078 異変
友佳視点です。
公園に集合する時間をすでに15分過ぎた。まだ、亮平と未帆達の班は公園に姿を現していない。
「流石に、おかしくないか?」
そんな声が周りからちらほら聞こえてくる。音信不通の状態のままでは、そういった意見が出るのも当然だろう。
実際、友佳も、おかしいとは思っている。もし遅れているのだとしても、15分も遅れるような心当たりは友佳にはないからだ。道に迷ったとしても、遅すぎる。
教師たちは、さっきから慌ただしく動いている。顔からは、かなり焦っていることが見て取れる。
――――――つまり、亮平と未帆達がどこにいるかは、誰にも分っていないということだ――――――
ひたすら待つことに耐えきれなくなったのか、一人の男子が、教師にいちゃもんをつける。
「いつになったら来るんですか、最後の一班?」
その質問された教師は、顔を少し曇らせた。
「それがなぁ、どこにいるか分からないんだよ。今、いろいろな施設に電話をしてるんだけどな・・・・・・」
「じゃあ、どっかほっつき歩いているんじゃないいんですか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
一通り言い終わったらしいその教師は、また忙しそうに駆け足で公園を出て行った。
友佳は、ふと出発前に言われたことを思い出す。
『・・・・・・最近、ここら辺で誘拐事件があったらしいから、極力人気のない道は通らないようにな、念のため』
一瞬、誘拐の可能性を考えて、すぐに候補から抹消する。
(まさか、ね・・・・・・)
可能性はゼロとは言い切れない。しかし、その可能性を追求するよりは、遥かに遅れている可能性の方が高い。天と地ほどの差がある。
しかし、一度考えてしまったものは、簡単には頭からは離れない。靴に付いたガムのように、思考にへばりつく。
加えて、一向に来る気配のない亮平達、ずっと慌ただしく動いている教師達、伝えられる情報。少しずつ、でも確実に犯罪に巻き込まれたという可能性は上がっていく。
そして、10分ほど経ったころ。
「えー、霧嶋の班がまだ帰ってきていない。施設の方々や地域の方に聞き込みもしたが、霧嶋達を見たという目撃情報は一つも得られなかった。君らには、いったんホテルに戻ってもらう」
この情報は、『犯罪に巻き込まれた』という可能性を急激に上げるには、十分すぎるほどのものだった。たちまち、周りがざわめき始める。
「どこにもいないって・・・・・・」
「反対方向に行っちゃった、とか・・・・・・」
そして、パンドラの箱を開ける質問が飛んだ。
「先生、もしかして誘拐、とかですか?」
質問した本人にとっては、本気3%、冗談97%ぐらいだっただろう。
「・・・・・・その可能性も十分ある」
しかし、返って来た答えは、あまりに重く、そしてあまりに苦しいものだった。
ざわめいていたのが嘘かのように、沈黙が流れる。
(・・・・・・っ)
友佳には、ただ亮平や未帆達が犯罪に巻きまれていないこと、そして無事な事を祈ることしかできなかった。




