092 硬すぎる
「これぐらいでどうかな?」
「いいんじゃない?」
亮平は今、『射的の的づくり』という地味な作業を遂行している。なぜまた的を作っているかと言えば、『前回作ったものは雑過ぎて何回も使えない』という理由で、昨日作った的がボツになったからだ。別にあれでも亮平としては良かったのだが。
『当たってどっかに吹っ飛ぶようなヤワなものじゃなくて、一発だと倒れないかもしてないやつ』と横岳から条件を付けられているので、適当に作るとやり直しさせられる。
そして未帆が、三角形状に厚紙を折ったものを見せてきた。厚紙が立っているので見えないが、横岳も何か制作しているようだ。しきりに下を向いているのが気になるが。
(スタンダードだから、そんなもんで大丈夫だろう)
などと考える亮平。実際、射的屋で置かれているような的に見える。
「まー、ひとまず撃ってみるか」
今日は実物の銃がある。実物の銃といっても、コルクの弾を詰めて発射するタイプのものだが。
未帆からその的を受け取って、それを壁のすぐ前に置く。外しても大丈夫なようにするための措置だ。
(結構、中補強してたな・・・・・・)
的を受け取ってから奥までの間にちらりと側面を見たが、別の厚紙が張り付けられていた。『外部の力には三角形が強い』ということを地で行くような補強の仕方だった。
コルクを銃身に詰め、狙いを的に定める。あまり離れる必要もないので、とりあえず一メートル間隔を開けた。
引き金を引いた。『パン』という大きい音がしたかと思えば、すぐに『パーン』という甲高い音が部屋内に響き渡った。
(二回目の音は何なんだ?)
亮平が疑問に思うのも当然。明らかに、コルクが壁に当たったり、的に命中した音ではないからだ。何か、金属に当たったかのような・・・・・・。
そして、その謎はすぐに明かされる。なんと、間違いなくコルクの弾が当たっていたはずの的が微動だにしておらず、逆にコルクの弾が違う場所に跳ね返されていた。
「あれ、ちょっと強く補強しすぎちゃった?」
「いやいや、とても補強しただけだとあんな甲高い音は出ない・・・・・・。あれ、もしかして未帆、厚紙以外にも何か補強に使った?」
「使った、使った。ちっちゃい鉄の板ぐらいなら、弾が当たっても二発ぐらいじゃないと弾き飛ばせないかな、って」
「そりゃ、今みたいな結果になるよ・・・・・・」
鉄と厚紙では、硬さが段違いだ。サイズが大きくないとはいえ、反則ものだろう。
そもそも落とせない可能性もある。そうなると、最早ただの詐欺行為と変わらない。
「あと、射的で厚紙の的に弾が跳ね返されるとか、無いから!」
「流石に跳ね返すほど耐久性があったのは予想外だったの!」
コルクの弾で鉄の板を弾き飛ばせるかと聞かれれば、微妙なところだろう。
気を取り直して、今度は厚紙を半分に折っただけのものをセッティングする。そして、コルクをもう一度銃身に詰める。
『パン!』
今回こそうまくいった。厚紙が弾き飛ばされ、コルクの弾が壁に当たって跳ね返る。
「あれこれ考えるより、単純にした方がいいってことだな。的、もうこれでいいよな」
「そうだねー。補強するもの馬鹿らしいし」
『さっき補強で鉄の板を厚紙の後ろに張り付けたのはどこのどいつだ』、と聞きたくなる。
「ところで、横岳は・・・・・・」
「横岳君は・・・・・・」
ひとまず的についてまとまったところで、話題を横岳のことに変える。
「さっきから何一人でゲームやってるんだ、お前は!」
「・・・・・・ゲーム音がダダ漏れなんだけど。隠せてないよ?」
「はいい!?」
横岳を隠すように立てられている厚紙を一気に取り除く。携帯型のゲーム機が現れた。
「・・・・・・音量かなり小さくしてたはずなんだけどな・・・・・・」
「仕草で分かるだろ、そんな頻繁に正面向いて下向いて・・・・・・」
「昨日言ったこと、分かってなかった?」
約一名、目的がずれている気がするが、まあいい。
(そもそも、横岳自身が射的やるって、言い出したんだろうがよ・・・・・・。その言い出しっぺがサボってどうするんだよ)
これ以上責めても仕方ない気がする。横岳が反省しているかどうかはいざ知らず、今日の作業は実質終わったようなものだからだ。厚紙を適当な長さに切っては折るだけの繰り返しになる。
だが、勝ち逃げされたくはない。亮平は、未帆に目配せをした。未帆がうなずく。
「・・・・・・厚紙切ったり折ったりするのは全部俺がするから、横岳と未帆は別に好きなことやっといてもいいぞー」
「いやいや、亮平がやらなくても、私がするから。亮平と横岳君は自由にしといて良いよ」
(ここは乗って来いよ!)
例の流れは作った。あとは、横岳が乗るだけだ。反省する気持ちがあるのなら、向こうの方から引っかかってくるはず。
「あ、そうなの? それじゃ、お二人さん、頑張ってねー!」
ニヤニヤ顔の横岳を見て、かなりイラついた。
「横岳、お前がやれ」
「横岳君・・・・・・」
「・・・・・・分かったから、もういい。潰されるから、これ以上圧かけるのはやめてくれ
亮平と未帆、どちらの圧力に屈したのかは分からないが、横岳は渋々、といった感じでハサミを動かし始めた。
「さーてと、横岳。テレビ借りてゲームやってもいいか? お前が前言ってたテレビゲームやりたいんだけども」
「どうぞ」
「未帆も一緒にやる? それとも、漫画でも読んどくか? 漫画なら、横岳が籠城用に持ち込んだのが隣の部屋に・・・・・・」
「オフ、コース! もちろん」
黙々と作業をしている横岳を後目に、亮平はテレビの電源を入れた。
―――
「三時かぁー」
未帆が、ため息をついた。
横岳も作業を完遂し、隣の部屋で一人漫画を読んでいる。
亮平と未帆がやったゲームは対戦型ゲームで、亮平がミスを連発したこともあり、通算成績で未帆が圧勝していた。
「あ」
未帆が何かを思い出したかのように、手のひらをグーでたたいた。
「私、四時ぐらいから用事が入ってるの、今思い出した」
今は三時。あと一時間ほどあるから、まだ急がなくていいのでは。
「行くのにかなり時間がかかるから、今すぐにでも帰らないと!」
未帆さん、そんなに時間がかかる用事があるのなら、先に行ってくれませんか。あ、忘れてたんだっけ。
「私が帰っても大丈夫?」
「今日はもうすること終わってるから、大丈夫。また明日ね」
「ありがとう。亮平、それじゃ」
それだけ言い残すと、未帆は一目散に玄関へと走っていった。
(さて、それじゃ俺も漫画を読みますか)
対戦相手がいなくなった以上、漫画を読むまでだ。
亮平はそれから帰宅時間までの間、漫画を堪能したのであった。
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