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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第十章 第二次未帆ー澪戦争編(Will I have a good time in Christmas?)

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134 自由奔放

「納得してくれたようでなにより」


 ひとまず、未帆が引き下がってくれたことは大きい。これで未帆が引き下がらなければ、亮平にとって勝ち目の薄い争いを続けなければいけないところだった。


「……別に、納得したわけじゃないけど」


「でも、『責任取らせてくれ』っていうことには同意してくれたじゃん」


 未帆は、自分自身が気に食わないながらも納得したすぐ後に、否定まがいなことをよく口にする。これに対してどう返そうとすぐ引っ込むのであまり危険性はないが、唯一禁止事項が存在する。それは、未帆が無理やりにでも納得したであろう議案の決議をひっくり返すことである。


 決議をひっくり返すということイコール未帆の不満を解消できる、と考えてはならない。要は、『何のための言い争いだったのか』ということである。そもそも、未帆に不満が残るということは、亮平含む他者が押し通したということだ。それが所詮一言でひっくり返るような薄っぺらいものだとなると、『ならば押し通す必要はなかった』となり、不満が再燃してしまう。なぜ禁止事項がやけに詳しいのかについては、言うまでもない。


 本題に戻ろう。大体の場合、未帆は条件反射的に言ってしまっているので、追加で未帆が納得したことを再確認してやることが不穏な流れを断ち切る上で一番手っ取り早い。


「もうそのことはいい。……帰る気が無いなら、その場に座って?」


 未帆は吹っ切れたらしい。そして、亮平にその場に座るように促してきた。

 

(帰りたいか帰りたくないかと言われれば、帰りたいけども……)


 まだ、亮平が未帆の家に来てあまり時間が経過していない。未帆についてきたのは亮平。何かしらの理由が無いと帰りづらい。


 亮平は一度天井を見つめ、そしてUターンした。背後で『ブッ』と吹き出した音が聞こえた。


「えええ……。今の流れは、座ってまた長々と続いていく流れじゃなくて!?」


(いや、流れとか知らないです)


 確かに、時間はあまり経っていない。まだ雑談という雑談もしていない。特に緊急性のある用事も入っていない。流れ的に座るべきだ。いくつもの帰りづらい要因がそこら中に転がっていた。


 『これ以上居ても話しづらい雰囲気でもあるし、何より帰ってゲームでもしたい』。亮平の本音がそう叫んでいただけの話である。


「帰ろうかな、と」


 未帆が溜息をついた。


「亮平って、本当にそういうところあるよね。良くも悪くも、自分のことを貫き通してるっていうか。自分自身が最優先っていうか」


 信念を通すという意味では、的中している。帰りたかったら帰る、寝たかったら寝る。常識の範囲内で本能に流されるがままだ。


 しかし、『自分自身が最優先』は間違っている。正しくは、『周りの人が何か厄介ごとに巻き込まれることを防ぐ』ことが、亮平の中で優先順位が高くなっているのだ。特に、長い間隣にいる人ほど。


 いつから自己中心ではなくなったのだろうか、と記憶をさかのぼってみることがある。そして、必ず小学5年生で時が止まる。


 細川ら6年生らに抵抗した結果、友佳が刺された。出してはいけない犠牲者が出た。もちろん、犠牲の無い平和は存在しえないのだろうが、それでも亮平はあることを祈りたい。


 結局、『集団』ではある程度力があっても、『亮平』という個人では強大な力に対して全くの無力であることを知らされた。個人が強くないと、何も守れない。それなら、せめて周囲だけでもかばう。そういった固い意志が、今の亮平を形作っている。


 それでも、中学2年生まではあまり気にする必要はなかった。八条学園やらの厄介な奴らも厳重に監視されていたらしく遠征してくることも無く、特別気を払わなければいけないようなことも存在しなかったからだ。


 中学3年に上がると、様相は一変した。余りの暴力性に手が付けられないと見たのか、再び『奴ら』が野放し状態になったのである。亮平がインターネットで調べて判明したことだが、八条学園の欄に『要観察』マークが消滅していた。


 せめて、理不尽な暴力が亮平だけに一極集中してくれれば……。その願いは、そうそうに踏みにじられた。誰が指示したのかは不明だったが、ここ東成中学校が襲撃され、生徒の中から負傷者が数名出た。


(『周囲から順番に襲撃していく』と宣戦布告してきたと捉えて、警戒心が一層強くなったのもこの辺からか……)


「……まあ、私のわがままを聞いてもらったんだから、引き留める権利なんてないけど」


 底なし沼に沈みかけた亮平の思考が、未帆によって吊り戻された。一度物事を考えだ明日と止まらなくなるのは、日ごろの悪い癖。気力で直すことが出来るならば、とうの昔に直っている。


「聞―いーてーる?」


 亮平がずっと無反応だったからだろう、未帆に肩を激しく揺さぶられた。一回目で激しくしなくてもいいだろうとも思ったのだが、未帆の感覚が『ちょっとだけ』だった可能性も否めない。指摘しても、直るわけではないのは亮平のクセと同じだ。


 亮平は、未帆の方へ身体を反転させた。


「ごめん、ちょっと考え事してて」


 未帆の視線がやや上を向き、頭が斜めに傾いた。


「亮平って、いっつも何考えてるの? 『ボーっとしてて、俺ですら頭の中がどうなってるのか知らない』って横岳くんも言ってたけど」


(横岳にまで情報収集の手が伸びてるのか……。あいつ、いらないことまでペラペラ未帆とか澪に話してそうで怖いな)


 今回は幸い、横岳も解を持たなかったからよかったようなものの、大体のことなら横岳は亮平のことを知っている。自分のいないところで個人情報が流れることは決していい気はしない。


「大丈夫、俺ですらよく分からないから」


「いやいやいやいや、それは大丈夫じゃないよ!?」


 さきほどは珍しく考えるテーマが存在していたが、平常時はのほほんと空想に明け暮れているということは隠しておく。未帆もツッコミこそ入ったものの、核心に迫ろうとはしていない。


「で、帰ってもいいですか?」


 本題が霞んでしまわないように、もう一度提示しておいた。


(とりあえず、ネタじゃないってことを分かってもらわないと)


 『ネタだ』と決めつけられて無視されては、帰ろうにも帰れない。『YES』か『NO』のどちらかの答えが無いと、行動しようにもできない。


 割と真面目な顔で質問したせいなのか、未帆に怪訝な目で返された。


「……本気だったんだ。『亮平なりに考えて、場を和ませてくれたのかな』って思ったのに」


(その意図は無かったけど、結果的にそうなったんじゃないか?)


 一時の泥沼状態からは抜け出し、ようやく話の流れを掴むことが出来るようになっていたとはいえ、場の硬さはまだ引きずられていた。亮平の『もう帰る』発言は、意図していなかった『場を和ませる』というプラスの方向へも流れたのではないだろうか。


 未帆は、さらに続ける。


「どうぞ! でも、勝手に家の中探索だけはしないでよね!」


 無理矢理に亮平を引き留めることは諦めたようである。少なくとも、身体が千切れそうになる目に遭わされることは無さそうだ。


「まるでいつも探索してるみたいに言うなよな……」


 そもそも、亮平が未帆の家に入るのはこれが初めてなのだが。それに、他人の家で勝手に部屋漁りをしたことは一度も無い。亮平の身は潔白だ。


「その代わり」


 未帆におもむろに指を差された。先ほどの『帰ってもいい』という承諾との交換にするつもりだったのだろう。タダでは帰さない、といったところだろうか。正直、タダで帰して欲しい。


「例え亮平がどんな状況だろうと、私が亮平の家に来たら門前払いせずに話を聞くこと! クリスマスの日が終わるまで限定でいいから、ね?」


 『ね?』ではないだろう。全く割に合っていない。天秤にかければ『今帰ることが出来る』の方が空高く舞い上がっていくだろう。未帆の『ソレ』は、食事中だろうと勉強中だろうと関係ないというニュアンスが込められているだけに、余計に不公平だ。


「待った。未帆の許可があろうとなかろうと帰ることは出来るだろ。だから、貸しになってない」


(『初っ端の未帆の一方的なやつに付き合ってる』っていう貸しはどこに消えたんですか?)


 最も、放課後すぐの出来事については、未帆が内訳をばらして引き下がろうとしていたのにも関わらず『一緒に行く』と言った亮平の勝手だと言われれば、反論が出来ない程度なのだが。


 見えないオーラに押されたかのように、四分の一歩下がる未帆。


「じょ、冗談に決まってるじゃん……」


 そして、未帆が視線を亮平からやや斜め上に逸らした。


 『冗談だ』と言い張った割には、語尾が尻すぼみになっている。呆れられたという感じも無かった。少なくとも、完璧に冗談だったわけではなさそうだ。


「……」


(えーっと、何言おうか……)


 亮平は言葉に詰まった。とりあえず未帆が出した提案を全否定するのか、完全無視して帰るのか、それとも……。亮平が一切視線を未帆から離さないまま自分の思考に潜ったことで、結果的に未帆に無言の圧力を押し付ける形になった。


「……そんなに圧さないでよ。ダメ元で頼んでみただけ。ワンチャンス、受けてくれるかなと思ってたけど……」


 どこにワンチャンスの要素があったのか。ワンチャンスどころか、ネバーだと思うのだが。亮平の心理を読んだのかもしれないが、残念ながら、無茶な頼み事をなんでもかんでも受け付けるほど亮平はフリーパスの手荷物検査ゲートではない。だいたいフリーパスなような気がしたが、そこは無視することにした。


「あーのなー……」


 亮平は、未帆をたしなめに行った。未帆の甘い憶測をキッパリと否定するために。

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