024 反撃への光②
注 「~を殴る」「~を蹴る」の対象は、六年生だけです。(決して亮平たちが全員サイコパスなわけではない)
日曜日。亮平は、横瀬さんの家にいた。横瀬さんというのは、亮平と同じく「六年に抵抗しようとする意志を持っている人」の一人である。
「じゃ、始めるよー」
そう言って確認をかけたのは、三岸さんだ。今日横瀬さんの家に集まった人は、全員亮平や横瀬さんと同じ意志を持っている人である。もちろん全員五年生だ。
最初に、全員「どうすればケガをさせずに相手を行動不能にできるか」について調べてきたことを発表することになった。発言された内容は、ホワイトボードに書き込まれていく。
全員の発言の内容をまとめると、だいたい同じ意見が多かった。大きく分けて二種類だ。
「みぞおちを殴る」と、「腹部を蹴るか殴るかする」という意見。どちらも、採用された。
ただ、どう攻撃するのかが一番効果的なのかは分からないのが不安要素だ。
(さて、唯一の不安要素をなくすためには、みぞおち殴りと腹部攻撃の練習をして・・・)
亮平の思考が止まる。周りの人も同じような回路をたどったらしく、表情が固まっている。
(これ、どう練習すればいいんだ?)
まさか、実際に人を使ってやるわけにもいかない。と、
「練習なら、人型の模型を作ってすればいいと思う」
誰が言ったのかは分からなかったが、たしかにその通りだ。
(なぜ、そんな簡単な事を言われるまで気付かなかったんだろう)
亮平は、自分がバカの一つ覚えみたいにすぐに完結させようとすることをやめたい、と思った。
早速、全員で人型の模型作りをした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
模型が完成し、しばらく亮平達は、模型の腹部を狙ったり、みぞおちと呼ばれる部分を拳で狙ったりといった練習をしていた。みんなを取り仕切っているのは三岸さんだ。
「みんな、そろそろ休憩しない?だいぶ練習した事だし」
その時だった。ガチャン!と大きな音が部屋のドアの方からしたのは。
今亮平達がいる部屋は、横瀬さんの部屋なので、横瀬さんの両親以外は入ってこないはずだ。だが、ドアの目の前に現れた人は、どうみても五年生の身長よりは高く、かといって大人よりは低い。
(ろ、六年生!?)
一人を除いてこの場にいる全員は思わず後さずりした。入ってきたのは六年生。この場に一番居てはいけない人だ。
「あー、まだ夏鈴から聞いてなかったかな?ども、こにちは。」
夏鈴というのは、横瀬さんの下の名前だ。この六年生は、きっと横瀬さんが呼んだのだろう。
考えてみれば当然のことだ。人の家に赤の他人が勝手に入ることができるわけがない。
「あー、ごめん。言うの忘れてたね。紹介するよ。こいつは私の兄貴」
横瀬さんから「兄貴」と呼ばれた六年生は、苦笑した。
「俺の名前は横瀬 将之。兄貴って程でもないけど、とにかく夏鈴の兄だ」
横瀬さんの兄貴(亮平はそう呼ぶことに決めた)は、続けて希望を打ち砕くような現実を口から出した。
「あのー。君らにとっては残念なお知らせなんだけども、それじゃ勝てないぞ。六年全員、去年一年間一つ上の人の暴力をずっと受け続けて、間近で『どうしたら効果的に相手を無抵抗にさせる事ができるか』を感じていたんだからな。」




