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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第十一章 迫り来る終末編(I want you to be by me...)

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#007 あけましておめでたくない。

 正月、ニューイヤーズデイ。一年が始まる日であり、大多数の日本人が自宅でゆっくりするであろう日である。お年玉、おせち料理などの伝統的な行事も多く存在し、それを心待ちにしている人々もいる。


 だが、一方で昔ながらの風流などガン無視する人間も存在する。春夏秋冬ゲーム三昧ネットサーフィン三昧の亮平がいい例である。亮平もそうだが、世の中の『行事』といったものに対してそもそも興味が湧いてこないのである。


 そんな亮平だが、今年は珍しく神社を訪れていた。動機はそんなたいそうなものではなく、受験の年とあって『合格祈願のお守りを買ってこい』と親に命令されたからである。布に文字が彫られただけのものに果たして御利益があるのかどうかは定かではないが、親の命令は絶対だという風潮がある。結果、亮平は乗り気ではないながらも雑踏の中を強引にすり抜けて行っているのである。


「ちゃっちゃとお守りだけ買って、帰るか……」


 亮平は、げんなりした。遠くに見えたお守り窓口は学生らしき人影の行列だったのだ。『行列』『人ごみ』『待ち時間』『待機』……。無駄は全て省こうとする効率全振りの亮平には、行列の待ち時間という青菜に塩ワードが二個も含まれている言葉は米一俵を肩に担ぐより重荷になるのだ。スマホ、携帯ゲーム機、友達、とにかく暇つぶし出来るツールがあればまた話は変わってくるが、独りである現状では飛び込みたくはない。


 とはいえ、行列に並ぶのが不服だからと言って周辺をウロチョロしているだけというのもまた無駄な時間になる。無駄な時間同士の比較となれば、もちろん行列に大人しく吸収されるほうがマシではある。


(そもそもお守りを買う理由も無いしな、親にそう言われただけで。七夕の短冊白紙で吊るしても特に罰は当たらなかったし、占いの『ラッキーナンバーは5、7、9』とか言われてテストの点数86点だったこともあるし。第一、土下座したところで神様は何も守ってくれないし)


 テストの件についてはこじ付けであることには触れない。短冊の『罰は当たらなかった』も、しょっちゅう未帆やら澪やら横岳やらに足を掬われていることが『罰』に当たっていたのかもしれない。確かなのは、神様が居ないことだけである。大日如来も不動明王もクソくらえだ。


 『親になんと言われようとシラを切ってやり過ごそう』。そう決意した亮平は、反転して未だ人波押し寄せる出入口を目指そうと、アリしか通れなさそうな隙間と隙間を繋いだ。その亮平の視界に、肩に着くかつかないかくらいにカットされた髪の毛を揺らしている女子の姿が入った。服装は和風……と言うわけではなく、防寒着で腹部がモリモリになっている。ただでさえ混雑しているというのに横に大きいため、周りの人からは『コイツ邪魔』という白い目が時折向けられている。後ろから容赦なく押し込まれるせいか、竹馬に乗っているかのように足取りの安定感がまるでない。


 亮平は、服装だけでその女子が誰なのかは容易に想像がついた。察しの通り、未帆だ。


(我ながら、知り合いに会う確率、とりわけ未帆か澪と遭遇する確率、高いよな……)


 体感ではなく、事実である。


「未帆―、邪魔になってるからとりあえずこっちに掃けてこーい」


 周囲に迷惑がかかっているのもいかがなものかと思うので、せめてまだ余裕がある神社の外れへと誘導しようとした。未帆が手を振っている亮平に反応し、チョコチョコと大集団から分離して亮平のところまでやってきた。


「奇遇だね、亮平も初詣来てたんだ」


「来たつもりは全くないんですけど……」


 初詣自体は耳にしたことがあるが、詳しい説明までは脳内辞書に記載されていない。もし知っていたとして、自分から外出するような面倒事はしないであろうが。


「ところで、未帆はやっぱり未帆のままなんだな。もうちょっと身軽な服装で来ないと、スペース取って周りから煙たがられるぞ?」


「だって寒いんだから、しょうがないじゃん……」


 未帆が口をとがらせて、うつむく。


「……遠目でも一人で勝手にわちゃわちゃとしてるところも未帆らしいぞ。しでかした失敗なんてどうでもよくなるくらいに」


 フォローの仕方が分からず、中途半端になってしまった。これでは、特効薬も毒薬に早変わりしてしまいそうだ。


 だがしかし、フォローもどきが未帆に意外に刺さったようで、先ほどまで肌色と白の中間色だった未帆の顔が、頬からほんのりと赤みが差した。


「失敗なんてどうでもよくなる……。ふぇぇ……」


「おーい、未帆さーん? これ見えるー?」


「見えてる……」


 生返事である。亮平の発言が何でも神格化されていないか心配である。『失敗なんてどうでもよくなる』のは未帆がアホ顔でてんやわんやしているからであり、それは未帆にとって好ましくない見られ方のはずだ。まあ、未帆が気をよくしてくれているのであれば、なによりなのだが。


「……そうだ! 亮平、新年のおみくじ引こうよ! 亮平の『運が無い』っていう独り言も無くなるかもよ?」


 やけにハイテンションである。未帆が思いつきだけで亮平に進言しようとする時は、だいたいこうなる。未帆も勢いくらいしか勝るものがないと感じているからだ。


「何を唐突にそんなこと」


「……ダメ?」


 いかにも『ダメなんて言わないよね?』と暗黙の了解を求めてくる目で首をかしげられて、心を鉄筋コンクリートにして突っぱねることが出来る男子などこの世に居ようか。いや、覚醒モードの亮平ならば一切の揺るぎも無く『ノー』だろうが、そういったイレギュラーを除けば居ない。


「引けばいいんでしょ、引けば」


 未帆に乗せられて、亮平達はおみくじ売り場へと向かった。今時おみくじなどインターネットでも引けるというのに、なぜお金を取られなければいけないのかが亮平にはよく分からない。本物である方がリアリティ(要するに御利益)がありそう(あくまで見た目だけ)なのは事実だとして、果たしてワンコインも価値があるものなのか。亮平の伝統文化への『なぜ?』の問いかけは、水に流れていく。


 亮平が思い描いていたおみくじというのは『木箱を下にすると木の棒が一本出てくる』タイプのものだったが、渡されたのはホッチキスで両端が留められた紙だった。流石に白紙ではなく、雰囲気づくりのためなのかピンクなり緑なりで縁取られているが、これこそまやかしなのではないだろうか。所詮、現代はビジネス思考、御利益より利潤優先なのであろう。


「中吉、かあ……。学業の運も星三つ(五段階)だし、微妙……」


 平凡中の平凡を引き当てて困惑している未帆をよそに、亮平もホッチキスの針を強引に破って中身をさらけ出す。



『大凶  金運……☆  福沢諭吉が飛んでいきそうな予感。

    学業運……☆☆ ヤマを張ると外れます。

     総合……( ゜Д゜)  災難、災難、板挟み!』



(……なんだこれ。おみくじって、こんなノリの文章がズラッと並んでるのか? それに、『板挟み』って……。なんで言い当てられてるんだよ)


 総合の欄はおふざけが過ぎると思うのだが、神社的にはアリなのだろうか。少なくとも、神は『何がおみくじだ! 何のための仏教だ! これはだめだろ!』と涙を流しているだろう。


「亮平はどうだった……ナニコレ。……き、きっといいことも起こると思うよ?」


 絶句していた亮平の手元を覗き込むように入り込んできた未帆も、あまりのおみくじの適当さに唖然としたようだ。励ますつもりなのか、肩を叩かれる。気持ちだけはありがたく受け取っておくが、加減の無さは四月から一向に改善の兆しが見られない。未帆らしいと言えばそれまでなのだが。


 かくして、亮平は未帆に揺らぶられ続けたのである。

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