#001 厄日は厄日
結局遅れてしまいすみません。
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八章は短編・一話完結集となります。(物語内の六月後半~夏休みの初めごろまでが対象)
本編は九章になるのでそこはご了承ください。
若干八章を多めで更新させてもらいます。
「ったく。こういう時にしっかりと降りやがって」
登校時間とはいえまだ眠気が抜けきらない中、亮平は悪態をついていた。
修学旅行が終わって早二週間。すでに日本列島には梅雨前線がしっかりとかかっている。日本の梅雨はしとしとと長く降るタイプらしいが、今日はそんな日本の梅雨というものを無視するかのように、かなり強い雨が降り続けている。
ついでに言うと、外に出ない日に限って何か手違いがあったかのような雲一つない快晴の天気なのだが、外に出る用事があったり平日だったりすると、何事もなかったかのように雨が降っているのだ。悪態をつかない方がどうかしているというものだ。
今日は、亮平にしては珍しく早く起きたので、いつもより家を出る時間が三分ほど早くなっている。そのせいもあってか、普段登校中に見かける面々が今日は一人も見当たらない。
道路には、大きな水たまりができている。いつもと一つ違うところがあるとすれば、鏡のように光を反射することなく表面が揺れ続けていることだろう。
「ここでトラックでも走ってきたら水が跳ねる、って!」
言った傍から、目の前に二つの光の丸が出現した。フラグを立ててしまったのは少し悪いとは思うが、なぜこういう時に限って嘘が実現してしまうのだろうか。典型的なマンガでもなかろうに。
だが、ズボンを濡らされるのはまっぴらごめんだ。着替えなど持ってきているわけがないし、体育も今日はなかったはずなので体操着も持ってきていない。
『バッシャーン』
トラックは案の定、盛大な音を立てて水たまりの水を四方八方に跳ね飛ばした。
(それは予想通りなんだよなぁ)
トラックが跳ね飛ばした水たちは、頭の上から水たまりの方角に差し出されていた傘にぶつかり、その場に落下する。何も、ただボーっと傍観していたわけではない。防げるときはきちんと防ぐ方がいい。
だが、人というものは中々二つの物事を同時に考えるのが下手な生き物である。それは、亮平とて例外ではない。雨が降っている中で傘を横に移動させれば、どうなるかは火を見るよりも明らかである。
「!!!」
亮平は、冷感が脳に伝わった瞬間に瞬時に傘をもとの位置に戻したが、なにせ雨の降り方が激しい。制服の上の方が濡れてしまった。ずぶ濡れ、というほどひどくはないが、少し冷たいのが皮膚を通じて感じられる。そこは六月でよかったとは思う。そもそも六月だから雨が降っているとも思うのだが。
風も少しづつ強くなってきている。このままでは、いずれ体全体が濡れるのは時間の問題になるだろう。亮平は、雨水ですでに少し冠水している歩道を急いで早歩きで進んでいった。
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学校の校舎が見えた。が、門は閉まっていた。
(なんでだ?)
少し道を戻り、公園の時計を確認してみるが、別に遅刻しているわけでもない。時計が狂っていなければの話だから、遅刻の可能性は一応ある。亮平が学校に来る間に誰とも出会わなかったのもその可能性を示唆する一因となっている。
「あ、やっぱり」
(な!?)
背後からいきなり声が飛んできた。亮平が肩をビクッと震わせて声のした方を向くと、未帆が遠くから駆け足でこちらに向かってきていた。
ただし、格好は東成中の制服ではない。普通の私服を着ていた。もしかしたら日曜日と間違えて外に出てきたのかもしれない。だが、それなら『やっぱり』という声が出るのはおかしいし、この雨の中で外に出るとも思えない。未帆は手ぶらなのだから。
「今日って月曜だよね?なんで私服・・・・・・」
その亮平の疑問は、次の未帆の一言で解消された。
「メールで『今日は警報が出ているので学校は臨時休校します』って来てたの。それで、亮平のお母さんから、『伝えるの忘れてたから、代わりに伝えといてくれない?』的な事を言われて、学校に来てみたら案の定亮平がいて・・・・・・」
(なーるほど。警報が出ていたわけか。そりゃ、誰も外を歩いてないわけだ)
それにしても、何故に未帆に行かせたのだろうか。亮平の自分からは行動しない性格は、やっぱり親から伝わっているものなのだろうか。メールが来ていたのに伝えるのを忘れている時点で大概だと思うのだが。
「どうせ帰ってもすることないし、一緒に帰る?」
「制服が濡れてて寒いから、今日は急いで帰るよ。ゴメン」
制服が濡れているのもそうだが、今も現在進行形で雨に当たり続けている事もある。台風並みの風、とまではいかないものの、結構風が強くなってきているからだ。
「それに、今日は何か厄日な気がするから・・・・・・」
『ブウウウウウウン』
後ろから嫌な予感のする音が聞こえた。咄嗟に振りむく事には成功したが、それまでだった。トラックのタイヤが水たまりへと突っ込んでいくのを目の前でとらえた。
『バッシャーン!』
トラックが跳ねた水たまりの水は、容赦なく亮平の前面に降りかかった。水が、いたるところから体の表面へと侵入してくる。心臓が止まりそうなほど冷たい。泥水ではないだけまだマシだろう。
「ちょ、亮平!?大丈夫?」
大丈夫なわけがないのは見ても分かっているのだろうが、形式的には言わざるをえないのだろう。制服はものの見事に水にぬれており、吸水しきってしまっている。砂漠に放り込んですら乾くのにはしばらくかかりそうだ。
「ということで、俺もう帰るわ」
「う、うん・・・・・・。風邪、引かないようにね・・・・・・」
苦笑いを浮かべる未帆を後ろに、亮平はそそくさとさっきまでたどってきていた道を引き返した。
(今日は厄日だなぁ)
亮平もまた、顔を引きつらせて笑っていた。厄日とはこういう日の事を言うのだろう。一回は回避したはずの事に遭遇するのは、マンガでも中々稀な例なのではないか、と思ってしまう。
この後、風邪をひくことが無かったのは不幸中の幸いであろう。




