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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第十章 第二次未帆ー澪戦争編(Will I have a good time in Christmas?)

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135 交渉下手

未帆視点です。

 『例え亮平がどんな状況だろうと、私が亮平の家に来たら門前払いせずに話を聞くこと! クリスマスの日が終わるまで限定でいいから、ね?』


 亮平に帰って欲しくなかった。一秒でも長くそばに引き止めたかった。未帆に亮平を拘束する権利が無いのは重々承知の上。だから、実現が難しそうなものを条件に出した。これで、亮平がもうしばらくの間この場に留まる。とどまっている間に亮平を丸め込めればそれでいいし、出来なくてもダメで元々。やってみるだけ得になる。そのはずだった。


「分かーったから……。どうぞ、来てもらっても。そもそも、昼間とかヒマな時間多いし」


「えっ……」


(あんな無茶苦茶な頼み事、通っちゃった……)


 そう、亮平が未帆の提示した言いがかりに近い帰宅条件を呑んでしまったのだ。



――――――――――



 時を少しさかのぼってみる。


「あーのなー。いつでもってことは、深夜とか明らかに活動時間帯外もってことだろ? そんな条件、どこの誰が納得するんだよ」


 未帆も、亮平が納得するとは微塵も思っていない。これで簡単に承諾する人がいたら、それこそ異常である。亮平の反応が普通だ。


 未帆としては、上手く話を有耶無耶にして本題をぼやけさせたい。物事は、複雑化すればするほど中身が分かりずらくなる。未帆は、引き延ばしにかかった。要するに、『時間稼ぎ』だ。


「じゃ、深夜とか亮平が活動してない時間帯は行かない。これでいい?」


 亮平が嫌がっている『活動時間外の訪問』を除いてみた。これで、亮平が断るには新たな理由が必要となる。


(でも、亮平に一言『とにかく帰る』って言われちゃったら、成すすべないよね……)


 ただ、その『理由』とやらは、そよ風が吹いただけで飛んで行ってしまうようなか弱いものだ。ゴリ押されただけでも、もうお手上げ。話が長引くかどうかすら神頼み。そんな状態にあった。


 間髪入れずに、亮平に追撃の狼煙を上げられた。


「追い払った十秒後くらいに改めてインターホン鳴らされて『さっきはさっき、今回は今回』って力づくで来られる気がするんだけども?」


(うん、思いついたらやってそう)


 悔しいが、亮平の言う事も最もなのである。亮平視点からすれば、屁理屈だろうとなんだろうと兎に角押し通そうとする未帆の姿が容易に想像出来る。それに、過去に未帆は『しない』と約束しておきながら一度破ってしまったことがある前科持ちだ。一つ目のことと言い、口約束をしても信じてもらうことは難しいだろう。何かしらの補正がかかったとしても、だ。


 少ないコストで大きな成果を生み出すことが出来れば当然その方がいいのだが、そうでない時もある。時には、ある程度リスクを背負わないといけない。相手と交渉するときも、一方的に自分だけが有利な交渉ではなかなか相手も了承しない。自分のリターンと相手のリターン、または自分のリスクと相手のリスクがつり合った時にだけ交渉成立するのである。


「それも、絶対にしない」


「それで破られることがないっていう確証はどこでしょうか?」


 きっと、亮平はここで『論破できた』と思っていたはず。過去の未帆は何も言い返せなかったのだから。


「言っとくけど、契約書とか引っ張り出してきてもダメだぞ。改ざんされるのがオチだから。俺が保管すればいいなんて考えは捨てる事」


 先読みしようとしてきた。未帆の考えとは被っていないものの、何故亮平が保管者でもダメになるのかが分からない。


「亮平が保管してて、何かダメなの? 亮平が気にしてるのは改ざんでしょ? その点、亮平が持っとけばその心配もなくなるわけだし」


「もし俺が内容を書き換えたとしたらどうするんだよ。破り捨てて無かったことにするかもしれないぞ」


「亮平がそんなことするわけない」


 亮平に今まで一度たりとも約束を破られた記憶はない。どんなに不満顔をしようと、取り決めは必ず守ってくれる。


「可能性は消えないだろ。ハイ、これで話はおしまい」


 亮平は平行線で言い合いになる可能性を嫌ったのか、強引に話題を完結させようとしてきた。『もう文句ないよな』と未帆をうかがっていることが表情に表れている。


 未帆も、このまま亮平を帰す気はない。まだ追撃の矢は残っている。


「確かに、契約書なんて書いてもダメそうなのは分かったけど。なら、約束破ったら私が不利益を被るようにするのは?」


「つまり、担保金でも支払うと?」


「なんでお金だと思っちゃうかなー……」


 担保金でも事前に未帆がリスクを冒している分、約束が成立しやすいのは確かなのだ。が、お金というものは、大人ですらトラブルの元になりやすい。ましてや中学生どうしなら、なおさらだ。


 未帆があらかじめ差し出すものは、お金のような実態の有るものなどではなく、


「もし約束破ったら、もう金輪際シカトされても文句言わないから」


 もちろん、シカトされる側は未帆である。


 自分の初期位置を相手よりも下げた方が、実を結びやすい。それは、どんな場面においても変わらない。受けるか受けないかの結論を出すのは亮平なのでそこは不可抗力だとしても、亮平の『約束を破ったらどうするか』という面での不安は取り除けたのではないだろうか。少なくとも、意志とやらは伝わったはず。


 だが、『無視してもいい』という一部分を切り取り、頭を冷やして考えてみると一般の人はおかしなことに気付くはずだ。この約束があっても無くても、『未帆を無視する』のは亮平の意志であって、未帆が干渉できる範囲ではない。約束を守っても無視されるかもしれないし、仮に未帆が破ったとしても『無視する』かどうかは亮平の自由なので、今まで通りの日常が続いていくかもしれない。


 つまり、この『未帆が約束を守らなければ、亮平は未帆を無視しても構わない』という未帆の担保は、意味をなしていないのである。もっとも、今回に限っては『約束を取り付ける』ということが目標として設定されていないので、何処かにおかしい部分があってもいいのだが。


「……そこまで言うか……」


 亮平の上まぶたが、少しだけだが上に跳ねた。亮平にとって予想外だったらしい。


(明日、どうしようかな……)


 一方の未帆はというと、もう明日の計画へと思考が移っていた。


 今日で二学期が終わったので、明日からは冬季休業期間へと突入する。受験生である未帆や亮平たちにとっては、三年間の総復習をするまたとないチャンスであることは言うまでもない。


 未帆も、『受験勉強』という悪魔じみた四字熟語から逃れることはできない。そのため、クリスマスまでは何も予定を立てない分、クリスマス以降に上乗せして勉強する計画を立てている。


(亮平に『冬休みどんな感じで勉強するの?』って聞いたけど……)


 亮平は、学年内でも上位に入るくらいの学力はある。それくらいは、未帆も分かっている。それでも、亮平に一言でバッサリとこう斬られた時は、流石に不味いのではないかと思ってしまったのだ。


『冬休みってもんは遊ぶためにあるんだから、遊ばないと』


(おかしいよ。何がって、全部が)


 小学生の言い分のようである。でも、これが現実に亮平から返ってきた返答だったのだ。塾で冬期講習を行っているところが山ほどあるというのに、亮平にとってはどこ吹く風らしい。


 脇道を進み過ぎてしまったので、本道に戻る。未帆がクリスマスまでの予定を空白にしてある理由は、ただ一つだ。


(何が何でも、澪ちゃんなんかに亮平をくっつけさせない!)


 雪合戦でKOされかけていたことは気にしない。クリスマスといえば、街中も装飾できらびやかになる。夜になれば、クリスマスツリーやショーウィンドウがLEDで照らされ、神秘的な夜景になる。


 そしてなんといっても、未帆にとって『クリスマス=カップルが結ばれたり近しくなったりする』というイメージがある。実際、カップルが街中を歩いていることも多い。


(亮平はクリスマスなんかに興味ないかもしれないけど)


 普段無気力そうにしている亮平のこと、もしかするとクリスマスに全く関心が無いかもしれない。それでも、未帆は『クリスマス』という特別な日だから、余計亮平と一緒に居たいのだ。


「ああ、うーん……。そこまで言うのならな……」


 亮平のつぶやきで、未帆の意識は引き戻された。


(!? 流石にないよね……)


 無理難題なのは亮平も十分把握しているはず。普通の感覚ならば、秒で断ってもいいはずなのだ。『未帆だから』一応考えてくれているのだ。


「分かーったから……。どうぞ、来てもらっても。そもそも、昼間とかヒマな時間多いし」


 亮平のその一言は、未帆が提示した条件を全面的に認めるものだった。



 ――――――――――



(今まであまり考えてこなかったけど、私がどんな無茶を言ってもある程度考えてくれてるよね……。横岳くんとか、クラスの男子の冗談まがいのものは即座に切り捨ててるのに)


 昨日の雪合戦だってそうだ。前が見えない状態で突進していった未帆を、ケガしないように抱きかかえて止めてくれる。澪ちゃんとグルになってイタズラしても、笑って飛ばしてくれる。未帆が何か迷惑をかけるたび、亮平はその全てを包み込んでくれていた。それが『優しさ』と呼べるかどうかは分からない。


(でも、ダメなことをしてしまっている時は、きちんとダメって言って欲しい)


 亮平に、なあなあ主義であってほしくない。亮平は、未帆の面倒を必要以上に見てしまっているのだ。それに甘えたくなってしまう自分もいるが、いずれは無くしていかなくてはならない。


「じゃ、帰る」


 とらわれる用事が無くなったと見て、亮平が再び玄関の方へと体を向きなおした。今度は、未帆も引き留めるようなことはしない。


「本当に、大丈夫? 本気で家来るよ?」


 亮平が撤回するようなことはしないと薄々分かってはいるものの、確認もしないで帰させるという選択肢はあり得なかった。


「冗談でも反故にはしないから、大丈夫―」


 そして、案の定であった。


 玄関の扉が閉まって、亮平の後ろ姿をとらえることが出来なくなった。


「あー、結局亮平に『好きだ』って伝えられなかったー!」


 未帆はしばらく、顔を両手で押さえながら床をゴロゴロと右に左にのたうち回っていたのだった。

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