランだった。その頃の僕は女の子に全く興味がないのもあって、かなり中性的な見た目になっていた。恭人の彼女になって彼の全てを自分だけに染め上げ、一気に抜きとってしまえば、彼は僕と同じような喪失を経験するに違いない。

そうして復讐に目覚めた僕は、人生で一番エネルギッシュになっていた。YouTubeで化粧のやり方を調べ、大学にはウィッグをつけて女物のアウターを着ていった。どうせ誰も見ていないんだ、気にすることなんてない。それに自分でもなんだが、結構サマになっているような気がした。実際、ディスカッションを有する講義では当たり前のように女子だと思われていた。やがて恭人の後をつけて大学でのルーティンを調べると、彼は3限目の終わりに必ず喫煙所に行くことがわかった。そこで僕は同じ時間に女装して喫煙所に向かい、二人きりになって声をかけられるタイミングを待った。かつてのような威圧感を失い、中央でたむろしているガラの悪い連中を避けるようにして隅に陣取りっている彼の姿に、僕は驚いて口の中が苦くなった。それはもちろん、慣れない煙草の所為だけではなかった。


 早くこいつに自分の正体をバラしたい。そうしたら恭人はどんな顔をするだろう。絶望にひれ伏して泣き崩れるのか。あるいは男と性交しかけた羞恥で慌てて逃げ出すのか。それとも怒りに身を任せて僕を殴り続け、あの日の続きをはじめるのだろうか。どんな未来になるのか、予測は全くできなかったが、僕は一刻も早くこのパンドラの箱を開けたくて仕方がなかった。

 まだ暑さの残る9月の深夜、僕は恭人の部屋で彼を待っていた。いつものように合鍵で部屋に入り、冷蔵庫から氷結とストロングゼロを拝借してベッドの上でテレビをぼんやりと眺めた。恭人は今日も居酒屋のバイトだ。あいつが帰ってくるまでまだ一時間ちょっとある。

 いつもならこのまま寝てしまうのだが、今日はなぜか目が冴えていた。恭人に真実を明かす決心がついたからかもしれない。今日は下着まで女物でそろえてきた。自分の恋人がまさか男で、しかも小学時代にいじめていた生徒だなんて、恭人は夢にも思わないだろう。僕は今まで感じたことのない期待と興奮で、体中すべての血液が熱くなって全身をめぐっているような気がした。

 そこでふと、テレビの横に置かれた本棚が目についた。10冊ちょっとの少ない書籍に混じって中学校の卒業アルバムが置かれている。僕の人生を散々壊しておいて、恭人は中学生活を謳歌していたに違いない。怒りと興味、そして少量のアルコールに僕は後押しされ、気づいた時には卒業アルバムを手にとっていた。血眼になってページをめくり、汐留恭人の名前を探す。

 アルバムの中には黒子だった同級生たちの名前もあった。でもそれらはすべて僕にとって、ただの文字の羅列でしかない。汐留恭人の四文字だけが意味を持つ、僕の全てだった。

「あった、あったぞ」

 思わず声がでた。僕は3組のページに恭人の姿を見つけた。小学校のころと違って威圧感がなく、身長も周りの男子に追いつかれたせいか、今のイメージと大して変わらない。どちらかと言えば地味で大人しい生徒、写真からはそんな印象を受ける。それどころか、なぜかあの悪を吸い込んだ瞳に生気を全く感じない。その理由を僕はアルバムの最後のページで図らずも知ることになる。

「……なんだよ、これ」

 卒業アルバムの最後にある、友達や先生からのメッセージを書くための空白のページ。恭人のそれには、黒く太いマジックで大量の罵詈雑言が書き刻まれていた。ウザイ、死ね、消えろ……。ここには到底書けない下劣な言葉まである。筆跡を見るに複数の人物が別々に書いたように思えた。小学時代にあれだけ僕をいじめていた恭人は、中学生になって逆にみんなからいじめられていたのだ。

「……琴?」

 その時だ。蛍光灯が一度フラッシュのように消えた。低く掠れた声が続ける。

「何してるんだ?」

 帰ってきた恭人が僕を見ていた。瞳の奥はかき乱されたかのように黒く淀み、それに対して眼光はただ一点を見ている。僕の手元にあるいじめの忌まわしい証、その一点を。その時、僕の中にあった煮えたぎった血液が恭人との関係を終わらせる一言を喋らせる。

「あんた、いじめらてたんだ。ださ」

 その瞬間、何かが切れたように恭人は僕をベッドに押し倒し、馬乗りになった。いよいよだ。恭人はまるで獣のように僕の衣服を脱がし、その乱暴な所作のせいで彼の腕や手のひらが僕の胸や腹に触れる。青白い蛍光灯の光が蜃気楼みたいに左右に揺れて広がっていく。そうして恭人は僕の下半身に手を伸ばし、そしてやはり気づいたように動きを止めた。

「琴、お前?」

 その時の困惑したような悲しみのような恭人の顔が面白くて、僕は思わず笑みを浮かべた。

「ふっ、ふふふっ。ほんと、馬鹿なやつ」

「嘘だろ。おい。じゃあお前はなんで俺と」

「お前のことなんか初めから大嫌いだった。どう? 少しは感じた? すべてを壊される、僕の気持ち」

 お互いの汗が化粧を徐々に崩し、起き上がった時に僕のウィッグがゆっくりとベッドに落ちる。その「素顔」に恭人ははじめて僕という存在を認識したようだった。

「……ダンゴムシ」

 恐怖にひきつったように顔をしかめ、これまでの出来事をすべて反省したような顔になった恭人に、僕の心は一瞬浄化させたように澄みわたった。そして恭人は僕の体から手を放し、

「出てってくれ」

と小さく言い放った。

復讐は終わった。もうここにくることもない。そう思った僕の胸に飛び込んできたのは、どこにもやり場のない虚しさと冷たさだった。まるで潮がひくように体中の熱はさめていき、途端に女装までしている自分の姿が恥ずかしくなった。

「悪かった。本当に」

 恭人は口から煙草の匂いをさせながらそう言った。僕はおもむろにベッドから起き上がると、なぜだかわからないが、保険でもかけるように彼にこう言った。

「もう会うつもりはないけど、もし会いたくなったら、またここに来るね」

 恭人はしばらく返事をしなかった。「駄目だ」とも、「合鍵を返せ」とも言わなかった。ただ僕が玄関で靴を履いている時に、

「ああ」

と小さく、安堵したように言った。その言葉を聞いて、僕はまた近いうちにこの家に、恭人のもとに来るだろうと確信をした。



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