004 再会は突然に④
(注意)今回は未帆視点です。
「子供の時に見たよりビルが多くなってる」
市立東成中学校に転入する前の新三年生、西森 未帆はつぶやいていた。
もともとここら一帯は未帆が生まれ育った場所だ。小さいころは幼馴染の亮平や友佳と遊んでいたのを思い出す。
小学校に上がる二週間前にお父さんがいきなり転勤することになった時、未帆は驚いた。
そして、もう亮平達と遊べなくなってしまうかもしれないと分かった時、未帆は家のベッドで泣きじゃくった。
でも現実は変わらなかった。埼玉に引っ越し、小学校に入学した。最初は独りぼっちでさみしかったけれど、そのうち友達ができた。初めて声を掛けてくれたときは、うれしかった。泣くことも無くなった。
それでも、心の中から「亮平や友佳に会いたい」という気持ちが消える事はなかった。
今から三週間前、転勤でまた戻ってこれる事を知った。とってもうれしかった。そして、その街並みが目の前にある。
(私が学校に居たら、亮平はびっくりするかな?)
未帆はそんな気持ちを心のうちに秘め、一週間後の学校を楽しみにしていた。
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市立東成中学校一学期始業式の前日、未帆はベッドの上である手紙とにらめっこしていた。
「亮平の席は私の後ろかあ。これは、教室入った瞬間に見つかる可能性大だなぁ。」
今未帆が見ている手紙、それは自分のクラスの座席表だった。未帆は3ーAに入っている。
未帆は、できれば始業式の転入生紹介の時に亮平を驚かせたいと考えていた。それが、同じクラスの席も前後ということになると、バレてしまう可能性が高いのである。もしそれでも亮平は驚いてくれるだろうが、未帆としてはならべく遅らせてから驚かしたいという気持ちがある。当然、転校してきたことは亮平や友佳には伝えていない。
(そこは亮平が私より遅れてくれることを期待しよう)
友佳は未帆とは違うクラスなので、鉢合わせをしなければバレることはないだろう。
もし亮平にあってもバレないために、いつもつけているオリジナルヘアピンを変えようかとも思ったが、万が一亮平に転入生紹介で(同性同名の別人)と思われたら嫌なのでやめた。それでも一応教室で未帆だと分からせることができるのだが、それだと驚きが始業式と教室の二回に分散してしまい、一回一回の亮平の驚きが少なくなってしまう。
「教室で分からせないことと、紹介で驚かせることの両立は無理かなあ」
たくさん考えたせいか、まぶたが重くなってきた。時計に目をやると午後11時だった。
(私が遅刻したら意味ないし、もう寝よう。)
そう思って目を閉じた未帆を、睡魔は容赦なく襲った。
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「亮平が来ない...」
始業式の日の朝、未帆は3ーAの自分の席に着いていた。後ろの亮平の席には誰も座っていない。
未帆は時計に目をやる。登校時間は8時15分まで。なのに、もう8時13分だ。後二分。
(亮平、今日は休みかな?)
一分経った。まだ亮平は来ていない。今日は休みなのだろうか。もしそうだとしたら、きっと今日配られる手紙に転入生の事は書いてあるだろうから、バレてしまう。
「ドタドタドタドタ!」
その時、廊下の方から走る足音が聞こえた。その足音は3ーAに近づいてくる。
すでに担任と副担任の先生は教室にいる。ということは、まさか?
教室に、通学バックを背負った少年が慌てて入ってきた。そして、少年の席に滑り込んだ。未帆の後ろの席に。
(亮平だ!)
未帆は約8年ぶりに幼馴染の顔を見られて、嬉しかった。だがそれとは別に、もう一つの気持ちが湧いた。
(ど、どうしよう。こんなこと、小さいときは一回もでてこなかったのに。亮平に、亮平に..)
そう、8年前には持っていなかったであろう気持ちが。
(私、もしかして亮平のことを好きになっちゃったかもしれない。)
次回からまた本編に戻ります。