082 好転ー②
「ふぅー。良かった」
部屋の中を見回したのと、思わず安堵の声が漏れたのはほぼ同時だった。
部屋の端に、麻生。中央付近に、数人の男達。手前側に、未帆たちと見知らぬ女子一人の合計四人。全員、静かに寝て(気絶しているかもしれないが)いた。男達以外は、亮平や横岳がそうであったように、手首と足首が縛られていた。
(俺達以外にも誘拐された人がいたのかよ!)
たった今判明した驚愕の事実に、亮平は驚きを隠せない。どうやら、亮平達が誘拐された前後に、一人誘拐していたらしい。もはや怒りを通り越して呆れてくる。
ひとまず、全員の手首と足首を縛っている布をほどくことにした。ほどき方は一応覚えたので、手つきは多少ぎこちなくなったが、きちんとほどくことはできた。横岳はというと、慣れた手つきでほどいている。
全員ほどき終わったところで、ようやく全員の目を覚ませることにした。
布をほどいてから起こすようにした理由は、きちんとある。パニックを起こされないようにするためだ。仮に先に起こした場合、縛られている手首と足首を見て、目いっぱい抵抗されるかもしれない。そうなれば、物音で男達が起きてしまう。
念のために、口もふさいでおく。亮平や横岳が男達と誤認されて叫ばれるのを防ぐためだ。
「!?・・・・・・」
目が覚めた時に口が塞がれているのに気づいてもごもごしていたが、正体が亮平達と分かるともごもごは収まった。
「静かに。男達が起きちゃう」
小声で注意を付け足す。落ち着いたのを確認して、口を解放する。
「・・・・・・誰?」
亮平が声がした方を向くと、少なくとも東成中の生徒や知り合いではない女子がこちらを見ていた。
不審がる反応は、別におかしくないだろう。いきなり誘拐されて(確定ではないが)、目が覚めたら赤の他人が複数人近くに立っている。いくら大人ではないとはいえ、用心深くもなるだろう。深夜でかなり暗いのも原因の一つだろうか。
「君こそ、誰?少なくとも、自分の中学校ではなさそうだけど・・・・・・」
しばらく沈黙がその場を支配してから、ようやく答えが返ってきた。
「・・・・・・市立北江中学校三年、影島咲。修学旅行で沖縄に来たの。集団から少し遅れたところで、いきなり意識がなくなって・・・・・・」
(北江中?)
この女子、影島さんは亮平達と同じ、修学旅行で沖縄に来て、そして同じように誘拐されたわけだ。中学校名になにか引っかかるところはあるが、何が引っかかるのかはわからない。
「痛ってぇ、頭が・・・・・・。霧嶋、この人誰だ?」
後ろから麻生が手で頭を押さえながらこちらにやってきた。横岳の言っていた通り、麻生もほぼ同時に気絶させられたようだ。
「俺達は、東成中の三年。同じように、修学旅行で沖縄に来て、今こういった状態になってる。差支え無ければ今から早急に逃げ出したいけど、どう?」
「逃げるったって、手首と足首が縛られて・・・・・・ない」
気が動転していて、手首と足首が解放されていることに気づかなかったらしい。
「んん・・・・・・。たしか、あの時・・・・・・」
全員が覚醒したところで、亮平はこれからの計画を説明することにした。とは言えど、ここから逃げて逃げて逃げて安全な地帯まで逃げるだけなのだが。
「みんな、ここから逃げるぞ!」
かすかなはずだった希望の光はすでに太陽のようにまぶしいようなものになっていた。亮平は、夜であたりが暗いにも関わらず、明るくなったように感じた。
(あとは、逃げるだけだ)




