076 暗闇の中で③
かなり間が空いてしまいました。
「霧嶋、ちょっとこっち来い」
「なんだよ」
横岳が亮平を、周りにギリギリ聞こえない程度の声で呼んだ。
「ちょっと耳貸せ・・・・・・換気扇、回ってなかったんだろ?」
「いや、回ってた」
「まあ、どっちでもいいけどよ」
どっちでもいいとは、どういうことなのだろう。
それにしても、換気扇が回っていないことをなぜ分かるのか、という方が不思議なのだが。普通なら、『換気扇は回っていたか?』と聞くところだろう。
「さっきは悪かった。換気の事を持ち出したばっかりに、みんながパニックになって」
次に飛んできたのは、謝罪の言葉。別に、今謝られても終わったことは仕方ない。
しかし、この謝罪の言葉は、一つの事を意味していた。
『横岳はパニックには陥っていない』と。
「やらかした事は自分で落とし前つけるから、霧嶋、お前は対策でも考えとけ」
上から目線ともとれる言い方だったが、横岳なりの自己解決の方法なのだろう。そのまま横岳は、麻生と女子陣の方へと向かった。
横岳は冷静に動ける状態にある。横岳は、冷静になると本当に行動が早くなる。希望が少しは出てきた。
それに、もともとこの状態を作り出したのは亮平だと言ってもいい。人通りが少ない道を選んで、自分だけではなく班員全員にも危険な目に遭わせているのだから。仮にこれが戦争だとしたら、大戦犯確定だ。
残念だが、亮平に人を説得する能力はあまりない。ここは横岳を信じて、自分は作戦を考えることにした。とはいっても、既にある程度は固まってはいたが。
基本的に、数で勝てるとは思っていない。中学生6人と大人の男6人では、大人の男6人が勝つにきまっている。なので、作戦のメインは『どう逃げるか』に絞られる。
逃げるといっても、正面から突っ切るのは不可能に等しい。それでは数でぶつかるのと変わらない。
相手も人である以上、必ず隙はできるはずだ。油断して、監視の人数が少なくなることもあるかもしれない。だから、その生まれたわずかな隙を突く。
まず、どこかで監視が二人以下になった時がねらい目だ。なかなかその状況にならないかもしれない。男達全員に監視されたままになるかもしれない。その時はその時だ。
二人以下になったら、亮平がまず一人を倒す。倒せなかったら、それまでだ。
次に、残りの一人を全員で総攻撃する。さすがに全員で攻撃したら倒せるとは思う。監視を全員倒せたら、あとはひたすら、ただひたすらに逃げる。道路標識を当てにして、逃げるだけだ。
我ながらめちゃくちゃな作戦だ、と亮平も思ってはいる。しかし、それぐらいしかもう打開策はないのだ。ここは沖縄。近所の場所ではない。知らないところに連れていかれたら終わりだ。
「霧嶋、全員なんとか抑えられたから、今の内だぞ」
後ろを振り向くと、横岳含め班員全員が亮平の前に座っていた。うまく全員を説得できたらしい。亮平が同じ事をやっても、鵜の真似をする烏のごとく、全員を説得するのは無理だっただろう。
何が今の内なのかは、考えなくても分かる。このトラックが止まった時が、自由な時間の終わりを意味するのだ。時間が無い。
(頼むから、きちんと作戦が伝わってくれよ)
亮平は覚悟を決め、口を開いた。
注:決して現実の沖縄の治安が悪いわけではありません。この物語は、あくまでフィクションです。




